WOWOWドラマ版『三体』原作未読勢から大推薦できる「3つ」の理由
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2023年10月7日(土)よりWOWOWで、ドラマ『三体』が放送・配信されている。原作小説をまったく読まずに5話まで鑑賞した筆者が、まずは結論を申し上げておこう。「めちゃくちゃ面白いじゃん!」と。
その原作小説『三体』はSF界のノーベル文学賞と称されるヒューゴー賞をアジア圏で初受賞し、バラク・オバマ元大統領やマーク・ザッカーバーグなど世界中の著名人から絶賛され、累計2900万部を超える世界的ベストセラーとなるなど、たいへんな話題となっている。
そのため「読まなければ」と思っていたものの、「難しそう」「本が分厚くて読み進めるのが大変そう」などの理由で、なかなか踏ん切りがつかなかった方もいるだろう。そんな方でも、今回の超ハイクオリティのドラマが「とっかかり」になってくれることは間違いない(筆者がそうだから)。
後述するように自殺というセンシティブな出来事も扱っており、哲学的な問答もあるため中学生以上推奨という印象もあるものの、それ以外では観る人を選ばないエンターテインメントであることもお伝えしたい。ここでも、あえて原作をまったく読まない立場からプレゼンしておきたい、さらなる魅力を記していこう。
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1:連続自殺事件を追う中で「トンデモな話」が「わかるかも……」になっていく
あらすじを簡潔に記すのであれば、「ナノ素材の研究者が世界各地で相次ぐ科学者の自殺の真相を追う」というもの。その過程で、主人公は不遜な性格をした刑事と対立したり、不可解な出来事に遭遇したりする。おおむね「SF要素を交えた正統派のミステリー」といった印象なのだ。実は、科学者たちが自殺した共通の理由は序盤から(推測の段階ではあるが)示されたりもする。それは「人類の物理学は存在しないと気づいた」から。
こう聞いて、その時点では「意味がわからん!」「物理学はちゃんとあるし、仮に存在しないとわかったからって、それが自殺の理由になるのか?」「もしかして、これって、トンデモな話じゃないか!?」と思ってしまったのだ(実際にけっこうトンデモだとも思う)。
だが、洗練されたエッジの効いた画、理路整然とした語り口、俳優陣の熱演、超自然的な現象に翻弄される恐怖、何より後述する「仮説」の説得力のためか、しだいに「なるほど、これは自殺を考えるほどに絶望してしまうかも」と納得していくほどの作品のパワーがそこにはあった。
トンデモな話からの「わかるかも……」になっていく様も面白かったのだ。
2:科学者にとっての絶望になる「射撃手と農場主」の仮説
劇中の哲学的(あるいは科学的または物理学的)な問答それぞれがとても興味深いのだが、中でも目立ったものを紹介しておこう。それは、第2話で告げられる「射撃手と農場主」という2つの仮説。それぞれ以下のようなものだった。
射撃手……スゴ腕の射撃手が弾を放ち、10センチ間隔の的に連続して穴を空ける。この的の表面には二次元の生物が住んでいて、その二次元の生物である科学者は「宇宙は10センチごとに必ず穴が空いている」ことを宇宙の不変の法則だと考えた。
農場主……農場主が毎朝11時に七面鳥にエサを与え続けていたため、七面鳥である科学者はその通りに「毎朝11時にエサを食べられる」ことを宇宙の不変の法則だと考えた。だが、クリスマスの日にはエサは与えられることなく、農場主がすべての七面鳥を殺してしまった。
つまりは、科学者が研究を重ねて導き出した結論も、何か大きな存在によってもたらされたものにすぎず、それはあっけなく瓦解してしまいかねないと、この「射撃手と農場主」の仮説は示しているのだ。
それぞれの仮説が凝り凝ったインパクト抜群の映像とも紹介されるので、原作を読んでいた人にとっても新鮮な驚きがあるだろう。
こうした考えもまたトンデモそのものではあるが、なるほど科学者にとっては絶望的な問いかけでもあるだろう。この仮説を突きつける人物に対し、主人公は「そうした言葉は人を殺しかねない」と批判するのだが、その批判に対する言葉もまた冷酷無比なものだった。
