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映画コラム

REGULAR

2023年01月12日

映画『SHE SAID』キャリー・マリガンの迫力に #MeToo の“新たな波“を起こす力強さを感じた

映画『SHE SAID』キャリー・マリガンの迫力に #MeToo の“新たな波“を起こす力強さを感じた


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2017年にネット上を騒がせた「#MeToo運動」。その火種となった事件を基に、綿密な取材によって描かれた映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(以下、『SHE SAID』)が2023年1月13日(金)に劇場公開される。

主演を務めるのは、『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)のキャリー・マリガンと、『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(2017)のゾーイ・カザンだ。

ハリウッドに名を轟かせた、超有名プロデューサーによる数々の性犯罪事件。被害者の女性たちは、訴えたくても声を上げられない状況に追いやられていた。

勇気ある2人の記者が立ち上がり、闇に葬られようとしている真実を表舞台に引っ張り出そうと、行動を起こす。

迫力溢れる演技と、生半可な覚悟では世に出せなかったであろう胆力ある脚本。この映画は、観客に「見て見ぬふり」をさせない。



キャリー・マリガンの圧倒的演技

キャリー・マリガンが主演を務めた映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)も、性犯罪者に復讐しまくる、ある意味スカッとするスリラー作品だ。

(C)Universal Pictures

かつて性犯罪の被害を受けたにも関わらず、さらなる二次被害の犠牲となり自死してしまったニーナ。

彼女の無念を晴らすべく、親友のキャシー(キャリー・マリガン)が立ち上がる。昼はコーヒーショップのバリスタだが、夜になると、のうのうと生きている性犯罪者を見つけては鉄槌をくだしているのだ。

作風はまったく異なるが、「野放しになっている性犯罪者を始末する」といった展開は共通している。


『SHE SAID』は、キャリー・マリガン、ゾーイ・カザンのふたりが演じる新聞記者が、映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタイン氏の性犯罪を糾弾する物語。彼の過去を詳らかにするとともに、被害者である女性たちの証言も含めた記事はビッグウェーブとなり、日本にも「#MeToo運動」として届いた。

記者たちが真実に気づき、被害者の女性たちにまつわる情報を集め、証言を取りに行く過程が丁寧に描かれている。その道のりは、決して平坦ではない。


女性たちは声を塞がれていた。証拠がない、示談に応じている、守秘義務契約を結ばされているため、訴えることができないなど、さまざまな理由で。いったん腕を下ろした女性たちの気力を取りもどすためには、記者たちが持ち得る忍耐を総動員しなければならなかった。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』でも、性犯罪者に復讐するサイコキラー的な演技が光ったキャリー・マリガン。今作では、また違った迫力がある。絶対に性犯罪者を許さない決意、そして、被害者ではなく加害者を守る法に対し、断固たる態度で「NO」を突きつける強さが感じられる。

報復が怖く、なかなか証言に応じようとしない被害者たちに対し、挫けず懸命に向き合おうとする姿勢に胆力がある。調査や証言集めが難航するなか、とあるカフェでのシーンは圧巻だ。

八方塞がりになりかけたトゥーイー(キャリー・マリガン)に、酒に酔った男性が下品な様子で話しかける。それを怒涛の剣幕で追い返すのだ。事情を知らない男性側にとっては災難だったかもしれないが、ここに至るまでの苦労や切実さを思い返すと、彼女のなかに蓄積されたやるせなさや疲れが、一気に噴出したシーンとも取れる。

日本にも「真実を無視しない」作風の波が?

スクープに迫る、大罪を犯していながら罰を免れている人間を糾弾する作風や作品は、日本にも増えてきている。

2020年放送のドラマ「知らなくていいコト」(日テレ系列)や、2022年放送の「エルピス —希望、あるいは災い—」(カンテレ)などが代表例だろう。どちらも、世間や国家を揺るがす大スクープに迫る物語だ。

「エルピス」で長澤まさみが演じた女性アナウンサー・恵那は、作中で繰り返し「おかしいと思うものを、飲み込んじゃダメなんだよ」「私はもう、飲み込めない、これ以上」と言っている。

おかしいものは、おかしい。違和感を覚える対象には、堂々と意見を伝える。たったそれだけのことが、どんどん難しくなっている。

そこには、組織特有の忖度や、立場をわきまえた配慮など、目には見えないあらゆる事情が絡んでいるのだろう。そんな現実の空気が、上記に挙げたような作品にも反映されている。


「#Metoo運動」が爆発的に広まったことからもわかるように、明らかに「おかしい」ことなのに野放しになっているケースは数えきれない。

そして、声を上げたくとも封じられた被害者の数も、比例するように増えている。声がないから目に見えないし、目に見えないから問題にされにくい。しかし、「苦しいのは自分だけじゃない」と勇気を得た被害者たちは、ひとたび勇気を得れば強く立ち上がる

スキャンダルやゴシップを題材にした作品は数多い。それが実話を基にしていればなおさら、センセーショナルで話題も呼ぶ。

しかし、一過性のブームとして捉えてはいけないし、終わらせてはいけない。「#Metoo運動」が世界的なムーブを起こしたように、私たちはひとりひとりが「加害者になり得ること」を自覚しなければいけないし、「被害者である可能性」にも気づき、声をあげる勇気を持たなければいけない


『SHE SAID』は、"新たな波"の基点となる作品なのではないだろうか。

(文・北村有)

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