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2023年03月02日

韓国版『スマホを落としただけなのに』が怖すぎた3つの理由

韓国版『スマホを落としただけなのに』が怖すぎた3つの理由



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韓国版『スマホを落としただけなのに』は、設定も展開も日本版とはぜんぜん違う。正確に言えば「落としたスマホを殺人犯に拾われてしまった」という設定以外は、ぜんぜん違う。

鑑賞時の怖さも段違いで、筆者は観終わったあと思わず自分のスマホを握りしめて動けなくなってしまった。「スマホだけは落とすまい」と改めて決意した人もいるのではないだろうか。

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チョン・ウヒキム・ヒウォンパク・ホサンといった実力派俳優が名を連ねる中、なんといっても韓国版の恐怖を語る上では絶対に外せないのがイム・シワンだ。

イム・シワンといえば、これまでの代表作からマジメで爽やかな好青年というイメージがピッタリだったが、前作『非常宣言』でその片鱗をみせたサイコパス役がここまでハマるとは……と感動するとともに、ハマりすぎててなんかもう別の意味で怖い。

本記事では恐怖のイム・シワンに注目しながら、日本版との違いをネタバレ全開で解説していく。

※本記事では『スマホを落としただけなのに』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。

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1:イム・シワンが“普通の人”すぎる



日本版で成田凌の怪演が話題となった「浦野」は、犯行に及ぶときやターゲットを探っているとき、見るからに興奮状態となり狂人めいた言動を繰り返す。その豹変ぶりが強いインパクトと気味の悪さを植え付けた。

一方で、イム・シワン扮する「ジュニョン」は一貫して冷静な態度をとる。たまたまバスで乗り合わせた女性が落としていったスマホを拾い、かかってきた電話には慣れた手つきで自動音声を再生し、スマホのロックが外せなくても苛立ちすら見せずに何食わぬ顔で画面を壊す。

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修理業者を装ってスマホにスパイウェアを仕込むとき以外は、顔も隠さず親し気にターゲットに近づいて、ごくごく自然に相手のスペースに入り込んでいく。普通に友達ができるときだったり、気になる人が現れたと感じるときって、こんな風にお互いの共通点とか偶然が重なった瞬間だよなぁと、その作り込まれた“自然な出会い”に言葉も出ない。

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一通りの情報収集をしたあと、パソコンからターゲットの様子を監視しているときの「ジュニョン」の態度は、まるで休日にNetflixを楽しんでいるかのようにリラックスした姿勢だ。しかし「何を観ているのか」を知っているからこそ、その態度が恐ろしい。

ちなみに、冒頭のバス車内の後部座席にはイム・シワンが座っている姿がしっかり見えるし、拾う直前のスマホ画面には顔も映り込んでいる。いずれも無表情で、感情は読めない。

2:殺した人物に“成りすます”ことの怖さ

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拾ったスマホの持ち主を次々と殺害する連続殺人犯であり、ネット犯罪に巻き込まれていく主人公を救う立場として登場する点が共通する「浦野」と「ジュニョン」。

2人には決定的な設定の違いがある。

「浦野」は幼いころのトラウマを抱えており、狙う人物も限定的だ。しかし「ジュニョン」には描かれている過去がない。戸籍もなく、狙う人物にこだわりもない。

「浦野」も「ジュニョン」も偽名だ。ただ「ジュニョン」とは最初に殺した人物の名であり、彼は以来ずっと「ジュニョン」としての痕跡を残し続ける。何故か。埋めた遺体が明るみ出たとき、その痕跡をもとに「ジュニョン」を殺人犯に仕立て上げるためだ。

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本物のジュニョンは7年前に家出しており、2019年3月に詐欺の被害届を警察に提出。翌年の10月にスマホを解約している(映画の舞台は2022年)。この7年間のどこでイム・シワンと出会ったのかはハッキリと語られていないが、少なくとも2年以上前に知り合い、殺害してから1年以上は経過している。

もしかしたら警察に被害届を出したのですら、イム・シワンの方かもしれない。

戸籍を待たず、スマホの番号も住所も他人のもので「ジュニョン」本人の姿かたちが一切ないとすれば、捕まえようがない。

「ジュニョン」の父親は事件を担当する刑事であるとはいえ、息子が家出したあとの7年間に連絡ひとつしなかった薄情な男である。息子が犯人だと確信している父には、息子に成りすましている他人を捕まえることなどできないのである。

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その刑事が「ジュニョン」の犯行を裏付ける証拠を見つけるシーンで「オ・ジュニョン」という様々な肩書きの名刺が映る。その中にひとつだけ、まったく別人の名刺が映るのだ。肩書きは“整形外科医”。

最後の最後まで「ジュニョン」が刑事の本当の息子なのではないかという疑念が消えなかったのは、この名刺のせいだなと後になって納得した。

日本版で最終的に明らかになった麻美の秘密では、彼女が麻美に成りすますために整形手術をしていたし、「ジュニョン」が刑事と対峙しても逃れられたのは整形して顔を変えていたからでは……と深読みするのはミステリー好きの習性である。

こういうミスリードも非常にうまい。

3:スマホを持つ誰もが被害者になり得る可能性

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母親の面影を追い、黒髪ロングの女性ばかりを狙った「浦野」
の犯行とは異なり「ジュニョン」には特別な理由が存在しない。

スマホを持つ誰もが被害者になり得る可能性を示唆してみせたことが、韓国版のいちばんの恐ろしさだったように思う。

「ジュニョン」はターゲットを決めると、とにかく徹底的に情報収集を始める。そして知るべき情報はすべてスマホの中にあると確信している。家の住所や勤務先、クレジットカードの暗証番号といった個人情報から「何が欲しくて、何を買って、何を持っていて、何を食べて、誰が好きで、誰が嫌いか」という詳細まで、すべてわかってしまうから。

着々と次の被害者への成りすまし準備をすすめる様子も、意味がわかるとかなり不気味だ。

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例えばターゲットの家を見に行くシーン。本人がいない隙に侵入し、ベッドの固さや大きさ、窓を開けたときの景観、照明や水道の状態などを入念にチェックしていたのは一体なんのためだろう?と疑問だったのだが、これはいわゆる内見。家主を殺した後で自分が住む家だから、しっかりと内見していたのである。

無差別に選ばれ、理不尽に奪われていくという「ハッキリとした理由のない曖昧な悪意」に対する恐怖は、常に気持ちを消耗させる不安や不信感へとつながりやすい。

訳がわからないものほど怖いのだ。「ジュニョン」を演じたイム・シワンは、ものの見事に曖昧な悪意を体現してみせた。

もし、スマホを落としたのが自分だったら?

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「指一本で繋がれるこのご時世では、縁が切れるのもそれだけ簡単ってことだ」


ハッキングされた時点では気づくことが難しく、自分のアカウントからの発言はすべて本人の言葉とみなされるため、後から覆すことは非常に困難。

物理的ではなくても、人間関係の縁を切られ、その人生から存在が消えてしまうことは案外たやすいのかもしれない。スマホを乗っ取られるということは、人生を乗っ取られることと同義かのようだ。

もし自分がスマホを落として、拾ったのが「ジュニョン」ではなくても、悪意をもった他人にスマホが利用されれば自分や大切な人たちが理不尽な目に遭うかもしれない。

韓国版『スマホを落としただけなのに』が描くのは、SNSでの繋がりがそのままリアルな交友関係となっている今、まして近年のデジタル化により一層スマホを用いたインターネットでの繋がりに頼っている私たちにとって、あまりにも身近な地獄だ。

(文:加部)

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