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【徹底解説】『鬼滅の刃』大ヒットに導いたアニプレックスとは?




2020年、映画業界最大のトピックスは、やはり『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が『千と千尋の神隠し』の持つ歴代興行収入の記録を塗り替えたことでしょう。

映画の大ヒットには配給会社の力が必要不可欠です。映画館への「営業」と世間への「宣伝」を担う配給会社の力によってヒットの規模は確実に変わります。

近年、日本で最も強い配給会社は東宝で、『無限列車編』も東宝が配給を担当しています。しかし、本作は東宝の他にもう一社配給にクレジットされていることに気が付いた人も多いのではないかと思います。

それはアニプレックスという会社です。これまで数多くのアニメ作品を製作し、『鬼滅の刃』の製作にも名を連ねている会社ですが、近年は劇場アニメの配給事業、さらには実写映画への出資に積極的な海外展開など着実に事業を拡大しています。アニメファンにとってはお馴染みの会社であるアニプレックスですが、映画産業全体でも無視できない存在となってきていると言ってよいでしょう。

そこで、今回はアニプレックスとはどんな会社なのか、なぜ映画業界的にも重要なのかを紹介したいと思います。

アニプレックスはソニーの音楽部門の子会社



アニプレックスはソニーグループの企業で、直接の親会社はソニーミュージックです。映像事業を中心に手掛けている会社ですが、ソニーピクチャーズではなく音楽部門の子会社なのです(※1)。

設立は95年。SPE・ミュージックパブリッシングという商号でスタートし、初期にはTVアニメ『るろうに剣心』や劇場アニメ『BLOOD THE LAST VAMPIRE』などの製作に携わっています。この会社は、アニメの実制作を行うスタジオとしての機能は持たず、製作に出資するビデオソフトメーカーという立ち位置でした。

2003年に現在の社名に変更され、2005年にはアニメの実制作を行うスタジオ「A-1 Pictures」を設立。傘下にアニメ制作スタジオを持つビデオメーカーとして頭角を現し、深夜アニメを中心に多くのヒット作を手掛け続けています。

現在では、「A-1 Pictures」のほか、「CloverWorks」、CGアニメを専門にする「株式会社Boundary」と3つのアニメスタジオを傘下に持ち、それらのスタジオの他、『鬼滅の刃』のufotableなど外部のアニメスタジオとも組みながら、2000年代以降のアニメ業界をリードしてきました。

これまでに製作出資してきた作品数は膨大ですが、代表的な作品を挙げると、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、『銀魂』、『劇場版シティーハンター 〈新宿プライベート・アイズ〉』、『ソードアート・オンライン』、『夏目友人帳』『NARUTO -ナルト-』、『Fateシリーズ』、『魔法少女まどか☆マギカ』、『鉄コン筋クリート』、『鬼滅の刃』など、アニメファンの枠を超えて話題になった作品も手掛けるヒットメイカーであることがわかると思います。

近年は、アニメ制作だけでなく、ゲーム制作にも進出しており、2015年から配信開始したスマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order』などの大ヒットで大きく業績を伸ばしています。2020年にもディズニーとの共同事業でスマートフォン向けゲーム『ツイステッドワンダーランド』が大ヒットするなど、ゲーム会社としても堅実な歩みを見せており、アニメやゲーム、さらに2.5次元舞台のプロデュースも手掛けるなど、総合的なメディアミックス企業になりつつあります。

劇場アニメの配給で業績拡大



アニプレックスは、自社で出資したアニメの劇場版の配給事業も手掛けています。この映画配給事業への進出はアニプレックスにとって大きな転機だったと言えます。

アニプレックスは、ufotableが実制作を担当したアニメ映画『空の境界』全7章を配給、当初は東京テアトル1館のレイトショーのみでの公開だった作品が、熱心なファンが連日詰めかけ満席を連発。上映枠がモーニングショーにも拡大され、さらに他のテアトルグループの劇場でも公開される異例のヒットを記録しました。

『空の境界』シリーズのビジネスモデルは、アニメ業界の常識を覆すものであると同時に映画業界から見ても画期的でした。本シリーズの上映時間はそれぞれ1時間弱程度と(5章と7章は約2時間)短く、かつてなら劇場公開ではなくOVAとしてリリースされるであろう長さの作品でした。そうした作品を全7章全てを映画館で展開するというのは、ほとんど前例がありませんでした。さらに、劇場でDVD・BDの販売を行ったところ(2章公開時に1章のパッケージを販売)、かなり売れ行きが好調だったそうです。本作の成功以降、映画館で限定公開&即パッケージ販売という新しいビジネスモデルがアニメ業界に定着しました(新海誠監督の『言の葉の庭』などがこの方式を採用しています)。(※2)

そして、小規模公開であってもコアなファンに向けて熱量の高い作品を作って公開すれば、ビジネスとして成り立つことを証明したアニプレックスは、その後も、深夜アニメの劇場版を自社配給する道を選びました。2013年にアニプレックスが配給した『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』は、公開規模は決して大きくありませんでしたが10億円を超える大ヒットを記録。日本の映画産業で、東宝・東映・松竹・ディズニー・ワーナーなどのメジャー系列ではない配給会社が10億円の売上を出すことは稀にしかありません。



その後もアニプレックスは、配給会社として10億円超えのヒット映画を次々と送り出しています。「あの花」の制作チームが再結集した映画『心が叫びたがってるんだ。』は、オリジナル企画ながら11億円を超える興行収入を記録、『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』は15億円、さらに『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』は25億円を超え、2017年の日本映画第8位の成績を記録しています。(※3)



