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『ミッドサマー』とはまったく違う!おすすめ北欧ホラー映画“7選”


世の中には多種多様なホラーがあり、日本のホラーでは「じわじわくる」「精神に訴えてくる」恐ろしさがあったり、韓国のホラーでは苛烈な残酷描写や悲劇性が強調されていたりと、お国柄が反映されていることもある。

北欧ホラーといえば、スウェーデンの村で若者たちが「明るい地獄」に叩き込まれる『ミッドサマー』を連想する方も多いだろうが、そちらの制作国はアメリカ。ここではスウェーデンやデンマークやフィンランドと、北欧で制作されたおすすめホラー映画7作品を紹介しよう。

いずれも北欧特有の美しくも、どこか寒々としてもの悲しい風景が印象的で、それは時に登場人物の心理と重なっているようにも思えるので、それも含めて堪能してほしい。「子どもの感情」を描いた作品が多いことも、興味深いものがある。

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1:『イノセンツ』(2023)

© 2021 MER FILM, ZENTROPA SWEDEN, SNOWGLOBE, BUFO, LOGICAL PICTURES

大友克洋による日本の漫画「童夢」にインスピレーションを受けた、子どもたちが危険な超能力を持ってしまうスリラーだ。そして、描かれている恐怖の本質は現実にもある「善悪の判断がつかない子どもの残酷性」。物語序盤の、少年によるかわいらしい猫に対しての残酷な行為は、超能力がなくても「できてしまう」ものでもあるのだから。

主人公である9歳の少女には自閉症の姉をうとましく思う気持ちもあり、彼女にもまた誰かを深く傷つけるかもしれない危険性が示されているのも恐ろしい。同時に、ヤングケアラーでもある子どもの心理に寄り添う、志の高さも見て取れるだろう。

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『誰も知らない』や『怪物』などの是枝裕和監督作品のように、子どもが子どものままの姿でいるような、演技をしているようには見えないほどのリアリズムにも注目してほしい。

そして、物語は子どもをただ恐ろしい存在として描くだけでもない。「子どもは出来事をしっかり捉えて、ものすごく複雑なことを考えている」と痛感された主人公のとある行動に涙し、クライマックスではさらに感情を大きく揺さぶられた。

サイキックスリラーとしても、北欧ホラーとしても、ひとつの到達点ともいえる傑作だ。

▶︎『イノセンツ』を観る

2:『ハッチング ー孵化ー』(2022)

© 2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Väst

「12歳の少女が、森の中にあった卵を持ち帰り、家族に隠れてベッドで温め始める」という、まるで『ドラえもん のび太の恐竜』のようなあらすじだ。少女に蓄積される不満とシンクロして卵が大きくなっているように見えるのが不穏であるし、卵がかえってからは想像の斜め上を行く事態の連続で、いい意味で意地の悪いエンターテインメントとして楽しめるだろう。

物語は明らかに子育てのメタファーでもある。子どもにプレッシャーを与え続け、その切実な気持ちに気づこうとしなかったために、より大きな問題を家庭に呼び込んでしまうという、現実にありふれている恐怖を描いているともいえるだろう。

ハリウッドの一流スタッフが集結して作り上げてた卵から生まれた「もの」のビジュアルも恐ろしいが、それよりもグロテスクなのは母親が「絵に描いたような幸せな家族」の動画を配信する様なのかもしれない。

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▶︎『ハッチング ー孵化ー』を観る

3:『ココディ・ココダ』(2020)

(C)2019 JOHANNES NYHOLM PRODUKTION, ALL RIGHTS RESERVED

娘を亡くした夫婦がキャンプ中に怪しい3人組に襲われるものの、なぜか時間が巻き戻ってしまうという、ジャンルとしては「ループもの」にあたる内容だ。何度も殺されたとしても、生存およびループから抜け出すことを目指すスタンダードな内容かと思いきや……頭に「?」マークが常に出てくるような、不条理かつ意味深で、観る人によって異なるであろう解釈を促す場面が連続していく。

