映画コラム
<2023年ベスト候補>映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』が想像の100倍面白い!
<2023年ベスト候補>映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』が想像の100倍面白い!
笑いと悲しみが表裏一体!だからこそ感動がある!
さらにはギャグが面白い。前述したように主人公チームのメンバーたちはそれぞれがダメダメで、だからこそボケボケなやり取りをするので笑ってしまう……のだが、同時にちょっと切なくもなるということが重要だ。中でも「高い知性を持つモンスターは頭の良い者を狙う」と説明されてからの、流れるようなオチは分かりやすく笑えて切ない。その切なさの理由は、言うまでもなく彼らが世間からのはみ出しものだから。冒険の道中に笑いがあるというのは、彼らが背負った人生の悲しみを隠すための「せめてのも抵抗」のようにも思えてくる。笑いがあってこその切なさがあり、だからこその「負け犬たちがヒーローになる」物語の感動があることも、実に素晴らしいではないか!
これは「はみ出しものたちのファンタジーアドベンチャー」という、他にも大きな共通項のある『長ぐつをはいたネコと9つの命』にも通じているポイント。この手の映画の傑作が同時多発的に上映されていることにも、運命めいたものがものがある。
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「ファンタジー映画あるある」をイジった上に一種の「マクガフィン論」にもなっている!
さらに本作には、「ファンタジーあるある」をいじったギャグもある。例えば、とある回想シーンが「さすがに巻き戻しすぎだからもういいよ」とか、とある過去の出来事に対して「歴史のお勉強か」とツッコミが入ったりする。つまり、これは「ファンタジー映画での過去の物語を語るのって退屈だよね」ということを、半ばメタフィクション的なギャグにしているというわけだ。さらに、もうひとつ半ばメタ的と言えるのは、一種の「マクガフィン」に対してのくすぐりがあることである。
マクガフィンとは、劇中で登場人物が取り合ったりする重要アイテムなどで、「何にでも代用可能」な、それだけだと陳腐にも捉えかねないものだ。本作でもまさにマクガフィンを探しに行く、悪い言い方をすれば「お使い」的なミッションに挑む。ネタバレになるので明言は避けるが、そこにはマクガフィンを相対的に俯瞰して見たような、なかなかトリッキーな仕掛けおよびギャグが用意されているのだ。
そのため、本作はファンタジー映画を見慣れている人ほど面白い内容とも言える。「こういうのありがちだよね」と作り手がわかっているからこその、半ばメタ的なギャグかつ仕掛けがあるのだから。それもまた、「よくあるB級映画だよね?」と軽んじている人こそ、観てほしい理由なのである。
最後に、もうひとつ超絶面白いギャグは、最後の最後で「まさかの伏線回収」である。これはある種のひねった形での「天丼」なのだが、これほどの爆笑を届けてくれるとは思いもしなかったのだ!とにかく全編にギャグがてんこ盛りで、それぞれがスベり知らずなのもすごい!
超ハイクオリティの吹き替え&豪華声優陣の無駄使い(褒めてる)
すっかり長くなってしまったが、最後に吹き替え版が素晴らしいことも訴えさせてくれ(もう少しお付き合いください)!箇条書きにしたから!・武内駿輔……めちゃくちゃやさぐれた盗賊かつツッコミ役を担いながらも、「しょうがねぇな〜」なヒーローになっていくコミカルな主人公にどんハマり!
・甲斐田裕子……ああっ…カッコいい…美しすぎます…!『ワイルド・スピード』シリーズと同じくミシェル・ロドリゲスに声を当ててくれてありがとうございます!
・木村昴……ジャイアン役でも有名だけど、今回はその真逆ののび太的な半人前の魔法使いにもピッタリという衝撃
・南沙良……他のベテラン声優陣に比べると少し慣れていない印象もあるけど、それが浮世離れしているキャラの印象とマッチしていて、何より声質は透き通るようで可愛い
・中村悠一……キャプテン・アメリカを超えて真面目すぎて逆にめんどくさいキャラ。それは合うと分かっていたけど、期待以上だったよ!
・逢田梨香子……主人公の娘さんがめちゃくちゃ可愛い。そりゃダメダメな負け犬チームも彼女のために命をかけるよ!
・森田順平……相手を小馬鹿にしたような、情けなくもムカつく演技(褒めてる)が最高
・沢城みゆき……『パワーレンジャー』の時以上に強大な力を持血ながらも艶かしさもある悪役にハマりまくりだ……!
それぞれが持てるポテンシャルを全て発揮&最高のキャスティングだと断言しよう。あとヒュー・グラントが『パディントン2』の時以上にめちゃくちゃ楽しそうにイヤなやつを演じていたのでホッコリと笑顔になったし、もちろん字幕版で観るのもいいだろう。
さて、そんな風にハイクオリティの吹き替えなのだが、道中で遭遇する「死体役」の良い意味で無駄な豪華な配役も見所である。
もちろん、その無駄遣いすぎる声優陣を知ってから観ても良いのだが、知らずに観るのもおすすめだ。何しろ、筆者は「なんかどこかで聴いたことのある良い声だなあ」と思ってたら、最後の最後の吹き替えキャストのクレジットで初めて知って「ブフッ」と笑い声が漏れたのだから。その体験も捨て難いものがあるので、声優ファンであればぜひ予備知識なく観て、「この無駄遣い、バカじゃないの(嬉しそうに)!」となってほしいのだ。
ところで、ここまで絶賛したわけだが、ここまで言って観てくれなかったらどうしたらいいんですか?と逆に聞きたい。だってコメディ成分多めのファンタジーアドベンチャー映画史上いちばん面白い(断言)んですよ?過去最高のミシェル・ロドリゲスなんですよ?他の負け犬メンバーを演じたキャスト陣も最高だし、吹き替えも超ハイクオリティなんですよ!
つねづね、「誰もが楽しめる娯楽作」というのは映画および創作物においていちばん難しいと思うのだが、『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』はその難しいハードルを飛び越えたどころか、そのジャンルの中で最高峰のものが生まれた、ものすごいことが起きているのだ。だからこそ、もう一度お願いしよう。観てください!
(文:ヒナタカ)
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