「らんまん」勝ちにこだわる徳永の変化にショック<第106回>


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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。

「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。

ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第106回を紐解いていく。

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万太郎の給料の価値は

第22週「オーギョーチ」(演出:小林直穀)は明治26年、万太郎(神木隆之介)徳永(田中哲司)に呼ばれ、助手として、7年ぶりに大学に復帰したところからはじまります。

植物学教室の面子は様変わりしていて、万太郎のことを皆知りません。が、万太郎は植物学の知識を発揮して、学生たちを圧倒します。

植物を見る鋭い眼、植物に関する論文をすべて把握している記憶力、それは唯一無二のもの。学生たちも「ムジナモ」を発見した人としてその名を聞くと、たちまち態度を変えました。

万太郎は、コツコツと植物採集を続け、全国の一般市民と交流し、情報を得るという地道なやり方を行っていましたが、7年の間に、植物学の状況は変わり、活性化し、万太郎のやり方は古びていました。

徳永はまるで、田邊(要潤)のようで、「勝ち負けなんだ」と、国家のために植物を研究しているのだと言います。「世界で最も知られた植物学者となってしまっている」と。
日本は新たなフェーズに入っていると徳永は言います。

期せずして万太郎が示した、日本人の特性である器用さ、緻密さを伸ばして、顕微鏡を使った解剖学で日本は世界に討って出ようとしている。この件について、田中哲司さんが長台詞を語ります。なめらかなで知性的な語り、さすがでした。

が、その語りのすばらしさはいいとして、徳永は変わってしまいました。上に立つと、責任を負って、
人間は変わらざるを得ないのでしょうか。あんなに文学を愛していた風雅な面のあった人が、勝ちにこだわるようになってしまった。権威というものはおそろしい。

違和感を覚える万太郎の前に、大窪(今野浩喜)が現れて、

「金につられて戻ってきやがってよう たかが月給15円じゃねえか」という。野宮(亀田佳明)は助手だがもっともらっていると伝えます。つまり、万太郎は軽んじられていることを自覚させるのです。

月給15円の価値は明治時代、どんな感じだったのでしょう。

明治23年、旧制中学の授業料12円(年額)、昭和19年、東京大学の授業料25円(年額)。小学校教員の初任給は明治30年で8円。巡査の初任給は明治24年で8円。公務員の初任給は明治27年で50円(週刊朝日編「明治大正昭和値段史年表」より)

小学校教員や巡査よりの初任給よりは高く、公務員よりは低い。それなりの実績のある万太郎にしては
安く見積もられたというところでしょうか。

野宮はいまや画工兼植物学者になっていました。波多野(前原滉)が興味を持ってきた顕微鏡でしか見えない世界を、野宮と波多野はみごとに実現したことは喜ばしいことです。
でも、その分、万太郎のやり方は時代遅れに。

万太郎を「古いんだよ」と一刀両断する大窪。
徳永が田邊化したように、万太郎もある面では田邊化したのです。それは時代に淘汰されたということです。因果は巡るもの……。でも、万太郎の場合、時代が変わっても価値観が変わっても、自分の信念を曲げないところが良さなのだと思います。

やさぐれた大窪はさらに意外な発言を……そして明日に「つづく」。最近、引きが強い終わり方が多いです。


(文:木俣冬)

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