そして、第2話の終盤から「数字」にまつわる、とある超自然的な現象が起きてしまい、科学者だけでなく全ての人類にとっての「射撃手と農場主」の仮説にある「あっけない法則の瓦解」が襲いかかるのかもしれないと、漠然とした恐怖感を得るようになる。
その先にあるのは、人類の滅亡の危機なのか、それとももっと別の何かなのか……と、この仮説があってこそ、さらに物語に引き込まれるようにもなっていた。
3:感情移入しやすい視点と、科学へのリスペクトもある
もちろん、物語はそうした科学者にとっての恐怖や絶望を描くばかりではない。主人公には妻や娘もいて彼女たちを大切に思う様子もあるし、その「数字」にまつわる超自然的な現象を妻から心配され眼科を受診したり、不遜なことばかりを言う刑事に嫌悪感を募らせたりと、極めて「普通の人」としての視点や感情もあるので、誰でも親しみやすく感情移入はしやすいだろう。
また科学者へ絶望を与えるような仮説が提示される一方で、だからこその科学および科学者そのものへのリスペクトも大いに感じることができた。
第4話では主人公が自殺した女性科学者の幼少期のことを母親から聞く場面があり、そこでもやや極端な考えが提示されるものの、科学や数式に魅了され真理を追い求める様も、とても尊いものとして映ったのだから。
少し気になったことをあげるとすれば、ややテンポが遅めに感じてしまった箇所がいくつかあったこと。ただ、全30話でぜいたくな時間をたっぷりと使って哲学的な思考に浸らせてくれる、ゴリゴリに凝った演出で盛り上げてくれることは本作の長所ではあるだろう。
各話のスタッフロールの後にも続きがあったりする構成にも、ややもどかしさを感じてしまう方もいるかもしれないが、それも一風変わったギミックとして楽しめる方もいるはずだ。
なお、WOWOWでは10月7日(土)から8日(日)にかけて1話-10話を放送・配信。うち第1話は無料放送と期間限定無料配信が行われ、11月には11話-20話、12月には21話-30話の放送・配信と、3ヶ月スパンで楽しめるスケジュールが組まれている。これに沿って、やはりじっくりと時間をかけて楽しむのが良いのかもしれない。
さらに、『三体』はNetflix版の別のドラマも2024年1月に配信されることが決定している。今回のWOWOW版との違いを見比べて観るのも面白そうだ。
似ている作品は『メッセージ』?
この『三体』をWOWOWのドラマ版しか知らない段階で言うのも恐縮だが、似ている作品をあげるとすれば『メッセージ』、あるいはその原作小説『あなたの人生の物語』だと思えた。両者とも、すごくミニマムな視点から壮大な思考へと至る様が面白いSF作品だったからだ。合わせて観てもいいだろう。
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今後は大作SF映画も「祭り」!
さらに、今後はドラマだけでなく大作SF映画が「祭り」とも言える状態だ。例えば『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のギャレス・エドワーズ監督の最新作である近未来SFアクション『ザ・クリエイター/創造者』が早くも2023年10月20日より公開となる。
『女王陛下のお気に入り』のヨルゴス・ランティモス監督最新作でありR18+指定がされた『哀れなるものたち』は2024年1月26日公開で、『デューン 砂の惑星 PART2』も2024年3月20日に公開決定。『猿の惑星』シリーズ新作映画『Kingdom of the Planet of the Apes(原題)』も2024年に公開予定だ。
さらに、『三体』に肩を並べるほどの絶賛が寄せられているSF小説『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はライアン・ゴズリング主演での映画化が進行中で2024年撮影開始予定。その監督は『LEGO ムービー』や『スパイダーマン:スパイダーバース』などで知られるフィル・ロード&クリス・ミラーであることも含め、もう期待しかない。
その「祭り」の始まりを、WOWOW版『三体』から体感してほしい。
(文:ヒナタカ)
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