映像作家クロストーク

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2023年03月14日

【対談】映画『Winny』松本優作 監督×セカオワ『Habit』池田大 監督│映像作家のアイデンティティとは?

【対談】映画『Winny』松本優作 監督×セカオワ『Habit』池田大 監督│映像作家のアイデンティティとは?


MV『Habit』の緻密な計算



ーー池田さんは昔から映像を撮るほうに興味があったんですか?

池田:それが全くなかったんですよね。2年半前ぐらいにSEKAI NO OWARIのアートディレクションを担当して、その流れで「MV撮ってみない?」という感じで。いきなり規模の大きいバンドのMVだったので、現場でモニターを見ていて、うしろ振り返ったら大人が30人ぐらいいて「俺いまヤバいことやってんな〜」とは思ったんですけど、めちゃくちゃ楽しかったんです。俳優業って、どうしても役が決まってくるのでどれだけインプットしてもアウトプットできる幅が狭いんですけど、監督業は今まで闇雲にインプットしてきたものが生きるんですよ。曲という制限はありながらもメンバーもある程度は僕に任せてくれるのでいくらでもアイデアが浮かんでくるし。だから、今はとにかく楽しいっすね。

ーー松本さんは池田さんの作品についてどんな印象ですか?

松本:MVと長編映画と連続ドラマって、同じ映像作品ではあるけどスポーツで言うとそれぞれ競技が全然違いますよね。作品に対峙するお客さんの距離感も違うじゃないですか。いま映画は配信がありますけど、基本的には映画館の大きなスクリーンで観てもらえるような作り方で、MVはパソコンやスマホで観ることが多いですよね。今日、SEKAI NO OWARIの『Habit』等いくつか池田さんの作品を観直してきたんですけど、いかに観客に届けるかっていうことをすごく丁寧に計算されてると感じましたね。

池田:MVだとたいてい5分、短くて3分とかですけど、PCやスマホで見ていると、ちょっとつまんないとすぐ離れられちゃうんです。だから、畳みかけて畳みかけて「お!?」という部分をいくつか配置しておいていたりすることはコンテを組む上でも計算していますね。

松本:そういえば『Winny』で池田さんのアフレコをした時、たしか次の日がちょうど『Habit』のMV撮影だとおっしゃってて、美術の資料とかイメージボードを見せていただいたんです。その時点でかなり細かいところまで計算されていることがわかるんですよ。僕はどちらかというと、そういう作業が苦手というか。映画の場合は編集の時にパズルみたいにはめ替えることもあるので、ある程度は余白も作っとかないといけないんです。池田さんは多分MVという競技の中でいかに戦うかっていうことをすごく考えられてるんだろうなと思ったんですよね。

影響を受けた映画の話


ーー松本さんは子供の頃からわりと映画が身近にあったんですよね?

松本:子供の頃はジャッキー・チェンの映画をよく観ていたんですけど……あの、僕の名前の松本優作っていうのが、松田優作さんからきていて、父親がすごく好きなんですよ。だから一番最初に観た映画が『ブラックレイン』(*3)で。

*3……1989年に公開されたリドリー・スコット監督作品。日米の刑事たちがヤクザと戦うアクション作品。高倉健や松田優作も出演。

池田:それはすごい環境ですね(笑)。

松本:でも、僕はずっと音楽をやりたかったんですよ。バンドをやっていて、歌詞も書いていたんですけど、ある程度の年齢になって、自分が音楽で上に行けないのがわかってくるじゃないですか。そんな時に知り合いのバンドのMVを撮るようになって、次第に映画に移行するんですけど。映像だと俳優さんがいるし、いろんな要素が絡み合って、自分に足りないものを他で補えることがわかったんですよね。すごく言い方が悪いですけど、他力本願みたいなところがあって(笑)。だから僕も最初から映画監督になりたかったかというと、そうでもなくて。ただ何かを表現したいとは、ずっと思っていました。

ーー池田さんは松本監督の作品についてどんな印象ですか?

池田:僕は松本さんの長編デビュー作『Noise ノイズ』(*4)の頃から観ていたんですよ。その当時はプロフィール写真も作風も相まって怖い人なのかなって思っていたんです(笑)。でも、会ったらものすごく柔らかい。僕の中では、松本さんの人間性と松本さんの作品ってつくづく似てるなと思っていて。すごく真面目で、実直なんですよね。特に『ぜんぶ、ボクのせい』(*5)や『Winny』は伝えたいことに対してすごく真っ直ぐじゃないですか。僕が撮ってるMVは軽い言い方をすると“映え”じゃないですけど、どうかっこよく観せるか、曲が持つエモーションみたいなところをどうやって増幅させるか、みたいなところを意識して撮ることが多いんです。だから例えばカメラワークとかカット割もあえて忙しなくするんですが、松本監督作品は無駄がなくてどっしりしてますよね。

*4……2019年公開の松本優作監督の初の長編作品。秋葉原無差別殺傷事件をモデルに事件をきっかけにしながら、秋葉原で暮らす人々の闇と光に焦点を当てる。©2019「Noise」製作委員会
*5……2022年公開の松本監督作品。ヤングケアラーの少年、家庭や学校に居場所のない少女、ホームレス男性の交流を追ったヒューマンドラマ。©2022「ぜんぶ、ボクのせい」製作委員会

