映像作家クロストーク

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2023年03月30日

【対談】Aマッソ『滑稽』演出 大森時生×YouTube『フェイクドキュメンタリー「Q」』 皆口大地│「VHSってつくづくホラーのためのメディア」

【対談】Aマッソ『滑稽』演出 大森時生×YouTube『フェイクドキュメンタリー「Q」』 皆口大地│「VHSってつくづくホラーのためのメディア」


「わからなさ」の難しさ


ーーフェイクニュースや陰謀論なんかが溢れかえる現代でフェイクドキュメンタリー的手法を使っているお二人は、どのぐらい観客のリテラシーやモラルを意識していますか? 例えば、悪意を持って作品を切り取り、本当にあった「事実」として世間に出回る可能性もありますよね。

皆口:それはそれでアリかなと思っているんです。例えば『Q』が10年後に「これが呪われた動画だ!」と都市伝説になってコンビニの実話誌とかに勝手に載っていたりすれば作った甲斐があったなと(笑)。

『フェイクドキュメンタリー「Q」』の場面写真より

大森:僕もそうですね。『奥様ッソ!』はまさにTikTokで切り取りがバズっていたりしていたんですが、勝手に切り取られて僕の知らないところで良い意味でも悪い意味でも都市伝説化されていたら、それが理想みたいなところはあります。

ーーお二人の作品は熱狂的な考察を生むところも共通していますが、SNSなどでのリアクションも含めてご覧になっているんですか?

大森:そうですね。僕の作ったものに、人生の時間を割いていただいていて……もう本当にありがたい限りだなと思います。ただ僕としては、ある程度理屈がついてしまうと、その瞬間に恐怖や不気味さ、ワクワク感が消える感覚があるんです。例えば心霊モノだと、「こういう事件が起きて、こういう霊がいて、こういう悪さをして」っていうのが数式的に答えが見えた瞬間ですね。「わかる」っていうこと自体が不気味さを妨げるものという感覚はやっぱりありますね。でも、もちろん自分が作る上では、設定はしっかり考えているんですけど、部分的に開示したり間引いたりしているんです。それ故にその間引いた部分を埋めようとして、考察が生まれてるのかなとは思いますね。 


皆口:それは自分の作り方と近いですね。自分が恐怖を感じるポイントが「わからない」なんです。よくわからない虫も怖いですし、心霊スポットに行って、遠くに灯りが点いている、その灯りの元がなんなのかわからないだけでもう怖い。『Q』でも、そんな「わからない」不気味さにフォーカスをあてた作品を作ったりするんですけど、でもそれはキチンと正体がないとダメで。ただ単に「わからない」ものは誠実さに欠けるといいますか。「わからない」ものを作る難しさや楽しさってありますよね。

大森:皆口さんは視聴者のリアクションは見ているんですか?

皆口:見ますね。でも、ちょっと角が立っちゃう言い方ですけど、視聴者には何も求めてないというか。ただぼーっと観て頂けるだけで嬉しいんです。視聴者に求めすぎるのは作り手のエゴだし、「考察してね」みたいな作りは逆に冷めるというか。 

大森:わかります。僕も考察ありきのコンテンツ、考察前提のコンテンツは作りたくないと思っているところがあって、その瞬間、瞬間で面白く見てもらえるほうが価値が高いと思っています。だから、フェイクドキュメンタリー的なものを作るにしても、最終的には整合性より瞬間としてのエンタメ的面白さを取っちゃうところがありますね。『滑稽』で流れる映像も、カルト団体「Affirmation」が作ったビデオというテイなので、少しでも教団が不気味に描かれているのはおかしいんですよね。でもそこは意図的に、早めに諦めてます。フェイクドキュメンタリーを愛好する方の中には、整合性を一番大事にしてるって層もかなりいると思うので、そういう方は気になるところもあると思うんですけどね。

ーー映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』に代表される「ファウンド・フッテージ」もので、誰がなぜカメラを回しているの? とか、効果音や音楽は誰がつけてるの? とかですよね。

大森:『呪詛』(*2)なんかはそれを全部無視したうえで、様々な恐怖要素をメガ盛りにしているのが面白かったですね。


*2.......昨年Netflixで配信されて大ヒットした台湾のホラー映画。

ーーSNSでの反響や考察が作品作りに影響することはありますか?

皆口:自分はないですね。特に『Q』は全12話の連番で作っているので途中でブレちゃうのが一番良くないので、むしろ影響されないように気をつけてます。いち視聴者としても、クリエイターには観客の感想に影響を受けてほしくないと思っていて、視聴者とクリエイターの距離感は保っていてほしいんです。


大森:僕も同じような考えで、影響されないように気をつけています。ただ、『奥様ッソ!』は僕が初めて演出する作品だったってこともあって、何がなんでも視聴者に見つかろうっていう気持ちで作った部分もあったんですね。俗な考えですけど「絶対に話題になりたい」っていう感覚が正直ありました。だから僕自身の好みというか趣味、趣向より外れて、かなりわかりやすくしたんですけど、SNS等で見る感想には「わかりやす過ぎる」っていう声があったんですよね。それで、次からは自分の好みの雰囲気をもうちょっと押し出してもいいのかもな、と背中を押されたというか。これも影響といえば影響だとは思うんですけどね。

『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』のお宅ロケシーンより抜粋

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