「らんまん」万太郎はみつばちマーヤ?<第110回>
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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第110回を紐解いていく。
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万太郎、国家に逆らう
万太郎(神木隆之介)が台湾の森で熱を出して倒れたとき、村の人たちが差し入れてくれたオーギョーチのデザートを食べたことで生命をつなぎます。彼がピストルを持っていないことで村の人達も安心したのでしょうか。村人たちは、万太郎の植物図譜を見てひととき交流します。
この村の人たちと日本人には、きょうだい伝説がありました。
昔、ツォウ族が、大洪水が起こったとき、二手に分かれて逃げ、一方はこの地に、一方は北東に向かいました。北東に行った日本人のことは「マーヤ」と呼ばれました。というもので、万太郎はマーヤではないかと、村人たちは親しみを覚えます。
台湾と日本に似たような植物もあり、遠く離れて、異なる民族のようでも、じつはルーツは同じかもしれない。
マーヤといえば「みつばちマーヤの冒険」というドイツの物語がありまして。日本ではアニメにもなっています。
みつばちの集団から飛び出したマーヤが外の世界で経験を積み成長する物語です。
万太郎も、集団がいやで外界に出て、多くの人達と出会い、成長してますから。みつばちは花から花へ蜜を得る代わりに受粉を手伝う役目をもっています。茶色い蜂と、万太郎の薄茶の衣裳が重なって見えます。
万太郎は、帰国後、台湾視察の報告書を書き、新種の植物・愛玉子(オーギョーチ)に台湾の呼び方から学名をつけますが、それが国に逆らっていると思われると、大学で睨まれます。
いまの状況を考えたら、怒られるに決まっています。でも、万太郎は「永久に留めるがです、学名として」とあえてやっていたのです。
「人間の欲望が大きゅうなりすぎて ささいなもんらが踏みにじられていく ほんじゃき わしは守りたい 植物学者として後の世まで守りたい」
「わしはどこまでも地べたを行きますき」
「人間の欲望に踏みにじられる前に すべての植物の名前を明らかにして そして図鑑に永久に刻む」
毅然と言う万太郎。
植物大好きな天真爛漫な人物から、自由を賭けて国家と戦う革命の人になっています。
その気配は、高知で自由民権運動に興味を持った頃から、ありましたけれど、ついに、万太郎の信念が明らかになった感じがします。たったひとりで国家に反旗を翻して大丈夫なんでしょうか。
一方、波多野(前原滉)と野宮(亀田佳明)は、ついにイチョウの精虫を発見し、徳永(田中哲司)は
これでドイツを見返すことができるとむせび泣きます。
帝国大学は、万太郎とは違い、国家のために植物学をやっていますから、万太郎のやっていることは許容できるはずもありません。
万太郎も、どんな考えをもっても自由ですが、経済的に困窮して、雇ってもらっているにもかかわらず、自分の思想を貫こうとするのは、いかがなものか。こうなったらまた大学を出るしかないでしょう。
モデルの牧野万太郎がどれくらい、思想があったのか、わからないのですが、「らんまん」では民衆の自由と権利の話に寄せていて、自由であることや誠実であることには一切のブレがなく、それ以外のことは揺らいで見えます。
たとえば、野宮はいまや植物学者だと前に言われていたけれど、この回では野宮にはその自覚がない。また、徳永の情緒が不安定過ぎて、どう捉えていいかとてもわかりにくく描いています。田中哲司さんが演技巧者なので助かっていますが。その反面、波多野と野宮は、偉業をお互いの力であると気遣い合うところが徹底しています。虎鉄にも、自分の名前を植物につけてくれたと、わざわざ言わせています(第109回)。自由と平等と権利の保障という部分を口が酸っぱくなるほど描いています。
ドラマはあと1ヶ月、万太郎は国家の思惑をすり抜けて「人間の欲望に踏みにじられる前に すべての植物の名前を明らかにして そして図鑑に永久に刻む」ことができるでしょうか。
(文:木俣冬)
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