(C)黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会
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映画コラム

REGULAR

2023年12月20日

【全力解説】『窓ぎわのトットちゃん』今すぐ映画館に駆け込んで観るべき理由

【全力解説】『窓ぎわのトットちゃん』今すぐ映画館に駆け込んで観るべき理由



4:トットちゃんは、戦争のせいで変わってしまった世界を目の当たりにする


トットちゃんは泰明ちゃんの葬式で、「トットちゃん、いろんなこと楽しかったね。きみのこと、忘れないよ!」という泰明ちゃんの声を聞いた(聞こえたような気がした)。

そして、教会を出て走り出すと、トットちゃんの頭の中には泰明ちゃんの思い出が蘇ってくると共に、出征する兵隊たちを見送る人たち、ガスマスクをかぶり銃を持って戦争ごっこをする子ども、片足を失くした帰還兵、我が子であろう骨壷を抱いた女性を目の当たりにする。


これまで楽しい時間を過ごしていたトットちゃんにとって、お家やトモエ学園が世界のすべてだったのかもしれない。だけど、トットちゃんは泰明ちゃんを(その前にはヒヨコも)亡くす経験を経て、世界には悲しみや暴力や理不尽を象徴するような、戦争があることを知ったのだ

その後に、水たまりに突っ伏して泣くトットちゃんに、小林先生は泰明ちゃんから貸してもらっていた『アンクル・トムス・ケビン』の本を渡してもらう。人種差別という理不尽と戦うその物語は、泰明ちゃんから渡された意思とも言えるだろう。

これより前で、筆者個人が泣いた理由は「嬉し泣き(のもらい泣き)」だった。だけど、ここでは悲しくて泣いた。泰明ちゃんの死そのものもそうだが、それをきっかけに、これまで自分たちの世界で楽しく暮らしていた子どもが、残酷な世界のあり方を知ってしまう、そのことに涙したのだ。

5:戦争は、愛情をも狂気に変えてしまうのかもしれない


トットちゃんと生徒たちはモンペ服を着るようになり、トモエ学園の講堂では戦闘機の絵も貼られるようになり、トットちゃんの世界は戦争によって変わってしまった。それでも、トットちゃんは小林先生に「わたし、大きくなったら、この学校の先生になってあげる!」と告げ、小林先生は「きみは、ほんとうに、いい子だな」となって抱きしめた。

戦慄したのは、焼け落ちていくトモエ学園を背に、小林先生が「おい、今度はどんな学校を作ろうか」と聞いてくること、黒柳徹子のナレーションで「先生の子どもに対する愛情は、学校を包む炎よりも大きかった」と告げることだった。

トットちゃんの「この学校の先生になる」という夢を奪ったどころか、小林先生の子どもへの愛情をも(たとえ一時的でも)まるで狂気のように見せてしまう戦争……その恐ろしさを、またも思い知らされたのだ。

6:チンドン屋さんや、小林先生のおかげで、今のトットちゃんがいる


空襲が激しくなり、子どもたちは疎開のため、トモエ学園で次々に別れの言葉を告げる。そこで、生徒が泣き始めるのを見ると、トットちゃんはかつて見たチンドン屋さんを真似るように、おどけて笑わせようとするのだ。(ここで筆者はすでに涙が滝のように溢れてスクリーンが見えなくなっている)

そして、ラストは満員の疎開列車のシーンで締めくくられる。トットちゃんは、泣きはじめてしまった赤ちゃんの弟をあやすために、列車の連結部分まで行き、かつてのチンドン屋さん(もしかすると地方の伝統舞踊かもしれないし、幻かもしれない)を見る。

そこで、トットちゃんは「チンドン…!」と声をあげそうになるが、うとうとと眠り始める赤ちゃんを見て、起こさないように小さな声で「いい子ね、あなたは、ほんとうにいい子」と告げるのだった。

その「あなたは、ほんとうにいい子」というのは、言うまでもなく小林先生の教えだ。トットちゃんは、それを赤ちゃんへと「継承」したのだ。

そのトットちゃんは、映画の冒頭で、授業中に窓から身を乗り出してチンドン屋さんに呼びかけて、だからこそ「困った子」とされてしまったが、おかげでトモエ学園に行くことができた。それと同様に、赤ちゃんがいたおかげで、ラストでトットちゃんはそのチンドン屋さんを見ることができた。

その泣いていた赤ちゃんを、もちろんトットちゃんは困った子とは思っていないだろう。それこそ、チンドン屋さんを見せてくれた赤ちゃんに、「あなたはいい子」と言った通り、心からそう思っているだろう。

それでいて、トットちゃん自身は以前のように周りを気にせず大声でチンドン屋さんを呼ぶのではなく、赤ちゃんのために声を出すのをやめた。トットちゃんは、嬉しいことを見てただ喜びを表現するだけではなくなった、少しだけ大人へと成長したとも言っていいだろう。

この『トットちゃん』の物語は、やはりすべてが呼応している。トモエ学園の生活を通じて、トットちゃんも、泰明ちゃんも、高橋くんも、小林先生も、大石先生もそれぞれが学び成長し、それぞれにかけがえないのない思い出が残る。

そして、戦争によって、そのトモエ学園が焼け落ちたとしても、みんなが離れ離れになっても、それでもトットちゃんの人生を変えた、「チンドン屋さん」という誰かを楽しませる存在と、小林先生からの「きみは、ほんとうは、いい子なんだよ」という、「戦争にも奪わせなかった教えと学び」を示すこのラストの、なんと素晴らしいことか!(前述したように、音楽と歌も奪わせなかった)

改めて、企画・脚本まで手がけ、さらには1年半をかけて絵コンテまで作り上げた八鍬新之介監督、12万枚にまでおよぶ絵の1枚1枚を丁寧に描いたスタッフ、主題歌「あのね」を手がけたあいみょん、そして原作者の黒柳徹子まで、この映画を送り届けてくれた全ての人に感謝を申し上げたい。

素晴らしい作品を、ありがとうございました!

(文:ヒナタカ)

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