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2023年春ドラマ、忘れられない“あの人”


2023年4月クールの春ドラマが続々と終了。この変遷期にほぼ毎度、話題に上がるのが「〇〇ロス」という言葉だ。

意味や使われるシーンは数多あれど、この時期のその言葉はドラマ作品そのものに対して、あるいはドラマの中に登場するキャラクターや演者に対して使われることが多い。

今回はキャラクターとして、役者として、筆者の心に残っている忘れられないあの人たちをピックアップ。6作品7人への想いを綴りたい。

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「墜落JKと廃人教師」

■好きになってはいけないクズ教師・灰葉 仁



無気力でギャンブル好きで金欠なクズ教師×ネガティブJKの吊り橋効果ラブコメディ「墜落JKと廃人教師」。本作で廃人教師、灰葉 仁を演じたのは22歳の橋本涼だった。

正直、キャスティングが発表された際「まだ教師をやるのには早いのでは?」と思ったのだが、物語の幕が閉じた今は、とんでもないハマり役だったと振り返る。

そう思えたのは、灰葉のわかりづらいヒーローっぷりと橋本涼のコラボレーションだろう。

物語は失恋のショックで屋上から飛び降り自殺をしようとしていた墜落JKこと落合扇言(髙石あかり)のもとに、物理教師の灰葉が現れるところからスタート。

ここで、灰葉は「生きていたら良いことがある」「死ぬなんてもったいない」といった自殺を引き止める常套句を言わない。「死ぬ前に俺と恋愛しない?」と、生徒である扇言と同じ目線で告白するのだ。

正直、自殺を止めるためなのか本心なのかはわかりづらい。心配しているだけなのか、恋ゆえなのかも。

このドラマでは、各話で「もしかしてさっきの行動、私を守るため?」と思わせる灰葉の言動が鍵となっているのだが、それを扇言と一緒に気にかけているうちに、視聴者までもが好きになってしまうのが灰葉なのだ。

その気づいたら好きになってしまうっぷりは、色気溢れる表情とパフォーマンスでファンを魅了する橋本と通ずるものを感じる。

「おーい、JK」と呼びかける甘ったるい声。いたずらっぽく、想いを伝える彼はずるかった。

「王様に捧ぐ薬指」

■山田涼介の魅力を凝縮した新田東郷

(c)TBS

大好きな家族を守るべく契約結婚を選んだ“ド貧乏シンデレラ”と、業績不振の結婚式場を立て直すため結婚を選んだ“ツンデレ御曹司”が繰り広げるラブコメディ「王様に捧ぐ薬指」。

同作は、「こんな作品、令和に見たかった!」と思わせるような納得感の強いドラマの1つだったと思う。

放送開始前は、圧倒的なビジュアルを誇る山田涼介と橋本環奈のコラボレーションとして話題になった同作。しかし、いざ始まってしまえば、ポップかつ心揺さぶるストーリー込みで好きになった人も多いことだろう。

そして、山田涼介演じる御曹司、かつ“キング”新田東郷は見事だった。セレブ男性が理想の恋人を探す恋愛リアリティショーのパロディでの名言「俺は誰も選ばない」を言っても「何言ってるんだ」と思わせない、馴染みっぷり。1話ではツンとした表情をしていた東郷が、回を重ねるごとに綾華に対して表情を緩ませていくさまはたまらない。

ダンス曲ではビシッと決め、愛嬌たっぷりのかわいらしい曲では全力でかわいいに振り切る、山田がこれまでのステージで見せてきた表現の幅を10話使ってじっくりと見せてもらった気がした。

もしこれからの人生で「山田涼介くんが気になっていて」と言う人に出会ったら、私はこのドラマを布教するだろう。

「往生際の意味を知れ」

■怖さを感じる一途っぷり市松海路



一途な愛も、立場が変われば背筋を凍らせるような恐怖へと変わる。「往生際の意味を知れ」は、そんなことを教えてくれた作品だ。

同作は、国民的エッセイ「星の三姉妹」の著者・日下部由紀(山本未來)の娘、日下部日和(見上愛)と、彼女と7年前に別れた元恋人・市松海路による“妊娠復讐劇”を描いたもの。

7年同じ相手を思っていると言えば聞こえはいいが、市松のように“元カノと結婚したい”と公言しているとなると、話は少々変わってくる。加えて、7年経った今でも日和との写真や映像を視聴し、自我を保っている市松は言葉を選ばずにいうと、少々気味が悪い。彼の重たすぎる愛は、ねっとりとしている梅雨時期の蒸し暑さのような気持ち悪さがある。もしも自分が日和なら「どうか自分のことなど忘れてくれ」と願ってしまいそうだ。

ただ、全話感想した今でも私は市松を嫌いになれない。「日和と関わらずに、幸せになればいいのに」という気持ちと「日和と一緒になれたらいいね」という相反する気持ちを共存させる。そう思わせるのは、実力派俳優・青木柚が、これまで培ってきた経験の中で見出した市松への解釈、現実とコミックスのバランス感が絶妙だったがゆえだろう。

