『グリード ファストファッション帝国の真実』レビュー:資本主義の強欲怪物が織り成す醜悪狂乱、そして魅惑的人生
『グリード ファストファッション帝国の真実』レビュー:資本主義の強欲怪物が織り成す醜悪狂乱、そして魅惑的人生
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
富と名声を手に入れた者とは、かくも醜いものなのか……。
いや、もちろん全員が全員そうではないにしても、この映画を見ると「俺って平凡な人生で幸せなのかも……(でも、もう少しはお金が欲しい)」と、思わず自分自身を肯定してしまいたくなることでしょう。
原題&邦題でもある“GREED”=強欲という意味を持つ本作、とりあえずフィクションの物語ではありますが、主人公となるファストファッション業界の帝王リチャード・マクリディ卿(スティーヴ・クーガン)のモデルは、2020年に破産したアパレルブランド「TOPSHOP」創業者フィリップ・グリーン卿とのこと。
そして映画を見続けていくと、嗚呼、こういう輩は世界中どこにでも少数ながらも実在し、一般庶民から巧みにアレコレ搾り取っては私腹を肥やし続けているんだよなってことを痛感させられっぱなし(日本にもいますよね、例えば……)。
イギリス映画界が誇る名匠マイケル・ウィンターボトム監督は、エーゲ海を望む美しいギリシャ・ミコノス島での、あたかもローマ皇帝気取りの主人公が主催する狂宴の準備を通して、皮肉にもほどがある痛烈なブリティック・ジョークの精神をもって、もはや怪物としか言いようのない主人公の強欲セレブ人生の軌跡を描いていきます。
そして困ったことに、この男の醜悪さが際立てば際立つほどに映画そのものは面白く回転してしまうという、巨悪ならではの不可思議でパワフルなオーラを魅惑的に堪能できてしまうのですが、これもまた映画ならではの愉悦であると信じたいもの。
とどのつまり、人間みんなサクセス・ストーリーを夢見つつ、その大半の人々は叶えられぬまま、成り上がることが出来た一握りの強欲ビッチに対して畏敬と嫌悪の双方の想いを抱いてしまうことを再確認させられてしまう映画でもあります。
主人公の周囲を取り巻きながら右往左往し続ける大勢のサブ・キャラクターひとりひとりは、実は私たち自身を投影した姿なのかもしれません。
とにもかくにも派手で、悪趣味で、どす黒く、そしてスケールのでかい資本主義の怪物が画面狭しと立ち回る、ある意味究極のモンスター映画です。
いっそ『ゴジラVSコング』の予習気分で見に行かれるのも一興でしょう!(もちろん冗談です)
(文:増當竜也)
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