『リボルバー・リリー』令和の今こそ観てほしい、今いちばんカッコイイ映画

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カッコイイとは、こういうことさ。

これは、1992年の宮﨑駿作品『紅の豚』のキャッチコピーである。この映画は誰が観てもカッコイイはずだ、文句は言わせない。そんな信念を感じるコピーである。カッコ良さげであればどの映画にも使えそうな汎用性の高いコピーな気がするが、実は簡単に使えるものではない。さすが糸井重里先生の作るコピーは、単純に見えて奥が深い。


『紅の豚』から約30年、久しぶりにこのコピーにそのまま当てはまる、カッコイイ映画に遭遇した。今公開中の行定勲監督作品『リボルバー・リリー』が、それだ。しかも『紅の豚』の主役はおっさん(豚の)だったのに、今作の主役は美しい女性である。「カッコ良くて美しい女性」を見たければ、いますぐ『リボルバー・リリー』を観に行くべきだ。

ちなみに、さんざん『紅の豚』を引き合いに出しているが、今作は宮崎駿とも糸井重里ともスタジオ・ジブリとも一切関係ない。

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リリー(小曾根百合)=綾瀬はるか


“舞台は大正時代の東京。私娼街・玉の井のカフェー「ランブル」のオーナー・小曾根百合は、かつて各国の要人57人を暗殺した伝説の女スパイだった”

まず、このやや漫画チックな主人公を違和感なく演じることができる俳優がいるだろうか。70年代から80年代なら、即決で志穂美悦子がキャスティングされたと思われる。だが、1987年に長渕剛と結婚した志穂美悦子は俳優業を引退し、フラワーアーティストになってしまわれた。

今、この小曾根百合に魂を吹き込むことができる俳優がいるのか。

ひとりいた。綾瀬はるかだ。

「真っ先に綾瀬はるかにオファーした」と語るプロデューサーの紀伊宗之は素晴らしい。綾瀬はるかこそ「令和の志穂美悦子」だと、筆者は思う。


主人公・百合には、美意識がある。かつて、生涯でひとりだけ愛した男に言われた「殺し合いにも身だしなみは大事だ」という言葉を愚直に守り、絶対に動きにくいであろうドレス姿で戦いに臨む。

その際に注目すべき点は、ノースリーブのドレスだからわかる「肩幅」と「腕の太さ」である。
華奢な体躯では、その強さに説得力が生まれない。「ああこれは、映画という絵空事での強さなのだな。こんなに細くて綺麗な女性が、実際に強いわけないもんな」と、現実に引き戻されてしまう。そうなっては興醒めである。

一方、過度にマッシブ(筋肉質)な体型であったなら、「そりゃ強いだろうけど、エレガントな美しさを捨ててしまっているなぁ……」と、なにか寂しい気持ちになってしまう。

綾瀬はるかの肩幅と腕の太さは、「強さ」と「美しさ」の両方を感じられる、絶妙なラインをキープしている。必要な筋肉はしっかりと付いていながら、しなやかさも感じられる。まさに、「カッコ良くて美しい女性」を体現している。


小曾根百合は、「幣原機関」というスパイ養成機関で戦闘術を学んだ。その戦闘術のベースは合気道である。原作にも映画本編にも記述はないが、この時代の日本軍部に戦場での格闘術として合気道をコーチした、植芝盛平という伝説の武術家がいる。「合気道の開祖」と呼ばれる人物である。それならば、幣原機関の合気道教官も、この植芝盛平である可能性が高い。小曾根百合は植芝盛平の弟子であったかも知れない。そんなことを想像するだけで、筆者のような武術オタクは、美味い酒が何杯でも飲める。

また合気道と聞いて想像するビジュアルは、「上は道着、下は袴」というスタイルだ。空手や柔道のように、下半身が動きやすいズボンではなく袴である点が、合気道の妙だ。それは、「足さばきを相手に覚らせないため」である。


そう考えると、百合がわざわざ動きにくいロングドレスで戦う理由も、合点がいく。ロングドレスは、合理的かつ美しい、最高の戦闘服なのだ。ちなみに、同じ大正時代を舞台にした名作漫画「鬼滅の刃」の霞柱・時透無一郎があえてダボッとした袴を履いているのも、同じ理屈である。

特に最終決戦に臨む際の純白のドレスは、最高の戦闘服でありながらも、最高の死に装束だ。そのドレスを着た上での後ろ回し蹴りが、この戦いにおける白眉だと思う(合気道的な技ではないが)。

その美しさもさることながら、ヒールを履いているため、カカトを使った蹴り技の威力は甚大である。コメカミなどに突き刺されば、死亡する可能性もある。

百合を取り巻く男たち


百合のカッコ良さについて語ってきたが、実はこの作品、百合を取り巻く男たちも、みなカッコイイのである。

ランブルの顧問弁護士・岩見良明を演じる長谷川博己。毎回百合のドレスを仕立てる洋裁店主・滝田を演じる野村萬斎。実在の海軍大佐・山本五十六を演じる阿部サダヲ。そして、ネタバレになるため詳細は避けるが、“ある男”を演じる豊川悦司。

みんな、大人の男の落ち着きと、覚悟を決めた男の芯の強さを併せ持つ。この作品は「カッコイイ男(主におじさん)」を堪能する映画でもある。


筆者個人としては、百合を付け狙う刺客・南始を演じる清水尋也を推す。彼は、今もっとも“死神のような男”が似合う俳優だ。高校カルタ部員を演じた『ちはやふる』(2016)の時から、もう既に“血の通っていない殺し屋”のような雰囲気を纏っていた。その雰囲気は『東京リベンジャーズ』(2021)でさらにグレードアップし、今作において完成を見た。なにしろ今作では、本当に殺し屋なのだから。

彼が演じる南は、幣原機関における百合の後輩でもある。したがって、彼もおそらく合気道の達人だと思われる。百合との対決において、お互いに鳩尾(みぞおち)の高さで開手で構えて(合気道の構え)向かい合ったシーンの静かな興奮が、忘れられない。

カッコイイとは、カッコつけることでもある


なぜ、百合を始めとするこの作品の登場人物たちが、みなカッコイイのか。それは、みな“命を懸けて”カッコつけているからだ。

ドレスを着て死地に赴く百合だけではなく、みなスタイリッシュでオシャレだ。スーツで戦う岩見も、美しい留袖でウィンチェスター・ライフルを構える奈加(百合の盟友。シシド・カフカ)も、みな、その“無理矢理なダンディズム”がカッコイイ。

それは、戦いに適した軍服に身を包み、集団で百合たちを殺しに来る1,000人の日本陸軍兵たちとは真逆のダンディズムだ。

長浦京による原作小説に、印象的なシーンがある。わざわざ動きにくいヒールではなく、動きやすい草履を勧められた百合が「あんな薄汚れたもん履いて死にたくない」と吐き捨てるシーンだ。



「どうせ死ぬなら美しく死にたい」というダンディズムが、百合とその仲間たちの間に、共通して、ある。クライマックスにおいて、百合自らの血でだんだん赤く染まっていく白いドレスが、たまらなく美しい。

“前時代的なダンディズム”と、一笑に付されるかもしれない。それでもいい。この作品を観て、そんな”時代錯誤なカッコ良さ”を感じる人たちも、必ずいるはずだ。

どうせカッコつけるなら、命懸けで、カッコつけてみようじゃないか。

カッコイイとは、こういうことさ。

(文:ハシマトシヒロ)

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