「らんまん」台湾の案内人の目つきがあやしい<第108回>
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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第108回を紐解いていく。
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万太郎、台湾へ——
万太郎(神木隆之介)が台湾視察団に推薦されたのは、里中(いとうせいこう)のはからいかと思いきや、岩崎弥之助(皆川猿時)の声がけでした。皆、なぜ、万太郎に岩崎とのつながりが? とざわつきます。
結局は強力なコネがものをいう世界であることに変わりはないようです。
万太郎持ってる——。と盛り上がるかと思えば、そうでもなく。出発はすぐで、万太郎は台湾の言葉も学びたいし……と逡巡しますが、言葉は日本語でいいそうです。台湾は日本に統治されたからです。どうやらこれは喜ばしい話ではなく、不穏な話だという空気が漂ってきます。
里中は「世の中は変わったねえ」とつぶやきます。日本は戦争に勝って景気がよく、植物研究の予算も増えているが、その分、国のために成果を出さないといけないのだと悩ましげ。そういうことと万太郎は無縁であることを知っているので、無理強いはできないと思っているのでしょう。でも、里中は「君を選びたい」と言う。それはきっと、こんな状況だからこそ、万太郎に行ってほしいのかなと。
「おまえはもう個人じゃない」
(徳永)
徳永は、帝国大学は国家の機関に属する大学なんだから、国のために研究しないといけないと説き、
細田(渋谷謙人)は、留学先で日本人がどれだけ惨めか思い知らされたことを吐露します。徳永の表情にもそれが見えました。ふたりは、まざまざと世界における日本の地位の弱さを見せつけられてこのままではいけないと思って、変わってしまったのでしょうかね。
強くならないと潰されてしまう。だから強くなって、自分たちが相手を制圧していく。台湾で台湾語を
禁止し、日本語を押し付ける……。
明治になる前の江戸時代、徳川幕府によって日本では長らく戦争がなくなっていたけれど、鎖国を解いて、世界と繋がったら、戦う場を外に求めていくのです。
明治29年、万太郎は台湾へーー。万太郎はピストルを持っていけと言われ迷ったすえ、違うものをもって旅立ちます。
台湾につくなり、使ってはいけない台湾の言葉を使い、現地の案内人・陳志明(朝井大智)に挨拶をした万太郎は、台湾総督府役人(相樂孝仁)に咎められます。
陳は万太郎の台湾語に心をゆるすかと思いきや、何やら目つきがあやしくて……。
きなくさい雰囲気の回でしたが、ホッとするシーンもありました。万太郎が台湾に行くか悩んだとき、波多野(前原滉)と野宮(亀田佳明)がイチョウの研究をしているのを手伝います。銀杏の小さな青い実を刃物で切り分けていく野宮の手付きに万太郎は感嘆します。
「一瞬を捉えるような手早さ」
(万太郎)
この言葉は、演劇人らしい言葉だと感じます。演劇は2時間くらいノンストップですが、ある一瞬、
画のように、これぞ!という瞬間があって。そのために稽古を続け、本番を続けているようなところがあります。作家はそういう瞬間を文字に刻もうとして、演出家はそれを三次元に立ち上げたときの瞬間を捕まえようと眼を凝らす。おそらく、植物学にもその一瞬がある。花が咲く瞬間、芽生える瞬間、遡って受精する瞬間。最も、生命がスパークする瞬間。好きなことに没頭している時も同じでしょう。
一瞬を作り出す仕組みを知りたくて、子供のときは懐中時計を分解したという思い出話に花を咲かせる3人。万太郎は第8回で懐中時計を分解していました。
子供の探究心を表現するために、大切なものを分解してしまうというエピソード。「べっぴんさん」では主人公が靴を、その孫がカメラを分解。「らんまん」では万太郎が懐中時計を分解した。
(文:木俣冬)
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