(C) 2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会

『そして僕は途方に暮れる』は藤ヶ谷太輔が熱演するダメ人間版『すずめの戸締まり』だった!

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2023年1月13日より、『そして僕は途方に暮れる』が劇場公開されている。結論から申し上げれば、本作は早くも今年ベスト候補、胸を抉られるような映画体験ができる傑作だった。

なにより賞賛すべきは、同作の舞台版に引き続き主演を務めたKis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔。「アイドルだよね?」「キスマイの人だよね?」と良い意味で不安にもなってしまうほど、鬼気迫るという言葉でも足りないほど、後述する「この役」を演じ切ったことを誰もが賞賛するのではないか。

そして、本作ははっきりとダメ人間版『すずめの戸締まり』であると明言できる内容でもあった。



クズの生態を観察するブラックコメディ

本作のあらすじを端的に記せば、「同棲していた恋人から逃げ出したフリーターの男が、知人や家族の家を渡り歩き、その人間関係を次々に切っていく」というもの。端的に言って主人公は「駄目だこいつ…早く何とかしないと…」と思わせるほどのダメ人間。そのクズっぷりに良い意味で笑ってしまう、もしくはドン引きすらしてしまう内容である。

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具体的には、こいつは親友のところに上がり込んでずっと居候をしていて、家事をまったくせず、寝転がりテレビをヘラヘラと笑いながらダラダラ観ていて、ついさっきまで温厚だった親友にキレられる様はギリギリ笑えるか笑えないかの境界線(個人的には苦笑した)。その後もこの主人公はバラエティ豊かなクズっぷりを見せるので、情けないを通り越してなんだか愉快になってくる(※感じ方には個人差があります)。本作はそんなクズの生態を観察する、黒い笑いに満ちたブラックコメディなのだ。

それこそ、ダメ人間版『すずめの戸締まり』と言える理由でもある。『すずめの戸締まり』は「素直で聡明な女子高生が主人公で」「出会う人それぞれに感謝を告げ」「善意が善意を呼ぶ尊い物語」が紡がれていた。それに対し、この『そして僕は途方に暮れる』では「自堕落な生活を送るフリーターが主人公で」「見知った人それぞれの恩をあだで返して」「真っ当なお叱りをもらうたびに逃走を繰り返すしょっぱい話」である。両者は「住まいを渡り歩いていくロードムービー」であることは共通しているのに、ここまで正反対なのはいっそスガスガしいではないか。

個人的に笑いの最大瞬間風速が吹き抜けたのは、終盤のとある「食べもの」である。個人的に「食事シーンが面白い映画は全部面白い」法則があるとは思っていたが、この『そして僕は途方に暮れる』でも見事に当てはまった。

反感VS共感の感情の揺れ動きがぶっ続くジェットコースター

そんな主人公は(特に序盤は)同情できることも少ない。何しろ、そもそもの恋人を裏切って逃げ出した理由は自身の浮気がバレたためであり、完全に自業自得。人によっては必要以上の嫌悪感を彼に抱きかねないし、その時点で一定の賛否両論も呼ぶかもしれない。

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だが、情けない自分の失敗から、この場から逃げたくなる、いや全てを投げ出したくなるというのは多かれ少なかれ、人生にはあることだろう。そのダメさやクズさも程度の差はあれど「自分にも思い当たるところがある」方は確実にいるとも思うのだ。

何より、主人公のクズぶりにイライラしたり、情けなさすぎて笑ったかと思えば、(後述する理由で)いつの間にか共感していて応援したくもなってくるという、自分の感情がジェットコースターに乗ったかのように揺さぶられる内容でもある。公式の触れ込みである「共感と反感の120分!『すべてを捨てて逃げ出したい』衝動を赤裸々に描く《現実逃避型》エンタテインメント!」は完全に正しい。

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