インタビュー

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2023年05月25日

「何かを信じたい気持ちはあって当然」磯村勇斗×荻上直子監督の心の拠り所

「何かを信じたい気持ちはあって当然」磯村勇斗×荻上直子監督の心の拠り所

介護や新興宗教、障害者差別といった現代社会が抱える問題に焦点を当てた映画『波紋』が5月26日(金)より公開される。

同作は『かもめ食堂』などで知られる荻上直子が企画・監督・脚本を手がけたオリジナルストーリー。

主人公は、とあることがきっかけで「緑命会」という新興宗教を信仰するようになり、祈りと勉強会に励む主婦・須藤依子(筒井真理子)。その熱心さとは裏腹に、どんどんと降りかかる苦難を宗教にすがることで押さえつけようとする姿を描いている。

本作で依子の息子・拓哉を演じた磯村勇斗と、荻上直子監督にインタビュー。作品の話と合わせて、それぞれがすがりたいものを聞くと、2人ならではの次回作の構想も見えてきた。

磯村勇斗は「映像映えする役者」

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――2021年に放送された『珈琲いかがでしょう』(テレビ東京系)以来のタッグとなるおふたり。改めてそれぞれの印象を教えてください。


荻上直子監督(以下、荻上監督):『珈琲いかがでしょう』で一緒に仕事をしたとき、非常に映像映えする役者さんだなと思いました。その印象が残っていて、今回お願いしたいなと思いました。

磯村勇斗(以下、磯村):『珈琲いかがでしょう』では、監督の担当した回への出演が少しだけだったんです。それにドラマの場合、どうしてもスケジュールがタイトになりがちなので、もっと演出をつけていただきたいなと思っていました。

――今回の現場で新たに気づいた点はありますか?

磯村:現場で、ずっとお芝居を見てくださったのが印象的でした。ドラマのとき以上に、一緒に作っているというのをより強く感じられてうれしかったです。

荻上:今回はゆっくり撮影できましたからね。私は、磯村さんって本当に現場が好きな方なんだなと思いました。俳優さんによっては、役に入り混むために控え室にこもる方もいるのですが、スタッフさんとも気さくに話していらっしゃって。

磯村:うれしいです。

荻上:特に光石(研)さんと一緒に盛り上がってらっしゃるなと見ていました。

磯村:そうなんですよ。光石さんがスエットでいらっしゃったときに「ストリートファッションっぽくて、かっこいいですね」って言ったら「だろ? ストリートなんだよ」って喜んでくださって、そこからハマっちゃったらしくて。毎日、帰るときに「俺、ストリート」っておっしゃってました。

荻上監督:普通のスエットじゃなかったでしたっけ?

磯村:そうなんですけど、イケオジな感じがしたので。

荻上監督:ふたりで現場を盛り上げてくださっているのを見て、素敵だなと感じていましたが、そういうことだったんですね(笑)。

「自分をよく見せたい」とは思うもの

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――『波紋』は脚本・企画ともに監督が「オリジナルで勝負したい」と制作した作品だと伺っております。新興宗教と家族、答えのない非常に難しいテーマのように思えましたが、このテーマにしようと思ったのは、なぜなのでしょう?


荻上監督:うちの近所に宗教施設があって、日々キレイな格好をした奥様たちが行き来しているんです。しかも、雨の日に通りかかったときには、傘立てにぎゅーぎゅーに傘が入っているほど。それを見て「こんなにたくさんの人がここを拠り所としているんだ」と思ったら「この人たちが、いそいそと通ってらっしゃるのはなぜなんだろう?」と気になったんですよ。それがきっかけで、宗教にハマってしまう主婦を題材にしようと思いました。

――磯村さんは、初めて脚本を読んだときにどのような感想を持ちましたか?

