「らんまん」万太郎は「無知な人」<第83回>


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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。

「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。

ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第83回を紐解いていく。

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楽しむことをおそれない

「望みって?」とゆう(山谷花純)の問いかけから主題歌へーー。いい感じのアヴァンでした。

アヴァンのなかでゆうと福治(池田鉄洋)が水辺に座って語り合います。

「あたしたちにとって『楽しい』はもう特別なことじゃなくなった。これが日常茶飯事になったのよ。だから楽しむこと もうこわがらなくていいのよ。たとえ悪いことが起こっても その先できっとまた笑えるんだから」

とゆうはしみじみ言います。
そこで福治が「俺も望んでいいのかよ?」と聞いたときに、ゆうが返したのが「望みって?」でした。

クサ長屋の惨状は、それほど具体的かつ執拗に描かれていませんでしたが、日が当たらず暗く、吹き溜まりのような場所ではありました。住人たちには暗い過去があって……。

それが、変わったのは、万太郎(神木隆之介)が来てからです。長屋の暗さの象徴のようなドクダミを摘んで役立たせたことから、長屋は変わっていきました。

福治もゆうも、倉木(大東駿介)も、過去のつらい体験に縛られて、いいことがあってもまた悪いことが起こると身構え過ぎていた。でも、いいことばかり続くこともないけれど、悪いことばかり続くこともありません。

万太郎は水辺ではしゃいで池に落ちたけれど、見たことのない水草を発見しました。

大事なことは、思い込みをなくすこと。不幸な人は幸福になっていけないわけではない。笑っていけない人なんていない。

そして、たとえ、悪いことがあっても、打ちのめされ、身を固くし続けるのではなく、その先にあるはずの光を見るようにすること。もちろん、ゆっくり、自分のペースで。いつかきっと、楽しいことにまた出会える。

「人生、上等目指しちまうか」(福治)

世界で、苦しんでいる人たちに、必ず、いいことがある、そんな祈りの物語に思えました。

その舞台が、晴れて清々しい、水もたたえた草原であることがすてきでした。

ところが、いいことあるよ、と言いながら、ひたひたと悪そうなことが近づいてきているような予感も漂っています。

田邊(要潤)は相変わらず、万太郎に敵意を燃やし、野宮(亀田佳明)に万太郎を越えろと命じます。でも、野宮は

「あの人は裏表のない 無邪気で 無知な人なんです」
(野宮)

とかばい、研究室に、万太郎を呼び戻し、植物画家をふたり体制にすべきだと提案します。

「無邪気」は褒め言葉として使用頻度は高いですが、「無知」も褒め言葉に使うのをはじめて聞いた気がします。「無知」がいいこともあるのです。知らないことの強さはあると思います。常識に囚われすぎて身動きがとれなくなることもありますが、何も知らないと可能性が広がります。「無知の知」という言葉もありますし。

野宮は、実に冷静で、ものごとを俯瞰して、公平に見ています。そんな性格だったら精密画も描けそうな気がします。現に上達してきています。が、彼の描きたい西洋画で大成してほしいものです。

野宮に進言されても、田邊は、万太郎に一度断られているので意固地になっています。その頃、万太郎は、「無知」(というか学歴がない)ため、仕事がなく途方に暮れていました。このままでは、植物図鑑の刊行が危ぶまれます。子育てにお金も必要ですし……。

田邊と万太郎の思惑をすり合わせることができるかも? これはいいことのようですが、どうも悪いことを匂わせ続けていて、心配です。

ところで、「おはようニッポン」(関東版)の朝ドラ送りが断続的に行われていますが、あまりに自然なおしゃべりで、さわやかなそよ風のように流れていき、あまり書き留められないのですが、そこが良さな感じがしています。まさに「日常茶飯事」の生活に根ざした朝ドラ語りだから。アナウンサー4人がそれぞれ話して、ひとつの見方に限定してないことが良いのです。

ただ、今日は特筆すべき発言が。
万太郎が似顔絵が苦手なのは、静止したものしか描けないからではないか説。人間はどうしても表情が動いてしまうからという考えはなるほど!と膝を打ちました。


(文:木俣冬)

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