小説・コミックのシリーズ累計発行部数650万部突破、Snow Manの目黒蓮が初の単独主演を務める『わたしの幸せな結婚』。
2023年3月17日(金)に公開し、週末の全国映画動員ランキングで1位となった。公開日にスクリーンで観た作品は、期待していた以上に素晴らしいものだった。タイトルやビジュアルからは想像できない、キャストや原作のファンでなくとも楽しめる要素がたくさんある作品だ。
そして映画館の大きなスクリーンで楽しめる要素も多い。“アイドルが主演のキラキラ恋愛もの”だと思って敬遠するにはもったいない。
本記事ではこの作品の何度も観たくなる魅力、映画館でぜひ観ていただきたい理由をお伝えしたい。
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圧倒的な映像美・戦闘シーンの「和製ダークファンタジー」
本作は恋愛要素もありつつ、大正時代を彷彿とさせるファッションや街並みが登場し「異能」「異形」などの要素を取り入れたバトルがあるファンタジーものでもある。映像化の際、一歩間違えると安っぽくなりかねない要素だと思うが、VFXを駆使し、美しさも迫力もリアルさもある映像に仕上がっていた。
映像の美しさ、VFXの作り込みに関しては絶賛する人が多く「『ハリー・ポッター』が好きな人は絶対好き」という声も出ていたり、話題を聞いて観に行ったという人もいるほど。ぜひ大画面で観ていただきたい。
着物や小物など、出てくる服やインテリアなども可愛く、ダイナミックなバトルシーンと、ささやかな生活・日常のシーンがどちらもいいのも注目ポイントだ。
塚原あゆ子監督が引き出す心理描写に心打たれる

物語のメインとなる2人・目黒蓮演じる清霞(きよか)と今田美桜演じる美世はそれぞれ愛を知らず、孤独に生きてきた。そんな2人が出会い、少しずつ惹かれ合っていくさまが丁寧に描かれている。観ているこちらもじわじわと心が温まっていき「この2人は一緒にいないと駄目だ」と応援したい気持ちになる。一方で、モノローグからも彼らの心境の変化が伝わってきた。
2人だけでなく、登場人物それぞれの気持ちが繊細に伝わってくる作品だった。「Nのために」「リバース」「アンナチュラル」「MIU404」「最愛」など、数々の名作ドラマで複雑な人間関係や心理描写を丁寧に演出してきた塚原あゆ子監督だからこそ、より伝わる作品になったのではないだろうか。
そして、心理描写と先に挙げたしっかりとした映像、どちらも成立しているところが素晴らしい。
かっこいいだけでなく、かわいい目黒蓮が満載
ビジュアルや予告映像などの事前情報だと「“かっこいい目黒蓮”が見られるのかな?」と思っていた。だが実際に作品を観ると、もちろんかっこいい目黒蓮もたくさん観られるし、同じくらいかそれ以上に“かわいい目黒蓮”の魅力を味わえる作品だった。
名家・久堂(くどう)家の若き当主であり陸軍の対異特殊部隊を率いる部隊長。冷酷無慈悲と噂されるとおり、美世が来て挨拶したときも「私が出て行けと言ったら出ていけ、死ねと言ったら死ね、異論反論は聞かん」と告げる。だが、清霞はその実、優しい人なのだ。そして照れ屋でもある。わかりやすい言葉を使えば、“ツンデレ”要素が結構ある人だ。
母親代わりに育ててくれた使用人・ゆり江(山本未來)に(美世に冷たくしたために)怒られてタジタジだし、同じ部隊の部下であり右腕の五道(前田旺志郎)にも「ありがと」と言わされている場面がある。単なる愛情表現が不器用ないい人なんだな、とわかってきて愛おしい。厳しい部隊長だが部下たちにも慕われている。
目黒はツンデレではないが(いや、メンバーによってはそういう一面もあるかもしれない)まっすぐで仲間想い、曲がったことは大嫌いなところなど、すごく目黒自身の良さとリンクしている部分がある。
