マリオ映画がディズニー映画に匹敵する大ヒットを記録。任天堂は映画産業に本格進出するのか?
任天堂のキャラクター、マリオを主人公にしたアニメーション映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(以下マリオ映画)が、世界中で大ヒットしています。
公開初週の全世界の成績は、全てのアニメーション映画の中で歴代No.1の成績を記録。日本ではゴールデンウィークに公開され、現在100億円を超える大ヒットとなっています。世界でもその勢いはまだ衰えず、アニメーション映画の歴代興行収入ランキングで『アナと雪の女王』を超えて2位につけたと先日報じられました。これで上にいるのは『アナと雪の女王2』だけとなっています。
これだけの成績を収めることができたのは、イルミネーションの作ったアニメーションが素晴らしかったのはもちろんですが、やはり“マリオ”というキャラクターが世界中で老若男女に広く認知されていたということでしょう。この映画の成績は、任天堂の代表的キャラクターがディズニーに匹敵するほどの認知度を持っていたことを改めて証明したと言えます。
任天堂は、この『マリオ映画』にライセンスや原作使用の許可を出すだけでなく、製作費の出資もし、共同製作という形で参画しています。
これは、ゲーム業界の巨人が映画産業に本格進出することを意味するのでしょうか。もしそうならば、ディズニーに匹敵する人気キャラクターを持つ会社が突然、映画産業に舞い降りたということになります。
果たして、任天堂は映画産業に本格展開するのか、考えてみたいと思います。
[※本記事は広告リンクを含みます。]
▶︎『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を観る
■『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』関連コラムをもっと読む
ディズニービジネスの源泉はキャラクターIP
ディズニーは言わずと知れた映画産業の絶対王者です。自社制作の名作アニメーション映画の数々に、ピクサー、マーベルや『スター・ウォーズ』などの人気フランチャイズを多数擁しています。
そのディズニーのビジネスの中核となっているのは、キャラクターIP(知的財産)です。映画に登場したキャラクターたちは、単に映画をヒットさせるだけでなく、マーチャンダイジングや商品化ライセンス、テーマパークなどへの誘引で大きな利益を生み出しており、社会の隅々にまで浸透しています。
キャラクターがさらにディズニーのブランド力を押し上げ、影響力を高めているのです。テーマパークに世界中から来園者が訪れるのは、映画で見たあの世界に憧れ、大好きなキャラクターの住む世界を体験したいと思うからですよね。
映画産業において、ディズニーほどキャラクターIPを有効活用している会社は他にないでしょう。一般的な映画はその作品だけで利益を上げねばなりませんが、ディズニーはキャラクターIPが収益源の多角化を可能にしています。
中でも、アニメーション映画に登場したキャラクターたちは、今でも稼ぎ頭の1つとなっています。傘下のピクサー作品の『トイ・ストーリー』等のキャラクターを含め、ミッキーマウス、歴代ディズニープリンセスなど、世界中で愛され続けているキャラクターがディズニーのビジネスを支えているのです。
任天堂のキャラクター認知度はディズニーにも匹敵する
今回の『マリオ映画』の世界的大ヒット、しかもディズニーアニメーションに匹敵するほどの動員を記録しているというのは、任天堂のキャラクターがディズニーに匹敵する知名度を持っていることを、誰の目にも明らかにしたことでしょう。
任天堂の主力事業はゲームで、ディズニーは映画でしたが、同じ映画の土俵に乗っても戦えることを証明したわけです。『アナ雪』を超えるというのは相当なことです。この作品は、伝統的なディズニープリンセスを継承しつつも刷新し、現代ディズニーを象徴する作品と言えます。
実際、マリオの認知度はこれまでも非常に高かったのです。電通の調査によれは、ディズニーの本拠地アメリカですら「キャラクター」認知度ランキングでマリオはミッキーマウスを抑えて一位になったことがあります。
そう考えると任天堂という会社は、キャラクターIPでディズニーに対抗するだけの力を秘めているというのは決して言い過ぎではありません。他にも任天堂には「ゼルダの伝説」や「星のカービィ」などを持っていますし、近年のヒット作では「スプラトゥーン」や「あつまれ どうぶつの森」などを生み出しています。この豊富なキャラクターIPをフルに映画産業で活用してきたら、もしかしたら、任天堂はディズニーに勝負を挑める会社になるかもしれません。
任天堂の関連会社のキャラクターでは、ポケモンの実写映画も大ヒットを記録しています。日本のゲームのキャラクターというのは、本当に世界的に認知が高いのです。
任天堂社長の気になる発言
ただ、実際に任天堂は本気で映画産業に乗り出すつもりがあるのでしょうか。実は、今年の決算説明会で、古川俊太郎社長からそれを示唆するような発言がありました。
Q&Aの中でIP展開の取り組みについての質問に対し古川社長は、『マリオ映画』の成果について以下のように答えています。
基本戦略として掲げてきた「任天堂IPに触れる人口の拡大」の事例として、大きな成果が出せたと考えています。
<中略>
長期的には、これまであまりゲームを手に取られたことのない方や、以前は(当社のゲーム機で)遊ばれていたものの、プレイから離れておられる方に再びマリオや任天堂のファンになっていただくための強力なタッチポイントになると考えています。
<中略>
今後については、昨年ニンテンドーピクチャーズを子会社化したように、さまざまな映像制作にも力を入れていく方針です。
2023 年3月期期決算説明会(オンライン)質疑応答要旨より
『マリオ映画』が「任天堂IPに触れる人口の拡大」に貢献したことを認め、さらに「さまざまな映像制作に力を入れていく」と明言しています。
古川社長の言葉に出てくる「ニンテンドーピクチャーズ」は2022年7月、ダイナモピクチャーズというCG制作会社を完全子会社化して設立されました。その発表の際、同社設立の目的は「自社IPの映像コンテンツを継続的に制作すること」と報道されており、昨年から任天堂は映像制作にも乗り出す意志を示しています。
今のところ、ニンテンドーピクチャーズは東映アニメーションの作品でCG制作協力をしたりとそれほど大きな動きはしていませんが、将来的には自社のIPを生かした作品を自社で制作するのだろうと予想されます。
実際にどんなコンテンツを映像化するのか、まだわかりません。しかし、世界中に任天堂のゲーム作品を映像作品として楽しみたいという希望は多いでしょう。つい最近も、新作ゲーム「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」が世界中で大ヒットしている中で、開発プロデューサーとディレクターが、映画化には興味あるという発言をしていたことが報じられており、ファンの期待が高まっています。「ゼルダの伝説」のあの壮大な世界観が大きなスクリーンで体験できるとなれば、多くのファンが劇場に詰めかけ大ヒットが期待できるでしょう。
任天堂はあくまでゲーム会社であり、映画はゲームに触れるきっかけという位置づけになるでしょうが、ゲームでの人気を他の分野に応用できれば、任天堂キャラクターのファンはさらに広がっていくでしょう。
今回、イルミネーションと組んで映画製作したように、ディズニーのように全て自社で作るようなことはないでしょうが、IPの供給元として大きな影響力を振るうようになれば、世界の映画産業の台風の目になれるポテンシャルがあるでしょう。
おそらく任天堂は、キャラクターIPのを活かしたビジネスで、唯一ディズニーに対抗できる可能性を持った企業です。本当に任天堂が本格的に映画事業に乗り出せば、日本の映画産業を飛び越えて世界の映画産業の中で重要なポジションを獲得できる可能性があるのではないでしょうか。
(文:杉本穂高)
■『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』関連コラムをもっと読む
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
(C) 2023 Nintendo and Universal Studios