映画ビジネスコラム
【興行分析】『君たちはどう生きるか』異例な公開体制はどう活きるか?
【興行分析】『君たちはどう生きるか』異例な公開体制はどう活きるか?
2013年の『風立ちぬ』以来、10年ぶりの新作となる宮﨑駿監督長編『君たちはどう生きるか』がついに公開されました。
『風立ちぬ』で一度引退宣言をし、スタジオジブリの規模縮小となりましたが、そこからまさかの復帰作品です。
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ホントに何もしない宣伝
下記に近々の話題作の宣伝プランの比較表を作ってみました。『君たちはどう生きるか』について、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは“何もしない宣伝”を宣言して、本当に何もしていません。
他の話題作でもマスコミ試写がなかったり、チラシを作らなかったりとさまざまありましたが、『君たちはどう生きるか』については特化した宣材はポスターだけです。
吉野源三郎の同名小説については、タイトルを採ったくらいとのことで、ほぼ関連はありません。
そのほかはお馴染み金曜ロードショー枠でジブリ作品『風の谷のナウシカ』『コクリコ坂から』『もののけ姫』を放映。
ただ、これに関しては“注釈付き”という印象です。もちろん『君たちはどう生きるか』のプロモーションの一環でもあるのですが、夏休み期間中のジブリ作品の放映は金曜ロードショーの定番プログラムでもあります。
鈴木敏夫プロデューサーは『THE FIRST SLAMDUNK』の成功を見て今回の宣伝プランを採用したとのことですが、『THE FIRST SLAMDUNK』の宣伝を見てみると、予告編は複数バージョンありましたし、劇場には得点表を模した宣材物を掲出していました。また、映画と直接つながる原作コミックについては書店を中心に大掛かりな宣伝を展開していました。
『THE FIRST SLAMDUNK』と『君たちはどう生きるか』は同じような宣伝手法と言われていますが、実は随分と異なります。また秘密主義を貫いた『シン・仮面ライダー』がそこまでの興行収入にならなかったことを考えると『君たちはどう生きるか』に不安要素が浮かぶのも無理はありません。
公開前に分かっていたことは音楽を久石譲が担当するほか、数名のスタッフ、そしてジブリ作品初のIMAXなどラージフォーマット対応ということぐらいでしょう。
『君たちはどう生きるか』については宣伝手法に関しては不安要素もありますが、夏休み興行という視点で見ると『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』や『キングダム 運命の炎』などと並んで中心になって盛り上げ役になってくれないと困る部分もあるため、秘密主義を観客の飢餓感に繋げてヒットを記録したいところも事実です。
夏休み興行を占うスタートは?
最初の週末が明けて『君たちはどう生きるか』のスタートの数字が見えてきました。
海の日を含むことでやや変則的な4日間の初動数字となりましたが、興行収入は21.4億円、観客動員は135万人というものでした。
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』以降続いた、1つの劇場での20回を超える(時には40回以上)という上映数はなく、TOHOシネマズ新宿でも1日最多で13回というものでした。この点を考えると、十分な興行成績だといえるでしょう。
東宝の発表によると、2001年に公開され最終的に316.8億円を稼ぎ出した『千と千尋の神隠し』を上回るスタートで、10年前の『風立ちぬ』(最終興行輸入120.2億円)の150%という数字だそうです。
ちなみに日数にばらつきがあるため一概に比較できませんが、鈴木敏夫プロデューサーが意識した『THE FIRST SLAMDUNK』(興行収入148.4億円)は最初の2日間で12.9億円、84.7万人を動員しているため、諸々計算すると『君たちはどう生きるか』は同程度かやや下回る推移にはなっているかと思います。
参考までに数字をご紹介すると、宮﨑駿監督以外で3作連続100億円監督となった新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』の初動は最初の3日間で興行収入18.8億円、観客動員133.1万人を記録し、最終的147.9億円にまで至っています。
今年最初の100億円映画で『名探偵コナン黒鉄の魚影(サブマリン)』は初動の3日間で31.4億円、217万人を稼ぎ出しています。近年の“劇場版コナン”の初動は毎回凄まじいのですが、勢いは落ちず現在までに134億円を越えてきています。
この辺りから映画『君たちはどう生きるか』に関しては興行収入50億円以上は見込める、興行収入100億円の大台は夏休み興行の盛り上がり次第と考えられます。
1997年の『もののけ姫』以来5作連続続いてきた、宮﨑駿監督の興行収入100億円記録は少々厳しい状況にあるのかなというのが初動の数字を見ての素直な雑感です。
夏休み興行本格スタート
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が6月末に公開されましたが、今年の夏休み興行は『君たちはどう生きるか』で本格スタートと言っていいでしょう。この2〜3年はコロナ禍もあってハリウッドのブロックバスター作品は控えめでした。
脚本家組合のストライキの影響で、冬以降の作品はまた不透明になってきていますが、今夏に限っていえば『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』や『トランスフォーマー/ビースト覚醒』など大作が続き、ラージフォーマットを含めて、スクリーンの取り合いが起きると思われます。
特に『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』は昨年の『トップガンマーヴェリック』(興行収入137.2億円)の大成功という勢いがある中でのトム・クルーズ最新主演作であるため、かなりの強敵です。
これらの強敵が続く中で『君たちはどう生きるか』がどのように推移していくのか、今後にも注目です。
(文:村松健太郎)
漫画「君たちはどう生きるか」
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