俳優・映画人コラム

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2023年05月26日

<出演作で振り返る>弱冠二十歳・作間龍斗が無自覚に醸し出す滋味深さ

<出演作で振り返る>弱冠二十歳・作間龍斗が無自覚に醸し出す滋味深さ

自然体を意識した時点で、それはすでに不自然とも言えるのではないか。

いきなり禅問答のような書き出しになってしまったが、この雑文は作間龍斗という若者について綴っていることを、先に述べておく。さらに念のため記すと、彼はHiHi Jetsというグループのメンバーにして4年ほど前からドラマや映画にも出演、1作ごとに評価を高めて頭角を現してきたことも加えておきたい。

作間龍斗という逸材

いわばネクストブレイク候補の一角と目される、2002年9月生まれの弱冠二十歳。ほどなく最終話がオンエアになるドラマ『ながたんと青と ーいちかの料理帖ー』(WOWOW/門脇麦主演)になぞらえるなら、一見すると澄んだスープだが……口にしてみるといささか荒削りながらも出汁がきいた旨味のある芝居が魅力、といったところか。あるいは「異才にして異彩を放ちながらも、雑味を感じさせない」と言い換えることも可能だろう。何にしても、作り手たちの創意をかき立てる“逸材”であることは紛れもない。

端的に評するなら、「無自覚に表現欲を削ぎ落として、ただただその場に存在できる」ことが、作間をひと味違う俳優たらしめている。もちろん彼自身は台本を読み込んで役と向き合い、相当な準備をして現場へ来て芝居をしていることは想像に難くない。だが、画角の中に役として立っている彼はストンとほどよく力が抜けていて、それこそ極めてナチュラルに振る舞っているように見えるのだ。

初出演の映画『ひらいて』で魅せた芝居

©綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会
©綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会

その“自然体”は初めて出演した映画『ひらいて』(21年)の時点で、すでに確立されていた。作間が演じたのは、主人公・木村愛(山田杏奈)が密かに恋慕するクラスメート・西村たとえ役。ふだんは物静かで特段目立つこともないが、すでに学校という狭い社会から外へ目を向けた視座の高さが、彼をそう振る舞わせていることが徐々に明らかになってくる。

同じく存在感が希薄な女生徒の新藤美雪(芋生悠)とは互いに惹かれ合って恋人関係(※似た孤独を抱えたソウルメイトにも近い)にあるが、校内で2人のことを知る者は皆無。だが、やるせない恋心をこじらせていく愛の知るところとなり、いつしか歪んだ想いは美雪へと向けられていく──。

長身にして痩身、さらには小顔と、どちらかと言えば目立つ容姿の作間だが、それだけに『ひらいて』劇中での気配の消し方は絶妙というほかない。生徒の1人として集団に溶け込んでいるたたずまい(※カット割りやカメラワークによって、その存在はクローズアップされている)、光を宿していないわけではないが、どことなく醒めている瞳……と、たとえの低温的な面をシームレスに体現せしめた芝居に、いつしか映画を観ている者は胸をジワジワと抉られる。

とりわけ印象的なのは物語が後半に差し掛かる、夜の教室における愛と2人きりのシークエンス。恋心を抑えきれず、すがりつくように想いをぶつけてくる愛をいじましく思ってか、声を荒げることなく蔑むようにして対峙する一連の振る舞いが憎いくらい、かつ怖いくらい役とフィットする。この数分間だけでも、作間のポテンシャルの高さを感じとれるはずだ。

『ヴィレッジ』への抜擢、与えられた重要な役どころ

©️2023「ヴィレッジ」製作委員会

実際、『ひらいて』を観た映画会社スターサンズの河村光庸プロデューサーが、藤井道人監督・横浜流星主演の『ヴィレッジ』(公開中)に作間を抜擢したことは、映画ファンにはよく知られた話だろう。

閉塞感が漂う山間の村で織りなされる、一見濃密なようでいて空虚な人間関係のループ。映画は前半と後半でクッキリとトーンが分かれるが、作間は後半のさらなる終盤でキーマンとなる大役を担った。内気な性格の役ということもあって前半ではセリフもほとんどなく、それこそ存在を忘れてしまいそうな出方だったが、陰から陽に転じた主人公・片山優の運命を意図することなく左右する“決定打”を放つ役どころを、これまた粛々とやってのけた

聞けば、当初は作間の演じる中井恵一に当該のシーンはなかったが、現場で作間の芝居を見た藤井監督が新たにシナリオに加えたとのこと。河村プロデューサーの慧眼、そして大一番で重要なポジションを託した藤井監督の決断。それらが正しかったことを、作間は自ら証明してみせたと言っても過言ではないだろう。

役者としての今後に高まる期待

アイドルとしての“華”もありながら、ひとたび作品に入れば素材に徹することができる。おのずと作間へのオファーが増えたとしても何ら不思議ではなく、このたび最終回を迎える『ながたんと青と〜』への出演を知ったときにも、大いにうなずいたものだ。

ただ本作の場合は俳優としての力量はもちろん、磯谷友紀による同名漫画の実写化ということで原作の山口周とビジュアルが近かったことも、配役のアドバンテージになったと考えられる(しかも撮影時は周と同じ19歳だった!)。

本編でも、まさしく原作からそのまんま飛び出してきたようなたたずまいを見せ、クールな中にも「いち日(門脇)のつくる革新的な京料理で、料亭『桑乃木』を建て直したい」と静かに理想を燃やし、しきたりや概念にとらわれず時に歯に衣着せぬ物言いをする“青と(=京都の方言で青唐辛子のこと。若さゆえ青くさい考え方の周を、いち日は陰でそう呼ぶ)”っぷりを、自然体で演じてきた。第1話の時点では味覚が確かながらも鼻持ちならない感じを香らせつつ、物語が進むごとに“人間味”を少しずつ染み渡らせていったさまは、見事というほかない

なお最終話の見せ場の1つに、 『桑乃木』の存亡を懸けた料理人コンテストを前にして不安を募らせるいち日に対し、周が愛情を込めて励ますシーンがある。ここでの一連の仕草こそ、まさに作間の真骨頂そのもの。けっして華美すぎず、なのに清々しくて品がある──ジワリと口の中で溶けて広がっていくような滋味深さに満ちているのだ。第1話からの伏線回収という意味でも舌鼓を打つ仕上がりとなっているので、「乞うご期待!」と煽っておこう(笑)。

ちなみに作間のフィルモグラフィーをたどると、ミステリアス、クール、ストイックといったキャラクターが多いことに気づかされる。グループのメンバー全員で主演を務めた『全力!クリーナーズ』(ABC・テレビ朝日ほか/22年)でのリーゼント姿とオラオラ系キャラ・おまめこと三津豆亮役が今のところ例外だが、敬愛する先輩の1人である生田斗真が『土竜の唄』シリーズで見せたような振り切った芝居も見てみたいものだ。

実際、メンバーの井上瑞稀・高橋優斗と主演を務めた『DIVE!!』(テレビ東京系/21年)第1話の家族での食卓シーンでは、虫眼鏡を使っての大喜利的な芝居(瑠東東一郎監督ならではのお遊び、と言えそう)にも挑んでいるが、落ち着いたイメージとのギャップも相まって妙味を生んでいた。

もっとも、そう遠くない段階で陽気な方向に振った役のオファーも届くことだろう。そう思わせるだけの素材としての味わい深さが、すでに作間龍斗には備わっている

(文:平田真人)

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