映像作家クロストーク

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2023年03月14日

【対談】映画『Winny』松本優作 監督×セカオワ『Habit』池田大 監督│映像作家のアイデンティティとは?

【対談】映画『Winny』松本優作 監督×セカオワ『Habit』池田大 監督│映像作家のアイデンティティとは?


映画、ドラマ、CM、MV、YouTubeなど、さまざまな映像メディアの第一線で活躍する"映像作家”にフォーカスをあてる特集「映像作家のクロストーク」。それぞれフィールドが異なる作家たちに映像制作にかける思いや、影響を受けた映画についてを語り合ってもらった。

第一回目に登場するのは映画『Winny』の監督である松本優作と、同映画に出演した俳優でありSEKAI NO OWARIのMV監督も担当する池田大。

実際の事件を下敷きに無骨な映像作品を手掛ける松本監督と、MV『Habit』で25億再生以上の大きなバズを引き起こした池田監督。まずは二人が出会ったきかけの映画『Winny』の話からはじまった。



事件を映画化するということ

松本優作

ーー松本監督はこれまで実際にあった事件や社会問題を下敷きにした映画を多く手がけてこられてますが、本作で「Winny事件」と当時逮捕されたプログラマーの金子勇さんを題材にした経緯を教えていただけますか?

松本優作(以下、松本):そもそも別の監督が撮る企画だったんですけど、紆余曲折を経て僕のところにお話が来たんです。それまで僕自身はWinnyのことは知らなかったんですけど、ゼロから脚本を書くことになったのでリサーチには時間をかけました。それと、本作で三浦貴大さんが演じている壇俊光弁護士が監修に就いていただいたので、ふとした会話の中で聞いたことを劇中に取り入れたりとかしています。 

池田大

ーー池田さんは本作のオファーが来た時どういった印象を持たれましたか?

池田大(以下、池田):僕はいまだに黒電話しかないようなアナログな実家で育ったので当時インターネットに疎くて、Winnyに関しては正直全く知らなかったんですよ。ただ、オファーをいただいた時期は、何本かMVを撮った頃で「そろそろ映画を撮りたい」っていう気持ちが芽生えていたんです。でも「映画って何をきっかけに撮ったらいいんだろう?」っていうところからまず悩んじゃってて。そんな時に、本作の企画書を読んだんですけど、そこで松本さんが「映画という文化は、ある時代の中で、埋もれてしまった場所に光を当てることだと思います」と書いていたんです。その言葉に感銘を受けたというか、「そういう想いで映画を作る人の現場に行きたい」という興味が強くて参加させていただいたんです。

ーー池田さんは役作りとしてご自身でWinny事件について調べたりもされたんですか?

池田:そうですね。まず打ち合わせの段階で松本監督から、『シカゴ7裁判』(*1)とか、『リチャード・ジュエル』(*2)などいくつか参考作品で映画のタイトルが上がったので、それを一通り観たり観返したりするところからはじまって、Winny事件についても調べました。

*1……映画『ソーシャル・ネットワーク』などの脚本を務めたストーリーテリングの天才、アーロン・ソーキンの監督作品。反ベトナム戦争のデモ中に捕まった学生たちの法定物語。2020年に映画館と配信で公開。映画「シカゴ7裁判」はNetflixで独占配信開始。
*2……2019年に公開されたクリント・イーストウッド監督作品。実際にあった事件をモデルにしており、爆弾テロ事件の冤罪をかけられた警備員・リチャード・ジュエルの裁判を描く。

松本:今回出演していただいた俳優さんたちは、皆さん独自に事件について調べたり取材していたりしたんです。現場では各々が調べてきたものを情報交換されていたりして、弁護団役の方々は本当に弁護団のようなチームになっていましたね。とにかく現場の熱量がすごくて。

