「大奥」第19話:価値を見出してくれるのは家族だけじゃない。光を照らし合う家茂と和宮
NHKドラマ10「大奥」のシーズン2が2023年10月3日に放送開始となった。よしながふみの同名漫画を原作に、3代将軍・家光の時代から幕末・大政奉還に至るまで、若い男子のみが感染する奇病により男女の立場が逆転した江戸パラレルワールドを描く本作。シーズン2の後半「幕末編」では、古川雄大、愛希れいか、瀧内公美、岸井ゆきの、志田彩良、福士蒼汰らが出演する。
本記事では、第19話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。
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「大奥」第19話レビュー
家定(愛希れいか)が生前、家臣や民を思う心が備わっていると感じていた家茂(志田彩良)が第14代将軍に就任した。胤篤、改め天璋院(福士蒼汰)も彼女に見出す「相手の心に深く潜り込む天賦の才」がドラマ10「大奥」第19話では大いに発揮される。日本が開国派と攘夷派で真っ二つに割れる中、幕府の弱体化、ひいては戦乱の世が訪れることを恐れる家茂は公武合体のために朝廷から帝の弟である和宮を正室に迎えることに。
だが、朝廷から降嫁してきた和宮(岸井ゆきの)は偽物で、しかも女性であることが判明。彼女は死んだ方がマシと言わんばかりに、降嫁を強く拒否した弟の身代わりになったのだった。
和宮が女性では家茂との子を儲けることができず、公武合体は叶わない。けれど、和宮の側仕えである土御門(山村紅葉)が言うように、下手に責を負わせればますます朝廷との亀裂は深まるばかりだ。
為す術もなくひとまず和宮が女性であることを秘密にしておくことには力を尽くす家茂や瀧山(古川雄大)。しかし、生まれも育ちも異なる公家と武家が同じ屋根の下で仲良くとは到底いかず、互いのプライドがぶつかり合う。
そんな中でも和宮に心を配り、丁重に扱う家茂。そうする理由など本来ならば無いはずだ。けれど、家茂は和宮がたとえ女性でも江戸に降ってきてくれたことに心から感謝していた。
ただでさえ、国乱の中で薩摩藩士がイギリス人を殺傷する生麦事件なども起き、外国からいつ攻められてもおかしくない現状。平穏な暮らしを望む民にとっては傍迷惑でしかないこと。そんな中で公武合体のために降嫁してきた和宮が彼らにどれほど希望を与えているかを家茂は分かっていたのだ。さらに、和宮が身代わりになったことで自害しようとしていた弟は救われ、家茂も心を痛めずに済んだ。
「そのお方がそこにいらっしゃる。ただ、それだけで図らずも救われる人間が山のようにいる。そのようなお方を世の光と呼ぶのだと私は思います」
生まれつき左手がなく、母である観行院(平岩紙)から暗い部屋に閉じ込められていた和宮。かたや、後に生まれた弟は観行院に“家の光”として大切に大切に育てられた。そんな弟が降嫁を拒否したことは和宮にとって好都合だった。自分が身代わりになれば、側仕えとして大奥入りする母親を独り占めできるから。
しかし、大奥に来てからも観行院が口にするのは弟の心配ばかり。どんなに心を尽くしても母親の光になれない、母親から愛してもらえない。そんな苦しみの中にいる和宮が家茂の言葉でどれほど救われたことか。
家定もそうだったが、「生きていてもいいんだ」と思わせてくれるのは血の繋がりがある人とは限らない。出会ったばかりの赤の他人が自分の価値を見出してくれることもある。その奇跡はこの「大奥」で家光の時代から一貫して描かれてきたことだ。
家茂と和宮の心の交流に胸が温まる一方、不安にもなるのは家茂のように包容力で誰かの痛みを包み込んできた人たちがことごとく理不尽な目に遭ってきたから。すでに将軍後見職に就いた慶喜(大東俊介)が不穏な空気を漂わせており、家茂の上洛にも嫌な予感しかしない。
本作における幸せな時間はあまりに短く、猛スピードで物語が展開されていく。今年1月からスタートした「大奥」シリーズもあと残すところ2話。脚本・演出・キャストの演技等々、全てにおいて隙のない本作が毎週観られるこの贅沢な時間をより一層噛み締めたい。
(文:苫とり子)
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