インディペンデント映画誌『ムービーマヨネーズ』編集部が選ぶ、人生を変えた映画三作品


『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』

伝説のフォークシンガー、ボブ・ディランを追った初のドキュメンタリー映画。監督は『タクシードライバー』などでもおなじみのマーティン・スコセッシ。貴重な資料の数々とディランへの10時間を超えるインタビューで映画は構成される。日本では2005年に公開。配給:イメージフォーラム

ディランの音楽と自由を求める生き方に夢中になった

子どもの頃は親に連れられて映画館に行くのが楽しみだった。1985年生まれの私は初めて劇場で観たジブリ映画が『魔女の宅急便』、最初のスピルバーグ映画が『ジュラシック・パーク』という世代(これらは時代を象徴するいわば示準化石である)。しかし「人生を変えた映画」は、自らの意志で劇場へ足を運んだ映画がふさわしい気がする。そしてまだ世間を知らず、自分のことすらよくわかっておらず、観たことのない映画ばかりだった若い頃に出会った作品を選びたい。大人になった今でも価値観を揺さぶられる映画はあるが、悲しいかな、多くの場合はいつか観た別の映画と同じ引き出しに入れてしまいがちである。

前置きが長くなった。大学一年生の頃に観た『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』が私にとっては「人生を変えた映画」だった。何者でもない青年ボブ・ディランがニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジで成長を遂げ、60年代フォーク・リバイバルの中で時代の寵児になるパート1と、エレクトリック・サウンドとドラッグを手に入れ、世界ツアーでファンの愛憎を一身に浴びながら激しく燃焼していくパート2の二部構成。ディランは若造の私にとってロール・モデルとなり、彼の音楽と、自由を求めるビートニク的な生き方に夢中になった(マーティン・スコセッシ監督のストーリーテリングも素晴らしかった)。

それは音楽ドキュメンタリーというジャンルに触れた最初の経験でもあった。「風に吹かれて」や「ライク・ア・ローリング・ストーン」のライブ演奏をスクリーンで追体験し、映画を通して多くの素晴らしい音楽があることを知った。

この映画が私の人生をどのように変えたか、それを正確に言い表すことは難しい。だが昨年自主配給した『アザー・ミュージック』がグリニッチ・ヴィレッジからほど近いレコード店についての映画だったのは、私にとっては単なる偶然以上に、必然的な帰結であったように思うのだ。

(文・関澤朗)

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