「マエストロ!」のリーダー像:映画「マエストロ!」作品レビュー
「お前ら今日が、この演奏が最初で最後や思うて弾いたことあるか?」
天道徹三郎(西田敏行)は、演奏を「決闘」と呼んでいる。そんな彼は、精鋭ヴァイオリニストの香坂(松坂桃李)が率いる、「負け組楽団」に指揮棒…いや、トンカチで指揮をするマエストロだ(日によってはトンカチがドライバーになる)。
40人はいる大きな名門オーケストラ。不景気により解散していたが、ある日復活に向けてのコンサートの話が舞い込んでくる。
ただ、活動資金が無い故リハーサル場所は廃工場。長い間演奏していなかった為に音にまとまりがなく、全員の士気は下がっている。
そんな時に指揮者として現れたのが、明らかに近くの工事現場で働いている天道だった。
その格好に困惑するバンドメンバーだが、リハーサルは始まる。果たしてコンサートはどうなるのかー?
リーダー像から見る「マエストロ!」
本作品、音楽の素晴らしさやユーモアも目玉だが、タイトルが「マエストロ!」(指揮者)であるように、リーダー像という観点から見てもおもしろい。
私たちの周りや映画の登場人物にはいろいろなリーダーのタイプがいるが、その中でも天道は風変わりである。
まず、あの「工事現場のおっちゃん」のスタイルから指揮者を連想するのは非常に困難だ。しかしリハーサルを始めると指揮の腕前は超一流であり、音楽の知識や経験も豊富である。
だが指導を始めると非常に厳しく容赦のない男である。
下手な演奏に対しては妥協をせず、満足のいかない奏者を全員の前で立たせ、一人で演奏するよう命じる程だ。
その格好と指導方法から、楽団は天道の事を嫌ってしまう。
だがリハーサルを積み重ね、個人との関わりも増えてくると、彼の面倒見の良さや音楽への情熱が楽団にも伝わり始める。
そして何より、リハーサルを通して、各人の腕前とオーケストラ全体が上達しているという実感が楽団に芽生えてくる。
そして迎えた本番のステージ。
緊迫した奏者の表情から伝わってくる一拍一拍のサスペンス。楽団全員が天道の指揮を頼りに音を奏でていく。
演奏は今までで最も良いものになり、最後の音符を弾き終えた後に感じる余韻は、この上ないものであった。
楽団員たちが得た至極の体験
指導者として最高の結果を導き出す実力を持ち、目標を達成する為にはアメとムチの両方を使う。リーダーとして必要な要素だ。
だが本作品で最も印象的だった天道のリーダーシップの素晴らしさは、本番の演奏を通してオーケストラに改めて音楽の儚さ、神秘性、美しさを体感させた事である。それはまるで、今まで見たことないような美しい景色を見られたような体験に近いかもしれない。
この経験は、楽団員達にとって、今後音楽をやっていく上でのヴィジョンと理由になる。
彼らにそのような哲学、希望を生み出したのが、天道の持つ最高のリーダーシップと言えよう。
このとても風変わり(だが超一流…)のマエストロと楽団による圧巻の生演奏。
そして作品を通して私達観客にも伝わってくる音楽の素晴らしさ。
是非スクリーンと大音量のスピーカーで、お楽しみあれ!
映画「マエストロ!」公式サイト
(文・なぎさ)
なぎささんの投稿レビュー
「ウィスキーと合うシネマ、『紙の月』」
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