「月読くんの禁断お夜食」

■おいしいを表現する天才トリンドル玲奈

「自分はそんなにストイックじゃない」そう思っていても、生活を成り立たせるためにやるべきことをやり、人間として最低限の健康的な生活を送るよう行動している。言葉にすると、私たちは生きているだけで十分頑張っている気がするが、現実は自分を甘やかすことほど難しいことはない。むしろ「私はダメダメだ」と自分を追い詰めてしまったり、より高みを目指すためにいろんなことを制御したり……。

「月読くんの禁断お夜食」の御神そよぎ(トリンドル玲奈)は、まさに今の時代を生きている人を体現したようなキャラクターだった。

そんなそよぎが、突然現れたミステリアスな料理上手男子・月読悠河(萩原利久)が作る週に1度の禁断お夜食に魅了される表情は多幸感に溢れていた。

口いっぱいに頬張って、ゆっくりと味わうように咀嚼する姿は垂涎もの。

食べることの喜び、自分を生きることに精一杯な毎日をじんわりと溶かすようなお夜食の魅力を、常に「正解」な表情で表現しており、前クールで放送された「今夜すきやきだよ。」に続き、トリンドル玲奈×自宅で食べる手作りごはんが織りなす愛おしさを発揮していた。

あの幸せに満ち溢れた表情を見ていると、自分まで肯定された気分で眠りにつけた。(1日の終わりに放送されているのがまたちょうど良い)

どうか、またすぐに彼女とおいしいごはんのコラボレーションを見たい。

■子犬系男子のニューフェイス尾崎匠海

「月読くんの禁断お夜食」で、実力派キャストに負けじと食いついていたキャストがいる。御神そよぎの後輩・穂波司を演じたグローバルボーイズグループ・INIの尾崎匠海だ。

もともとグループ結成前から、芸能活動をし、舞台でのお芝居経験もある彼にとって、初となる全国区でのドラマ出演。

コミックスでの穂波司はちょっぴり生意気でありながらも面倒見が良い後輩。その一方で尾崎演じた穂波司は尾崎の持つ愛嬌も合間って後輩力がさらに高まっていたように感じた。

特に印象的だったのは、そよぎと月読くんが一緒にいる場面に居合わせたシーン。普段は温厚で、そよぎに対しても敬語を使う月読くんが「そよぎさんの彼氏っすか?」「穂波っす」と不機嫌そうに月読くんを見定める。その表情は後輩としての顔というよりも、想いを寄せる相手が別の男性といることへの嫉妬心を剥き出しているよう。自分の感情をコントロールできないところも含めて愛おしい。

心なしか立っているそよぎに対して、穂波は座ったり、階段の下にいたりと見上げるようなポジションも見受けられた印象。それもあって、子犬みを感じたのかもしれないが、これまで視聴者の心を鷲掴みにしてきた子犬系男子の一端を彼も担っていくに違いない、そう感じさせた。

「ホスト相続しちゃいました」

■演者としての幅を見せた兼近大樹



昨年、Amazon Prime Video限定の配信ドラマ「モアザンワーズ/More Than Words」でも話題となった役者としての兼近。

「ホスト相続しちゃしました」への出演が発表された際には、彼の芸風と近い、チャラくてパリピなホストになるのだろうと思っていたが、実際に放送されると良い意味で、その予想を裏切ってきた。

兼近が演じた如月は物語の舞台となるホストクラブの幹部の1人。ホストや指名客の前では明るく振る舞う一方で、17歳で両親を亡くし荒んだ生活を送った過去を持つ役だった。

特に印象深かったのは、第2話で指名客の女性から腹部を刺されたものの、武勇伝のように語りヘラヘラと笑いながら話すシーン。しかし、それはあくまでも後輩ホストたちを心配させないようにするためで、実際は怖さを感じていたことを打ち明けるシーンは如月の人間的な深みをぐっと感じさせてきた。

自分と近しい役でも、相反する役でも説得力のあるキャラクターに変える兼近。次はどんな役をやってくれるのか、楽しみにしたい。

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「日曜の夜ぐらいは…」

■女優としてのポジションを確保した生見愛瑠



ファッションモデルとして同世代の女子から支持を受け、バラエティでも活躍するめるること生見愛瑠。

その一方、2021年に公開された初出演映画『モエカレはオレンジ色』では、めるるの可愛さを残しつつ、健気な女子高生・佐々木萌衣を好演。その演技が評価され、第46回日本アカデミー賞にて新人俳優賞を受賞した。

そんな生見が、清野菜名・岸井ゆきのと肩を並べ、三つ巴で挑んだのが「日曜の夜ぐらいは…」だ。

ここで生見が演じたのは、祖母と借家暮らしを送りながら工場勤務を続ける樋口若葉というキャラクター。仲間の前で見せるキラキラとした彼女の笑顔はそのままに、閉鎖的な空間で恨みつらみをぶつけられ、それをただ受け止める息苦しさを視聴者に追体験させてくれた。

良い意味で、彼女の演技はめるるとしての良さを殺さない。だからこそ、同じような役を演じられる人は少ない気がしている。樋口若葉という役は、そんなことを確信させた。

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(文:於ありさ)

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