(C)バード・スタジオ/集英社 (C)SAND LAND製作委員会
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映画コラム

REGULAR

2023年08月26日

『SAND LAND』で描かれた現代でも他人事ではない「偏見」と「善と悪」の物語

『SAND LAND』で描かれた現代でも他人事ではない「偏見」と「善と悪」の物語

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『SAND LAND(サンドランド)』が現在劇場公開中。本作は2000年に連載された鳥山明の同名漫画のアニメ映画化作品であり、公開されてからは絶賛に次ぐ絶賛が寄せられている。(記事執筆時では)映画.comでは4.2点、Filmarksでは4.1点などレビューサイトでもかなりの高スコアを記録しているのだ。

「目的の場所へ仲間と共に旅をする」という王道の冒険活劇であり、主要キャラはかわいい&カッコいい。そして、3DCGアニメだからこその奥行き感を生かした本格的な戦車アクションはロシア映画『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』を連想させるほど。田村睦心、山路和弘、チョーといった声優それぞれのハマりぶりも過去最高クラスだ。

そんな子どもから大人まで楽しめるエンターテインメントでありつつも、本作の物語は20年以上の時を経てもなお、現代に語られる意義が間違いなくある、鋭い「偏見」と「善と悪」の寓話(教訓を与える物語)になっていると思うのだ。ここから本編のネタバレとなるので、なるべく観賞後にお読みになってほしい。

※これより、映画『SAND LAND』本編の結末を含むネタバレに触れています

原作からのアレンジによって、観客に提示された偏見

中盤で保安官のラオはこう言う。「偏見は正しい判断を狂わせてしまうぞ」と。その偏見が劇中でホラーまたはコメディとして描かれることもあれば、登場人物の運命を大きく捻じ曲げてしまうこともあった。

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例えば、オープニングでベルゼブブたちが水の運搬車を襲うシーンは、原作では昼間だったが、映画では夜となり“暗闇に何かがいる”ことを想像させるホラーチックな演出へと変わっている。だが、実際のベルゼブブや魔物たちは悪ぶっているだけでいいやつらであるし、水を奪ったとしても誰かに分け与えたりもする。つまり、これは「魔物は恐ろしくて悪いやつら」という偏見を、あえて観客に与えるような原作からのアレンジでもあるのだ。

戦車でのバトルにおいても、「通信機が故障したんだろう」「真上には砲撃できない」「この重量の戦車を持ち上げられるはずがない」「こんな目立つところにいたらすぐに撃たれてしまう」といった事前の偏見(思い込み)を覆す攻防戦が描かれていたりする。また、戦車を奪ったラオたちに関する報道も、おおむね一方的かつ濡れ衣をも着させる偏見に満ちたものだった。

また、水着を着たスイマーズ親子がその名に反して泳いだことがなかったり、クライマックスで砲撃を手助けして「悪党のくせに高級な砲弾(タマ)を持っていやがる」と言われるのも、「人は見た目じゃわからない」というまさに偏見そのものを体現したキャラクターだからだろう。

偏見のために、大きな過ちを犯すことも、本質的な原因から目を逸らしてしまうこともある

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シーフは「人間は大昔からずっと、都合の悪いことが起こると魔物のせいにしてきたんじゃよ」と言っていた。実際のサンドランドでは、ゼウ大将軍と、その言いなりになったバカな国王のせいで水源を抑えられ、水を高値で売りつけられていたのに、それがずっと見過ごされたばかりか、魔物ばかりが悪者にされてきたのだ。

そしてラオは、かつて軍人だったころ、自ら戦車隊を指揮して攻撃したピッチ人たちが、実際は恐ろしい兵器ではなく、水を作り出そうとしていたことを知った。

王が私利私欲に走るからこそ自分たちで泉を見つようと決断し、ベルゼバブとシーフという、よい魂を持つ彼らのことを理解していった彼であっても、(一方的に植え付けられたものとはいえ)偏見のために大きな過ちを犯してしまったのだ。しかも、ラオだけでなく、軍人として現在の地位があるアレ将軍も「まさかそこまでやるはずがない」と、ゼウ大将軍への疑いから目をそらしていた。

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これは、現代でもまったく他人事ではないだろう。意識的にせよ無意識的にせよ、(特に為政者の)本質的な原因からは目を逸らし、身近な都合の良い存在に責任転嫁をしてしまい、結果として大きな過ちを犯してしまったり、問題は何も解決しないままだったりもする、ということなのだから。だからこそ、『SAND LAND』の物語は、自分自身の偏見を疑い改めたり、問題の本質を見極めるための確かな教訓を与えている。

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