磯村:今の時代にマッチしている映画だなと思いました。他人事じゃないし、考えなきゃいけない部分だなと。

それから監督のこれまでの作品は、登場人物が近くにいるような存在の人たちが多く、あたたかい印象を持っていたのですが、『波紋』はそこに加えて、エッジが効いている作品だなと。特に筒井さんが演じる依子の、夫(光石研)に対する態度や行動が怖くて「荻上さんの頭の中って、どうなっているんだろう」と思いましたね。

荻上監督:たしかに、筒井さんが演じた依子は怖いですよね。

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――絵に描いたような“いい人”依子だからこそ、表では見せない顔の怖さが際立っていましたよね。

荻上監督:「自分をよく見せたい」という気持ちって、誰にでもあると思うんです。でも、全部が全部“いい人”ってきっといなくて、意地悪な部分もあって当然かなと。そういう面を描きたいなと思いました。

磯村:たしかに。嫌な部分は誰にでもありますよね。依子のように行動に移すことはないとはいえ、気持ちはわかるなと思いました。

――磯村さんは、今回、母親が新興宗教にハマってしまうという難しい役柄でした。拓也という役への印象を教えてください。

磯村:根はすごく優しい人物だからこそ葛藤している印象を受けました。家族は大事にしたいけど、自分の手では何もできなくてもどかしくて、辛さがあるんだろうなって。そういうところから生まれる母に対して父に対して、そして恋人に対しての接し方の違いはしっかり表現していきたいなと思いながら演じていました。

何かを信じたい気持ちは、あって当然

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――磯村さんは2022年公開の映画『ビリーバーズ』でも、宗教をテーマとした作品に取り組まれましたよね。


磯村:そうですね。前回は母親の影響で宗教に入ったキャラクター、今回は母親が入っているけど、それを1歩引いて見ている息子のキャラクターでした。そういうところでは明らかに違うのですが、どっちの作品も宗教に対して、あまりよく描いていないという意味では通じているなと感じましたね。

荻上監督:信仰って別に悪いものではないんですけど、日本ではなかなかマイナスな見方もなくならないですよね。私は自分で信じている宗教は持っていないのですが、つい神頼みしちゃうこともあって。何かを信じる気持ちっていうのは、誰しも持っていますよね。

磯村:そう。僕も「神様、お願いします」って祈っちゃうときはありますもん。ただ、すがって生きていける先が宗教しかないとなってしまうのは、ちょっと怖いなとも思います。

荻上監督:たしかにすがれるものがあると、すごく楽だろうなっていうのはわかるのですが、それが1つというのはちょっと危険だなと改めて思いました。

磯村:だから、もし自分の母親が依子のようになってしまったら、心の拠り所になる別のものを一生懸命探すと思います。

磯村、荻上がついついすがってしまう共通のもの

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――おふたりがついついすがってしまうもの、心の拠り所はありますか?


磯村:定番になっちゃいますけど、サウナですね。

荻上監督:私もです。普段はずっと仕事のことを考えちゃうんですけど、サウナにいる時間は自然と離れられるので。空っぽでいられるんですよね。

――おふたりはどんなサウナが好きなのでしょう?

荻上監督:実は「かもめ食堂」の後、5年間くらい毎年夏にフィンランドに行っていました。コテージを借りて、薪で焚いたサウナに入り、目の前の湖に真っ裸で飛び込む。あれが、本当に最高なんですよね。

磯村:めちゃくちゃいいですね。僕もフィンランドで入ったサウナが忘れられません。室内が薪の煙で黒くなっていて、燻された香りがしました。その香りが出た後でもずっと続いて……あれがたまらなかった!

――さすが! 本場のサウナも体感済みですもんね。日常的に行けるサウナとなると、どんなところを重視して選んでいらっしゃいますか?

磯村:僕は湿度があるほうが好きです。カラカラすぎると、やはり髪や肌にもダメージがあるので。

荻上監督:私もですね。サウナストーンにロウリュウをかけてジュウって音を聞けたら、なお最高。次回、磯村さんとご一緒するなら、フィンランドでサウナとビールを堪能するような作品がいいですね。「かもめ食堂」の続編のような。

磯村:最高ですね。ぜひ、ご一緒したいです。

(撮影=Marco Perboni/取材・文=於ありさ)

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