「こっち向いてよ向井くん」第1話:赤楚衛二にしか演じられない役多すぎ問題、その最たる例


ねむようこの同名漫画を原作とした赤楚衛二主演のドラマ「こっち向いてよ向井くん」(日本テレビ系)が2023年7月12日よりスタート。本作はGP帯連続ドラマ初主演となる赤楚が、雰囲気も性格も良く、仕事もできるのに10年間彼女がいない30代の男性を演じるラブコメディだ。共演には、波瑠、生田絵梨花、藤原さくら、岡山天音らが名を連ねる。

本記事では、第1話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。

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「こっち向いてよ向井くん」第1話レビュー

20代で今最も勢いのある俳優といえば?と聞かれたら、おそらく5割以上が「赤楚衛二」と回答するのではないだろうか。それくらい、今やメディアに引っ張りだこの彼。あまりにも休みなく働いているので、そろそろ心配になってくる。でも彼にしか演じられない役、あるいは彼に演じてもらうために生み出された役がたくさん存在していて、順番待ちの列ができているのだろう。

一眼見ただけで誰もが「お、いい男!」と思うルックスに、爽やかな笑顔、母性本能をくすぐられるチャーミングな仕草。それなのに決して完璧な“王子様”ではない、未熟な部分を持ち合わせたキャラクターを各テレビ局が演じさせたくなるのは、彼が繊細な心理表現を得意とするからだ。

ねむようこの人気コミック「こっち向いてよ向井くん」の実写ドラマ化も、そんな赤楚くんがいてこそ実現したと言ってもいい。赤楚くんが演じる主人公の向井は、雰囲気よし、性格よしで仕事もできる33歳の会社員。それだけ聞くと普通にモテそうだし、なんならすでに結婚していそうだ。それなのに、向井は大学時代に付き合っていた美和子(生田絵梨花)と10年前に別れて以来、一度も彼女ができていない。一体なぜ?現実世界に赤楚くんみたいなかっこいい人がいたら女が放っておかないでしょ!と解せない気持ちになるが、第1話ではその原因が判明した。

「私は守りたいなんて言われたら、見下されてんなーって思っちゃいます」

美和子との破局、それは向井が放った「ずっと守ってあげたい」という一言が原因だった。きっと向井は分からないなりに、自分の若さや収入的な面で相手を不安にさせたと理解したのだろう。妹の旦那である元気(岡山天音)が営むスパイスバーの常連客・洸稀(波瑠)がそうではないことをさり気なく指摘してくれたのに、あんまりピンと来ていない彼は久しぶりの恋で似たような失敗をおかしてしまう。

ある日、向井の会社にやってきた派遣社員の真由(田辺桃子)。優しい向井は彼女に対して親切に接する中で、ある気持ちが芽生える。あれ、もしかして俺に気があるんじゃね?(※曲解)と。そこからの彼は、まるでヒーロー気取り。困っている彼女を、俺が何とかしてあげなきゃ!という気持ち一直線で行動する。

その割に自分の好意を相手に伝えようとはしないし、挙げ句の果てに彼女の前で元カノへの未練を垂れ流す始末。そもそも、いい感じの雰囲気に流されているだけで、向井が真由に惚れ込んでいる様子は一切ない。そうこうしているうちに、後輩の河西(内藤秀一郎)に真由を持っていかれてしまうのだった。

果たして、何がダメだったのか。その答えが、洸稀の「彼女が何を求めてるのか、ちゃんと彼女の立場で考えた?イメージとか、一般論で決めてない?そもそも自分がどうしたいのか、ちゃんと考えてないんじゃない?」という台詞に全て詰まっている。

今のところ、向井は「女の子ってこうでしょ」という先入観の塊だ。“女の子”は男性に守られたい。“女の子”は男性にグイグイこられるのは苦手。“女の子”は褒められたら喜ぶ。そういうイメージに基づいて行動しているだけで、そこに相手の意志も、自分の意志も含まれてはいない。

お手本にすべき人物は、実のところ身近にいる。それは向井と正反対の元気。彼は妻の麻美(藤原さくら)に綺麗な虹の写メを送りたくなっても送らない。なぜなら、麻美がそれを求めていないことを分かっているから。多分、向井は意気揚々と送るはず。“女の子”は喜ぶと思って。そんなんだから、「もう降・参(フゥ……)付き合いますか(キラッ☆キメ顔)」なんて少女漫画のような言葉が出てくるのだ。あれ、おかしいな。赤楚くんがすることなら何でも愛おしく見えると思ったのに、ちょっと引いてる自分がいる。あの時の悦に浸った表情と台詞回しはお見事だった。

一方で、これだけダメダメな向井を見せつけられても憎めないのは、やっぱり彼の演技力の賜物だ。すること為すこと全て外しているけれど、本人は大真面目なのが伝わってくるから。最初から笑わせようと思ってやってるコミカルな演技は大概笑えない。え?まじでやってんの?と嘘でも思い込ませてくれるから、外れた行動の一つひとつが面白くなってくる。かっこいいのに、恋愛下手なのが手に取るように分かり、それでも愛らしく見える。なるほど、これは赤楚くんにしか演じられない。当分彼に休む暇はなさそうだ。

(文:苫とり子)

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