中国映画だけどJホラー?『戦慄のリンク』がホラーファンに刺さりまくるワケ
あなたは「Jホラー」と聞いて、どんなタイトルを思い浮かべるだろうか。
Jホラーブームを巻き起こすきっかけとなった、中田秀夫監督の『女優霊』や『リング』。あるいは清水崇監督の『呪怨』シリーズ。近年の作品なら作家・乙一の長編監督デビュー作(安達寛高名義)『シライサン』や、斜め上どころか直角にストーリーが飛躍する『真・事故物件』シリーズを挙げるかもしれない。
では──「Jホラーの父」と聞いて浮かぶのは誰か。Jホラーの隆盛をリアルタイムで目の当たりにしてきた古参ファンなら、即答で「鶴田法男」監督の名前を出すに違いない。
90年代にビデオ映画『ほんとにあった怖い話』シリーズや『リング0 バースデイ』『予言』『おろち』といった作品を放ち、日本にホラージャンルの人気を根づかせた鶴田監督。そんなJホラーの父による映画『戦慄のリンク』が、2月24日(金)よりプレミアムTVODで解禁となる。
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海を渡ってやってきた『戦慄のリンク』とは
▶︎『戦慄のリンク』画像を全て見る昨年12月23日(金)に劇場公開されたばかりの『戦慄のリンク』。筆者は公開前に映画館でパネル展示されているのを目にして鑑賞を決めたのだが、情報収集時に本作が“中国映画”だと知って驚いた覚えがある。
そもそも本作は中国の小説家マ・ボヨンの「她死在QQ上」が原作。あるインターネット小説を読んだ登場人物たちが無惨な最期を遂げ、真相を究明しようとする若者たちにも死の気配が襲いかかるサスペンススリラーだ。
事件を調べる主人公ジョウ・シャオノア役は『西遊記 女人国の戦い』や『花より男子』の中国リメイクドラマ『流星花園2018』などに出演したスン・イハン。W主演として、台湾ホラー『返校 言葉が消えた日』でメインキャラのひとり・チャンを演じたフー・モンボーが起用された。
前述のとおり、物語はネット小説「残星楼」をきっかけに惨劇の幕が開く。犠牲となったのは小説家志望でシャオノアの従姉タン・ジン。身に迫る恐怖をシャオノアに訴えていたものの彼女は帰らぬ人となり、公安警察は検視の結果から自殺の線に傾いてしまう。
タン・ジンからメッセージを受け取っていたシャオノアは、公安警察の捜査に納得できるはずもない。そこで犯罪心理学に詳しい大学生マー・ミンとともに事件の真相を追うが「残星楼」に関わった人物がひとりまたひとりと命を落としていく……。
中国だからこそ生まれたサスペンススリラー
▶︎『戦慄のリンク』画像を全て見る本作のあらすじを聞いて、ホラー映画ファンでなくても“呪いのビデオテープ”に端を発した『リング』を思い出すだろう。確かにネット小説へとかたちを変えているものの「残星楼」に関わった人物が相次いで悲惨な最期を遂げるのだから無理もない。
もちろん本作は呪いのビデオの二番煎じということは決してなく、物語が進むごとに見えてくる事件の輪郭に触れて「なるほど、そういうことか」と腑に落ちるはずだ。
本作は結末に向かってミステリ的な趣向もあるため詳細は伏せるが、事件は犠牲者たちが垣間見る世界そのものに鍵があるといっても過言ではない。そして犠牲者たちが共通して目の当たりにする、じりじりと近づいてくる“それ”の存在──。
ぼさぼさに乱れた長い髪、白い服で現れる“それ”。現実と虚構の世界をシームレスに描く中、有無を言わさず迫ってくる“それ”の恐怖演出はまさに鶴田監督の真骨頂ともいえる。
…… のだが。じつは中国では国の方針により「幽霊の存在を認めてはならない」という制約があることを念頭に置いておかなければならない。などと偉そうに書いているが、筆者も不勉強なもので本作公開時にそんな制約があることを初めて認識した。
当然映画の中でも同様で、“それ”が幽霊なのか、そうではない“何か”なのか気にかけながら観ていると自ずと印象が変わってくるはず。
ではそれで恐怖が半減するのかと聞かれれば、答えは「ノー」だ。これは褒め言葉として、とにかく鶴田監督の恐怖演出に対するこだわりは本当に厭らしい。ホラーではなくサスペンススリラーにカテゴライズされた作品だが、本作のルックは紛れもなくJホラーの様相だと断言できる。
中国映画でありながらJホラーの様相というのも妙な話だが、改めて予告編を見ていただければ筆者の言いたいことが伝わるのではないか。予告編に限らずポスタービジュアルから劇中スチールに至るまで、要はどこを切り取っても“Jホラーぽさ”が伝わってくる。
これは「鶴田法男監督だから」ということに限らず、撮影・編集・音響効果・照明・音楽に日本人スタッフを起用したことも影響している可能性が高い。
何が言いたいかというと、Jホラーブームの真っ只中を突っ切ってきた世代は遺伝子レベルで「Jホラーとはかくあるべき」というビジョンが刷り込まれているはず。本作は中国産サスペンススリラー映画ながら、奇をてらわないド直球のJホラーが観たいという欲求を満たしてくれる作品でもあるのだ。
多大な影響を及ぼし続けるJホラーの父
海を越えた中国映画界からオファーが届くように、改めて振り返ってみても鶴田法男監督がホラーに及ぼした影響の大きさには驚かされるばかり。実際に『ほんとにあった怖い話』はドラマシリーズ化され、「ほん怖」の略称でいまなおホラーファンから愛されている。また鶴田監督の影響を受けた人物として、黒沢清監督が挙げられる点も忘れてはならない。現在こそJホラーからは離れているものの、黒沢作品でお馴染みの赤い服を着た幽霊は「ほん怖」の一編「夏の体育館」がはじまり。その後の「ほん怖」シリーズにも継承されているほか、小野不由美原作のオムニバスホラー『鬼談百景』の「赤い女」でもなかなか強烈なインパクトを残している。
▶︎『戦慄のリンク』画像を全て見る
『戦慄のリンク』ももちろん当てはまるが、鶴田監督の持ち味は幽霊あるいは人間とは違う得体の知れない存在を極めて自然に配置するテクニックにある。明確にフレームの中に“いる”こともあればぼんやりと“見える”こともあり、「怖い」と感じるのになぜか目が離せなくなってしまう。
そして『リング0 バースデイ』のように、登場人物を追いつめる悪意や人間の暗部も描いている点に注目したい。ただ幽霊が出るから怖いのではなく、キャラクターのバックボーンも描くことでリアルな肌触りの恐怖を体感できるのだ。
そういった意味でも、『戦慄のリンク』は前述のとおりミステリ仕立てになっているところが興味深い。ネット小説「残星楼」とは何か。その悪意の根源にあるものは何か。迫りくる恐怖に震えつつ、徐々に明かされていく事件の真相に注目してほしい。
(文:葦見川和哉)
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