池田:熱かったですよね。でも、やっぱ松本さんから発される「意思」みたいなものがすごいんですよ。無駄なことは言わないというか、佇まいから良い意味でプレッシャーがある。僕ら俳優部はその熱にやられていたというか、俳優として託されてる部分が大きかったですね。僕なんかはMVで監督やってる時は現場の空気をほぐすためにわざわざ言葉にしなくてもいい冗談とか言っちゃうんですよ。

松本:そういうことやりたかったんですけど、余裕がなくて(笑)。僕はそこまで経験もないので今回も必死に食らいついてた感じで、撮影中の記憶もほとんどないぐらいで……。もちろん演出はするんですけど、俳優さんから出てきたものをどうやって作品に落とし込めばいいかっていうのを常に考える現場でしたね。

『Winny』の裁判シーン。写真の左奥が池田大。

池田:松本さんって優しい印象ですけど、撮影の岸(建太朗)さんにだけは結構言葉が強いんですよ(笑)。「それ違うよ!」みたいな、言葉尻が強めというか。その光景を初日に見て「こういう感じでやり合うんだ!」と思って。

松本:言いたいことを言える人ってなかなかいないじゃないですか。岸さんはそれを許してくれる人なのでストレスを感じずに遠慮なく言い合えるんですけど、関係性を知らない人が見るとヤバいですよね。ちょっと今後は気をつけないとな、と今思いました(笑)。

池田:岸さんもしっかり意見するし、ずっと見ていると長年培ってきた信頼関係がわかるので、対等で良い関係性だなと思いましたけどね。

松本:そうですね。出来ているかわからないですけど、ひとつの作品を作るうえでは上も下もないじゃないですか。関わっているスタッフみんなが、言いたいことを言えるほうが作品にとってはプラスだと思うので、意識して変なプライドは持たないようにはしています。 例えば、「今日が現場初めてです」というスタッフの意見でも、それが正しかったら取り入れた方がいいし、その意見を変なプライドで除外するのは作品にとって勿体無さすぎる。核心というか、持っておかなきゃいけないプライドだけは持っておいて、あとは全部捨てた方が僕はいいと思うんですよね。

池田:若手のスタッフだと、そもそも松本さんに思ってても言えないことはあるじゃないですか。わざと聞いたりするんですか?

松本:そうですね、空いてる時とかに聞きにいきますね。

池田:あ、それは僕も一緒です。わざと助監督さんや、セカンド、サードのスタッフさんたちに聞いたりしますね。それは単純に意見を聞くだけじゃなくて、自分たちがこの作品に参加して作っているという意識をなるべく細かい部署の人までしっかりと感じていてほしいという気持ちがあって。


松本:そういえば今ふと思い出したんですけど、『Habit』のMVが発表された直後ぐらいに一度池田さんと飲んだじゃないですか。その時に「コレ、絶対賞取るから」って言ってましたよね。

池田:え、俺、そんなこと言ってましたか?(笑)

松本:いやいや、なんか自分の作ったものに対して自信を持てているのがすごくいいなと思ったんです。僕はこれまであまり自信がなかったんですけど、池田さんみたいに自信を持たれていると、関わっているスタッフさんも気持ちいいじゃないですか。

池田:ネアカなだけですよ(笑)。……あの、くだらない話かもしれないですけど、松本さんは監督として現場に行くとき、何かいつも決めてるルーティーンとかってあります?

松本:これといってはないんですけど、しいていうなら集合時間にはなるべく一番乗りで着くっていう感じですね。でも、早く行ってもスタッフの方々に気を使わせてしまうかもしれないので、路地裏でタバコ吸ってたりしてます(笑)。池田さんはあるんですか?


池田:僕は1作目からずっとなんですけど、ツナギを着て行ってますね。だいたい撮影は朝が早いので服を選ぶのが面倒くさいので、ツナギと決めちゃえば楽というのと、大勢のスタッフがいる中で一目でわかりやすい。それに不思議とツナギって着るとスイッチが入るんですよ。

松本:なんかそういうのいいっすね(笑)。

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