(C)黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会
(C)黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会

映画コラム

REGULAR

2023年12月20日

【全力解説】『窓ぎわのトットちゃん』今すぐ映画館に駆け込んで観るべき理由

【全力解説】『窓ぎわのトットちゃん』今すぐ映画館に駆け込んで観るべき理由


1:トットちゃんは、泰明ちゃんの木登りを手伝ってあげる


小林先生は、トットちゃんがボットン便所に落ちた財布を探すために汚物をさらっても、止めることも怒りもせず、「ちゃんと元に戻せよ」とだけを告げていた。(今ではもちろんあり得ない)みんな裸でプールに入ったりもするし、学校にやってくる列車を見るために学校に泊まったりもしていた。トモエ学園は自由な校風でありつつも、生徒たちの意思を尊重し続けた。

それでも、小児麻痺のために片方ずつの手足が動かない泰明ちゃんが相撲を取ろうとすると、小林先生は「危険すぎる」と止めて、腕相撲へと土俵を変えたこともあった。その腕相撲で、トットちゃんは麻痺のために踏ん張りが効かない泰明ちゃんのことを考えて、苦戦するフリをするばかりか、一気に力を抜いてわざと負けたため、「ずるしないでよ!」と怒られた。これは、2人の間にわだかまりが残った出来事ではあっただろう。

そんな2人が真に友達となった、ずっと心に残る思い出になったであろうことが、それ以前にある。今まで木登りをしたことがなかった泰明ちゃんを、トットちゃんがはしごを使って、変な顔で泰明ちゃんを笑わせたりもして、さらに脚立も持ってきて、木の上へと引っ張り上げようとする一連のシーンだ。

ふたりとも汗びっしょりになって木に登る様にハラハラするし、ついに登り切れた時の2人の「いらっしゃいませ」「おじゃまします」というおままごとのようなセリフを口にしながらの、本気で「やり切った」ような表情に感動したのだ。

もしもこの場所に小林先生がいたら、それこそ相撲の時のように危険だからと止めていただろう。これは、この2人だけがそこにいたからこそ成し得た、奇跡的な出来事なのだ。また、泰明ちゃんはここで自分に対して本気で接してくれたトットちゃんが好きだったからこそ、自分に対して腕相撲で本気を出さなかったトットちゃんに怒ったのかもしれない。

そして、汚れた服を見て涙をこらえようとする泰明ちゃんのお母さんにもらい泣きをした。我が子に服を汚すほどの運動をさせられなかった泰明ちゃんのお母さんにとって、それはどれだけ嬉しいことだっただろうか。

2:大石先生の後悔と、高橋くんの運動会での大活躍


大石先生は、人間には尾てい骨があり、それは人間には昔に尻尾があった証拠だと生徒に教える。そして、大石先生は手と足が短く、背が低くてあまり伸びない体質の高橋くんに、あまり深い考えがないまま「まだ尻尾が残っている人はいるかな?高橋くんは、あるんじゃないの?」と聞いてしまい、その時に周りの子どもたちも笑ってしまう。

この大石先生の言葉に対し「あなたにとっても些細なことでも、高橋くんにとっては深い意味を持つんです!」などと真剣に怒る。小林先生は、みんなが劣等感を抱かないように気を配っていたのに……。

しかし、その後の運動会で、大石先生が考案したという鯉のぼりの中を進むレースでは、高橋くんはその体の小ささを活かして一等賞になり、大石先生は景品で野菜を渡す。「すごい面白かった!」と喜ぶ高橋くんに対し、大石先生は目に涙を浮かべながら「うん、またやろうね」と応える。

それは「私が、本当に間違っていました。高橋くんに、なんて謝ったらいいんでしょう……」と心から後悔し反省した大石先生にとって、それはどれだけ嬉しかったことだろうか。

3:歌と音楽の力は、戦争にも奪わせない


国民学校の悪ガキたちは、「トモエ学園ボロ学校!入ってみてもボロ学校!」と歌いながら悪口を言った上に、泰明ちゃんの障害をなじり、石まで投げてきた。対してトットちゃんは「トモエ学園いい学校!入ってみてもいい学校!」と歌い出し、生徒たちは合唱して、悪ガキたちを退散させた。

それは、トモエ学園で行っていた、体と心にリズムを理解させることから始まる「リトミック教育」があってこそのものだっただろう。その光景を見た小林先生は肩を震わせており、きっと「自分の教育が間違っていなかった」ことを感じて涙したのだろう。

そして、戦争は侵食を始めていく。「海のもの」と「山のもの」もあった色とりどりのお弁当は、日の丸のようにご飯と梅干しだけになってしまう。駅員さんは兵隊として戦争に行ったためか、女性に交代していた。

そして、天気予報がラジオから流れなくなったこともあって、雨の中で泰明ちゃんの傘に入って帰る途中のトットちゃんが、お弁当を食べる時の「Row, Row, Row Your Boat」の替え歌を歌うと、知らない大人に「こら!」と怒鳴られた上に、「卑しい歌を歌ってはいけないよ」と言われてしまう。

戦争の全体主義がまかり通り、満足にご飯を食べられない世の中にもなり、「だって……お腹が空いたもん」と泣くトットちゃんのために、泰明ちゃんは水たまりに片足を突っ込みながら歩き始める。それはやはり「Row, Row, Row Your Boat」のリズムであり、その後に街頭は鮮やかな色とりどりの光に包まれた。

この光は泰明ちゃんとトットちゃんの想像のものではあるのだろう。だが、それでも、戦争にも奪わせない、木登りの時のような、2人だけの世界がそこにあることに感動したのだ。(ちなみに、この時の2人の動きや表現は、ほぼ間違いなく映画『雨に唄えば』のオマージュでもある)

その他でも、実在の指揮者であるヨーゼフ・ローゼンシュトックは、元はドイツのユダヤ人音楽家で、ナチスがユダヤ人を迫害しているため国を逃れてきた人だった。彼は新聞で戦況が変わったことも知っても、「音楽には国境はないのです」と言いつつ、かわいいお客さんであるトットちゃんのために演奏を再開した。


バイオリニストのトットちゃんのお父さんも、配給の食べ物を手に入れるため、軍歌を弾こうか迷ったこともあったが、お父さんはそれを拒んだ。それは、トットちゃんが泰明ちゃんから貸してもらった『アンクル・トムス・ケビン(アンクル・トムの小屋)』の「わたしの魂はあなたのものではありません。あなたは魂を買うことはできません」という一節を読んだためでもあった。

トットちゃんがいたおかげもあって、ローゼンシュトックやお父さんは、自身たちの音楽を戦争に奪わせなかったのだ。

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

© 黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会  

RANKING

SPONSORD

PICK UP!