そして、『空の境界』でも組んだufotableの『劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」』3部作は、3本全て15億円を超える大ヒットを記録。非メジャー系の配給会社としては最も安定してヒットを送り出している会社と言っても過言ではありません。



そして、2020年の『無限列車編』が、東宝との共同配給で歴代興行収入を塗り替える快挙を達成。深夜アニメやゲームのみならず、映画業界においてもヒットメイカーとしての地位を確固たるものにしたと言えるでしょう。

ちなみに、『無限列車編』は、映画化の企画立ち上げ当初はアニプレックスが自社で単独配給する予定だったそうです。文化通信ジャーナル12月号の記事によると、東宝との共同配給が決まったのは2020年に入ってからだそうで、映画館への営業を東宝が担当、宣伝をアニプレックスは担う役割分担であの特大ヒットは作られたとのこと。(※4)

東宝をはじめとするメジャー配給会社の強さの秘密の一つはこの営業力です。どれだけ多く映画館をブッキングできるかは映画の売上を大きく左右する要素です。アニプレックス単独配給作品は、おおむね100館弱から150館程度の中規模公開であることが多かったですが、日本最強の配給会社、東宝の営業力を得たこともヒットの大きな要因の一つとなったでしょう。しかし、アニメファンの心理をよく知るアニプレックスが宣伝を担当したことも、歴史的ヒットに欠かせない要素だったのではないかと筆者は考えています。

実写映画にも本格的に進出

アニプレックスはアニメだけでなく、実は実写映画も手掛けています。



2005年には、矢沢あい原作の『NANA』の製作委員会に加わり、2010年版『時をかける少女』や実写版『3月のライオン』など、漫画の映画化作品や、アニメファンにも訴求力のありそうなタイトルに出資してきました。

しかし近年、又吉直樹の小説を映画化した『劇場』や沼田真佑原作の『影裏』など、アニメとは縁遠そうなタイプの実写映画まで手掛け始めています。



『劇場』は新型コロナウイルスの影響で劇場公開されずAmazon Primeでの配信となり、『影裏』もヒットと呼べるほどの成績は残していません。しかし、2021年2月に公開予定の、 ロバート・A・ハインライン原作のSF映画『夏への扉』は、『鬼滅の刃』と同じく東宝とアニプレックスの共同配給で、大ヒットが期待されるタイトルです。本作で成功を収めれば、アニプレックスはアニメだけでなく、実写映画でも見逃せない存在になっていくかもしれません。

売上高は東映を超え東宝に迫る勢い

現在のアニプレックスの稼ぎ頭はスマートフォンゲームと言われています。『Fate/Grand Order』のリリース以来、ゲーム事業が軌道に乗ると、アニプレックスの売上は急激に伸張し、2018年度には年間2000億円の売上を記録したと言われています。(※5)

2000億円の売上高がどれだけすごいかと言うと、映画会社と比較すると、トップの東宝に次ぐ勢いということになります。東宝はグループ連結で2019年度に2600億円の売上高を計上しています。業界2位の東映は、2019年度グループ全体の連結売上高が1400億円台でした。日本を代表するメディアミックス企業であるKADOKAWAとも並ぶほどの売上を上げる会社に成長しています。(※6、※7、※8)、

国内事業だけでなく、海外にも積極的に進出しています。アメリカに完全子会社である「Aniplex of America Inc.」を設立、中国にも現地法人を作り、ドイツやフランスでも業務提携を行うなどしています。(※9)

ソニーグループは、アメリカのアニメ配信サービスを展開する「クランチロール」を1200億円で買収したばかり。(※19) 大きな配信サイトをグループに持つことでアニプレックスにもシナジー効果があり、ソニーグループの中での重要さもこれまで以上に大きくなると予想されます。アニプレックスの手掛けるアニメ作品は、今後ますますグローバル市場に広がっていくことになるかもしれません。


アニプレックスは、国内の映画産業においても無視できない存在となり、さらに海外市場でも勢いを増していくことになるかもしれません。今後の日本映画は、同社なくして語れないという時代が訪れても不思議ではないでしょう。

(文:杉本穂高)

参照一覧


※1:会社案内 | Aniplex | アニプレックス オフィシャルサイト
※2:もはや映画宣伝に“王道”はない――『東のエデン』に学ぶ、単館上映ビジネス(後編) - ITmedia ビジネスオンライン 
※3:過去興行収入上位作品 一般社団法人日本映画製作者連盟 
※4:文化通信ジャーナル、2020年12月号、P7「特集 -コロナ時代が生んだ奇跡の大興行- 劇場版『鬼滅の刃』は映画界に何をもたらしたか」、文化通信社刊
※5:アニプレックス、18年3月期は売上・利益とも倍増 売上高2000億円、営業利益500億円超え 『Fate/Grand Order』が国内外で大ヒット | Social Game Info
※6:東宝株式会社2020年2月期(2019年3月1日〜2020年2月29日)決算説明資料
※7:東映株式会社 第97期報告書 
※8:株式会社KADOKAWA 2020年3月期通期決算
※9:アニプレックスが中国現地法人設立 作品開発やライセンス・商品ビジネス | アニメーションビジネス・ジャーナル 
※10:ソニー、米アニメ配信大手買収を正式発表 1200億円で: 日本経済新聞
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