松本:近年は、ルックも照明もカッコいい作品が多い気はしていて……もちろんテーマや内容にもよるんですけど、なんていうか、そこに抗いたい気持ちはあるんですよね。

池田:めちゃめちゃ抗ってますよね。『Winny』もそうですけど、『ぜんぶ、ボクのせい』を観た時に明らかに何かに抗っているのがわかったんですよ。余計なものを削ぎ落として、カメラの前に立っている俳優と真正面で向き合ってる感じが、20代や30代の監督の中では珍しいと思って。俳優からするとそういうところに松本さんの作品には参加してみたくなる魅力を感じます。

松本:出演してくださっている俳優さんが、皆さんお芝居を信じれる人だからこそできることだと思うんです。たとえば『Winny』は劇中でわりと音楽を使ってるんですけど、それはちょっと難しいテーマというのもあって、観客の視点の補助的な役割として使っているんですけど、これまではなるべく映画で音楽は使いたくなかったんです。音楽の力はとても強いので、慎重に使わないといけないと常々感じています。僕が好きなダルデンヌ兄弟(ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/*6)はほとんど音楽を使わないので、そういうスタイルにも憧れていたし共感もしているというか、1歩でも近づきたい目標みたいな感じなんですけどね。

*6……ベルギーの映画監督。主な作品に『ロゼッタ』(1999年)、『ある子供』(2005年)、『トリとロキタ』(2022年)

ーーいまダルデンヌ兄弟が挙がりましたけど、最後にお二人が影響を受けた作家や作品を教えてもらえますか?

松本:ダルデンヌ兄弟は僕にとって頂点みたいな感じですけど、あとは先ほど話にも出た『シカゴ7裁判』のアーロン・ソーキン監督が好きで、脚本がうまいし作品を観て勉強していますね。ほかはケン・ローチ(*7)、ポール・ハギス(*8)、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(*9)ですね。

*7……イギリスの映画監督。イギリスの労働階級のリアルや障害者の差別など社会問題を描いた作品を数多く制作。主な作品は『麦の穂をゆらす風』(2006年)『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年)など。
*8……カナダ出身の映画監督、脚本家。主な作品に、女性ボクサーを主人公にした『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)脚本、監督作品に『クラッシュ』(2004年)など。
*9……メキシコの映画監督、脚本家。主な作品に『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)、『バベル』(2006年)。

池田:今回MVの話をさせていただいたので、音楽が印象的だった映画の原体験という意味で選ばせていただくと、高校生の頃、今はなき渋谷のシネマライズで超満員の中、通路に座りながら『ピンポン』(*10)と『青い春』(*11)を2本連続で観たんですよ。どちらも松本大洋さんが原作ですけど、『ピンポン』はSUPERCARで、『青い春』はTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが印象的に流れていて。めちゃくちゃ衝撃的でしたね。

*10……松本大洋の漫画を監督は曽利 文彦で、脚本は 宮藤官九郎で実写化した2002年公開作品。クラブシーンにも影響を与えたロックバンド・SUPERCARの『YUMEGIWA LAST BOY』などを起用。
*11…….同じく松本大洋の漫画を豊田利晃監督が実写化した2002年公開作品。冒頭からロックバンド・THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの『赤毛のケリー』が起用され、その後も印象的な場面では『ブギー』など他の楽曲が使われる。

池田:あと好きな監督でいうと、ポール・トーマス・アンダーソン(*12)、マイク・ミルズ(*13)、リチャード・リンクレイター(*14)です。

*12……アメリカの映画監督。代表作に『ブギーナイツ』(1997)や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)など。
*13……アメリカの映画監督。CMやMVの監督からキャリアをスタートさせて『サムサッカー』(2005)で長編映画デビュー。代表作は『20センチュリー・ウーマン』(2016)など。
*14……アメリカの映画館監督。代表作に『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)など

ーーどの監督も音楽との親和性が高いですね。ちなみに池田さんは撮りたい映画のアイデアの種みたいなものはあるんですか?

池田:いくつかはあるんですけど、まずホンが書けないという壁に早速ぶち当たってますね(笑)。

松本:池田さんが撮られてきたMVってまず曲があるじゃないですか。その曲を使ってどう世界観を広げていくか、どんな映像を想像するかっていう作業だと思うんですけど、池田さんは他の人が書いた脚本や原作小説などを映像化するのが多分すごくうまいんじゃないかなと思うんですよね。

池田:なるほど。MVは曲が脚本という考え方ですね。たしかにそうですね。

松本:もちろん池田さんのオリジナルは大前提で観たいんですけど、なにかひとつキーとなるものがあって、それをどうやって広げていかれるのかっていうのにすごく興味がありますね。

池田:それは嬉しいですね、じゃあ困ったら松本監督に相談しようと思います(笑)。

松本:僕なんかでよければ、ぜひ(笑)

Profile

松本優作(写真右)
1992年生まれ。自主映画『Noise ノイズ』で長編デビュー。その後も、短編『日本製造/メイド・イン・ジャパン』(2018年)、長編『ぜんぶ、ボクのせい』(2022)『Winny』(2023)など。他にもCMやドラマなども手がける。

池田大(写真左)
1986年生まれ。俳優として映画、ドラマ、広告などで活躍する一方、2019年からはSEKAI NO OWARIのアートディレクターにも就任。それをきっかけに同バンドのMVをはじめさまざまな作品を手掛けている。MV『Habit』がMTV VMAJ2022 「Video of the Year」「Best Dance Video」受賞。

(撮影=河西遼/取材・文=市川夕太郎)

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