何より彼の魅力的な表情のひとつ「はにかんだように照れたように微笑む」シーンが非常に多くて、彼を好きな人はきっと清霞のことも好きになるだろう。この表情をまた大画面で観るためだけだとしても、何度も映画館に足を運ぶ価値がありそうなくらいだ。
そしてもちろんビジュアルやバトルシーンはかっこいい。人を選びそうな髪型や髪色もハマっているし、軍服も似合うし、185cmの体躯を活かしたバトルシーンは圧巻だった。また戦いの中で苦悩する様子も魅力的。
ここ最近、話題作への連続出演が続く目黒蓮のことをもっと好きになる役に出会ってしまった。
–{“闇”の今田美桜が光を得ていく様子が凄まじい}–
“闇”の今田美桜が光を得ていく様子が凄まじい
今田美桜といえばもともと大きな目が特徴的で、華やかでおしゃれな雰囲気を持った人、というイメージがあった。
昨年主演したドラマ「女(わる) ~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~」では、田舎から出てきたおかっぱ頭の主人公・麻里鈴(まりりん)を演じて視聴者を驚かせたことも記憶に新しい。そして『わたしの幸せな結婚』で演じた美世で、また新たな今田美桜を知ることができた。
美世はあまりに気の毒すぎる身の上で、幸せになることなど諦めて生きてきた女性。両親は政略結婚だったが、母は美世が幼いうちに他界。すると父は元々恋人だった女性と再婚し、妹が生まれた。継母・香乃子(山口紗弥加)は一度は自分たちの仲を引き裂く原因となった美世の母をひどく憎んでおり、その娘であり母に似た美世のことも憎んでいた。妹の香耶(髙石あかり)は幼い頃から両親に可愛がられわがままに育ち、美世を使用人同然に扱う。
単に使用人扱いというだけではなく、気に入らなければ熱いお茶を顔にかけたり暴力をふるったり、もはや虐待だった。父である真一(高橋努)も、見て見ぬふり。もともと美世の母と結婚したのは彼女が異能の家系だったためで、大金を積んだにもかかわらず異能を持っていなかったのも、美世が冷遇された一因らしい。
そんな風に扱われてきたため、美世は化粧っ気もなく表情は暗く、手はあかぎれだらけ。目には光がなくて真っ黒で、話し方もビクビクしている。「これが今田美桜なのだろうか?」と思うくらい闇のオーラをまとっていた。
そんな美世が清霞と出会い、清霞やゆり江と交流していく中で少しずつ明るい表情になっていく、人間としての尊厳を取り戻していく様子には心を打たれるものがあった。見た目や表情の変化だけでなく、人生を諦めておりすぐに謝罪や諦めの言葉が出ていたところから、強い意志を持つ人に変わった。日陰で枯れそうになっていたお花が日向に移され、水も与えられて綺麗なお花が咲くようになるのを見ているようだった。
捨て犬や捨て猫がいい飼い主と出会った前後の写真を見ると全く表情が異なるという話や、植物も声をかけて育てると咲き具合が異なるという話がある。人間もまた、愛情や優しさを受けるとこんなにも変わるのだなと伝わってきて愛おしい。
この変化を観客が実感できたのは、今田美桜が役と真剣に向き合い演じ分けたからだ。彼女はクランクアップの挨拶で「苦しいことがたくさんある女の子だったので……」と涙をにじませており、美世と全力で向き合ったことを物語っていた。
目黒蓮vs渡邊圭祐の“強さ”
目黒演じる清霞と渡邊演じる新は対立関係になる。この2人が対峙するたび、顔面vs顔面でめちゃめちゃ絵になるし美しいし強い。2人とも180cm越えで、いろんな意味で迫力がある。ぜひ大画面で観ていただきたいvs構造である。
それにしても渡邊圭祐は、一見いい人だけど絶対何か裏がある、胡散臭いライバル役が似合うなぁ……。『わたしの幸せな結婚』のファンタジー要素にもハマっていた。今年で30歳を迎えるが、今後も実写化作品に出てほしい。
一人ひとりの芝居が素晴らしい
目黒や今田はもちろん、脇を固める俳優たちの演技も素晴らしかった。
