<中井貴一>現役力と使命感が見せる演技




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中井貴一、2023年でなんと62歳。

ちょっと驚きです。というのも、いまだに主演映画・主演ドラマが続いているためです。

佐藤浩市と同様に、父や祖父といった役になりそうな年齢なのにまだまだ普通に主演、さらに年齢を武器にしないキャラクターでの主演が続いています。彼自身の若々しさに加えて、周りの需要もあってこそとはいえ、非常に稀有な例といえるでしょう。

まさに“現役力”がダントツです。

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ドラマではバリバリ主役



もともと1980年代の「ふぞろいの林檎たち」シリーズなど、若手の頃から大ヒット作が多かった中井貴一の近年の大きな転換点になったのは、2012年から2014年にかけて放映された小泉今日子とのW主演作「最後から二番目の恋」だったと思います。

この辺りで中井貴一は、“枯れ”と“コメディ”をうまく融合させて“渋み”に昇華させました。

同じ路線で、俳優人生を豊かに伸ばしたタイプでいうと田村正和がいました。彼も二枚目路線からコメディ路線にうまくスライドして、俳優人生後半戦に代表作ともいうべき「古畑任三郎」に出会いました。

中井貴一の“渋い”路線はうまく世間の需要とはまりました。

結果として、2020年の芸能界の内幕もので鈴木京香と共演した「共演NG」2021年のWOWOWの大作「華麗なる一族」、昨年2022年は岡田将生とW主演の「ザ・トラベルナース」と年に1本は主演連ドラがある状況が続いています。

希少ジャンルの担い手として

(C)2003 松竹/テレビ東京・テレビ大阪/電通/衛星劇場/カルチュア・パブリッシャーズ/IBC岩手放送

映画・ドラマで一線級の活躍を見せてくれる中井貴一は、日本エンタメの“希少ジャンル”の担い手としても重要な存在であります。

日本エンタメで希少なジャンルといえば、時代劇とコメディ(=喜劇)です。韓国や中国圏では時代劇が人気ですが、日本では時代劇は完全に希少ジャンルです。ハリウッドの西部劇などと同じ立ち位置かもしれません。

日本では「水戸黄門」「大岡越前」「暴れん坊将軍」「鬼平犯科帳」などの民放レギュラー放送の時代劇がなくなって久しく、かろうじてNHKが大河ドラマとミニシリーズを制作しています。

そんな中で、時代劇を支えてくれている1人が中井貴一です。NHKの大河は主演の「武田信玄」を含んで5作品に出演しているほか、2013年から続く主演シリーズ「雲霧仁左衛門」は2022年までに5シリーズを重ねています。

映画では2000年代前半辺りから積極的になった印象です。この頃は山田洋二監督の『たそがれ清兵衛』から始まる藤沢周平作品のヒットの影響もあってか、にわかに時代劇映画制作が進みました。

中井貴一は2003年の『壬生義士伝』から始まり、『次郎長三國志』『天地明察』『柘榴坂の仇討』『花戦さ』『大河への道』とコンスタントに時代劇に出演しています。

(C)2003 松竹/テレビ東京・テレビ大阪/電通/衛星劇場/カルチュア・パブリッシャーズ/IBC岩手放送

浅田次郎の原作を映画化した『壬生義士伝』は近藤勇らが一目を置いたという、知られざる新選組隊士・吉村貫一郎を主人公にした物語で、この役を演じた中井貴一はこの演技で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞しています。

『壬生義士伝』は、斎藤一に佐藤浩市、沖田総司に堺雅人がキャスティングされています。三谷幸喜の「新選組!」以前の話であり、双方ともにどこまで分かっていたのか不明ですが、こんなキャスティングがあるのかと驚きました。

(C)2003 松竹/テレビ東京・テレビ大阪/電通/衛星劇場/カルチュア・パブリッシャーズ/IBC岩手放送

『壬生義士伝』は批評の面だけでなく、興行の面でも健闘して時代劇の命脈を保ちました。

当時私は映画館でアルバイトしていて、『壬生義士伝』の上映ではかなり混雑した印象が残っています。

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(C)2022「大河への道」フィルムパートナーズ

直近の中井貴一の時代劇『大河への道』では時代劇と現代劇のハイブリッドのようにしたうえで、北川景子や松山ケンイチ、岸井ゆきのといった“今の一線の人たち”をキャスティング。時代劇の間口を広げようとしていることを感じられる1本です。(ちなみに本作では、中井貴一は“企画”にもクレジットされています)

最新作『噓八百 なにわの夢の陣』はコメディシリーズ第3弾

(C)2023「嘘八百 なにわ夢の陣」製作委員会

コメディ(=喜劇)でいえば何といっても『嘘八百』シリーズでしょう。2018年から2~3年ペースで新春に公開されている、佐々木蔵之介とのバディものです。

古美術に関わる事柄というお約束事を踏襲しつつ、毎回手を変え品を変え楽しませてくれる『嘘八百』シリーズは、昭和の頃に大量に作られたプログラムピクチャーの香りがします。



1月6日(金)公開の『噓八百 なにわの夢の陣』は秀吉にまつわる幻の古美術品をめぐって、お馴染みの面々に加えて関ジャニ∞の安田章大や中村ゆりが右往左往します。

中井貴一は三谷幸喜の『記憶にございません!』や君塚良一の『グッドモーニングショー』でも主演を張っており、バリバリのミリタリーものである『空母いぶき』でも1人でコメディパートを担っていました。

NHKの昼食をテーマにしたバラエティ「サラメシ」の軽妙なナレーションや、ミキプルーンのCMなど、軽妙洒脱な雰囲気は替えの効かない味になっています。

キャリアのある者としての使命感

(C)2023「嘘八百 なにわ夢の陣」製作委員会

中井貴一の父親は昭和の映画スターの一人で37歳の若さで早逝した佐田啓二で、昭和からの映画ファンは中井貴一を佐田啓二の息子として見ていた人も少なくないかもしれません。

同じタイプともいえる俳優の佐藤浩市も、すごい父親を俳優に持つサラブレッドですが、両人とも本人の努力と研鑽もあって“2世感”を感じる人はもういないでしょう。(佐藤浩市に至っては息子である寛一郎も今や一枚看板の若手人気俳優の1人です)

映画スターだった父・佐田啓二が亡くなったのは中井貴一が2歳の頃のため、中井貴一自身が父親の活躍や日本映画の黄金期を見て来たということはないのでしょうが、それでも環境とキャリアから、おのずと日本のエンタメのあり方、現在地点に感じる部分があるのでしょう。

一般的な需要に応えつつ、時代劇やプログラムピクチャー的な喜劇に出続けている中井貴一の姿を見ると、日本のエンタメの振り幅と深さを保ち続けられるために動くというある種の使命感を見受けられます。

(文:村松健太郎)

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| 2003年 | 日本 | 137分 | (C)2003 松竹/テレビ東京・テレビ大阪/電通/衛星劇場/カルチュア・パブリッシャーズ/IBC岩手放送 | 監督:滝田洋二郎 | 中井貴一/三宅裕司/夏川結衣/塩見三省/堺雅人/野村祐人/斎藤歩/堀部圭亮/塚本耕司/比留間由哲/神田山陽/加瀬亮/山田辰夫/伊藤淳史/藤間宇宙/伊藤英明/村田雄浩/中谷美紀/佐藤浩市|

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