五道を演じた前田旺志郎の演技がよかった。「主人公の気のいい友達」役が多い印象がある中で、この作品でも部下ではあるが友人のような関係でもある。とあるシーンの彼の演技には涙したほどだ。
美世の継母を演じた山口紗弥加の恐ろしさもよかった。ここ数年、ぶっ飛んだ役にも定評がある彼女。個人的にはドラマ「モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-」の入間瑛理奈並みに怖くて素晴らしい。行動もだが、目の“いっちゃってる”感が、なかなか他でお目にかかれないレベルなのだ。
清霞や美世を温かく支えるゆり江を演じた山本未來の存在感は、不穏にうごめくストーリーの中で数少ない安心できる部分だった。なにわ男子・大西流星が演じた堯人(たかいひと)は役どころも立ち位置も難しかったのではと思うが、感情の揺れがよく伝わってきた。
また、宮内省長官・賀茂村を演じた津田健次郎は(知っていたけど)声がいい……彼の声がバックになるシーンがあり、思わず聞き入ってしまう。そして尾上右近の、早々に「この人なんか裏があるな」とわかる胡散臭い雰囲気。さらに公開前は未発表だった、美世の母親役である土屋太鳳にもとても説得力があった。
一人ひとりのお芝居の力により、『わたしの幸せな結婚』はよりリアルで重厚感のあるものとなったと思う。
主題歌のSnow Man「タペストリー」が響かせる余韻
エンドロールで流れる主題歌である、主演した目黒の声で始まり目黒の声で終わる「タペストリー」が本当に物語に合っている。
物語の余韻を感じながらあらためて涙した人も多かったのではないだろうか。そしてSnow Manのファンの方は、最上部に「目黒蓮(Snow Man)」の名前が出たことに感動したと思う。
一度観てほしい、何度も観たくなる作品
さまざまな要素が入りつつも、違和感なくひとつの作品として成立しており、恋愛ものとしてもヒューマンドラマとしてもバトルファンタジーとしても素晴らしい『わたしの幸せな結婚』。
先入観にとらわれず、一度観てみてほしい。また、一度観ると要素の多さゆえに再確認したい部分も出てくるし、彼らの表情や戦いをもう一度観たくなる。筆者も近々、おかわりしに行きたいと思う。
(文:ぐみ)
–{『わたしの幸せな結婚』作品情報}–
『わたしの幸せな結婚』作品情報
ストーリー
文明開化もめざましい近代日本。帝都に屋敷を構える名家の長女・斎森美世は実母を早くに亡くし、幼い頃から継母と異母妹から虐げられて生きてきた。すべてを諦め、日々耐え忍んでやり過ごすだけの彼女に命じられたのは、美しくも冷酷な軍隊長・久堂清霞との政略結婚だった。数多の婚約者候補が逃げ出したという噂の通り、清霞は美世を冷たくあしらう。
しかし逃げ帰る場所さえもない美世は、久堂家で過ごすうちに、清霞が実のところ悪評通りの人物ではないことに気づいていく。そして清霞もまた、これまでに言い寄ってきた婚約者たちとは違うものを美世に感じ、いつしか互いに心を通わせ、それぞれが抱いていた孤独が溶けていく。
「望んでしまった…少しでも長く、この人と居たいと。」
しかしその頃帝都では、不穏な【災い】が次々に人々を襲う。清霞はその最中で国を司る帝から、国民の盾となることを命じられる。命を賭して戦う清霞。その身を案ずる美世。しかしその【災い】の影には、思いもよら ぬ陰謀が渦巻いていた。任務を全うする清霞の背後で、美世にも魔の手が迫る。やがて残酷な運命が、容赦なく二人を切り裂いていく―
願うのはたったひとつ、あなたの幸せ。
予告編
基本情報
出演:目黒蓮(Snow Man)/今田美桜/渡邊圭祐/大西流星(なにわ男子)/前田旺志郎/髙石あかり/小越勇輝/佐藤新(IMPACTors/ジャニーズ Jr.)/西垣匠/松島庄汰/髙橋大翔/珠城りょう/小林涼子/浜田学/山本未來/山口紗弥加/平山祐介/高橋努/津田健次郎/尾上右近/土屋太鳳/火野正平/石橋蓮司 ほか
監督:塚原あゆ子
公開日:2023年3月17日(金)
製作国:日本