母親がアレルギーになった理由は?影絵の物語の意味は?3人の襲撃者の正体は?それぞれが明確に説明されないからこそ、それぞれが何かのメタファーであると考察できることに面白さがある。

ここにあげたラインアップの中でももっとも賛否は分かれるであろう、「意味不明で支離滅裂」と言われても否定はできない内容だが、その「わけのわからなさ」「謎に翻弄される様」こそを楽しむのがいいだろう。

▶︎『ココディ・ココダ』を観る

4:『ボーダー 二つの世界』(2019)

(C)Meta_Spark&Karnfilm_AB_2018

醜い容姿のために孤独と疎外感を抱えながらも、違法な物を持ち込む人間を嗅ぎ分ける特殊能力を税関職員の仕事に活かしている女性が、奇妙な旅行者と出会い交流を始める物語だ。現実にもある醜悪な犯罪の事実が示される場面もあり、重々しい雰囲気に満ちてはいるものの、主人公の悩みや行動原理は感情移入しやすいだろう。

ホラーであると同時に、ファンタジーであり、ラブストーリーでもあり、「出生」の秘密を追うミステリーでもあると、ジャンルが混在しているような作劇が大きな魅力で、後半からは衝撃的という言葉では足りない、感情の整理がつかない、いい意味で言語化不可能ほどの展開が待っている。

R18+指定という高いレーティングがされているが、モザイク処理などせず「隠さず描いた」ことにも意義がある(追記:配信ではボカシがかかっているR15+指定版、Blu-rayソフトではボカシなしのR18+指定版となっている模様)。

▶︎『ボーダー 二つの世界』を観る

5:『テルマ』(2018)

(C)PaalAudestad/Motlys

幼い頃の記憶をなくしている大学生に初めての恋人ができるものの、原因不明の発作により発動してしまう超能力に苦しめられてしまうというサイキックスリラーで、青春ドラマおよびラブストーリーの側面も色濃い内容だ。

前述した『イノセンツ』と同様に「童夢」のほか、日本のアニメ映画『AKIRA』にも影響を受けていると監督が明言しており、超能力を持ってしまったがゆえの悲劇的な物語などから、確かに似た要素を感じられるだろう。

恋愛をきっかけに、抱えていた秘密、厳格な両親、そして自分自身と対峙する様を通じて、現実にもある「同性愛への不理解」へと立ち向かった内容ともいえるし、もっと広い「呪縛と抑圧からの解放」の物語でもあるだろう。美しい映像美と共に映し出す、観る人によって解釈の異なる分かれるラストまで、ぜひ見届けてほしい。

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▶︎『テルマ』を観る

6:『偽りなき者』(2013)

(C)2012 Zentropa Entertainments19 ApS and Zentropa International Sweden.

ジャンルとしてはサスペンスドラマではあるものの、下手なホラーより怖いと断言できる内容だ。男性の幼稚園の先生が、女の子の作り話が原因で性犯罪者扱いされてしまい、周りから敵意と憎悪の目で見られる……というあらすじなのだから。

おぞましい性犯罪に対する周りの苛烈な反応は当然といえる一方で、実際はまったくの無実である主人公が物理的にも精神的にも過剰に追い詰められる様はあまりにつらく、現実にもあり得ると思えるからこそ恐ろしい。

大人が子どもの嘘を信じる過程も怖い。その少女の証言には明らかに筋の通らないところがあるし、女の子自身も後に嘘だったと告白するものの、それでも大人は性犯罪を受けたせいだと信じようとするのだから。

「何かを盲目的に信じて、それを覆そうともしなくなる」その心理は、誰にとっても他人事ではないだろう。もちろん性犯罪を矮小化するような内容では決してないし、冤罪に限らない「誰かに何かを正しく伝えること」の大切さも教えてくれる物語でもある。

7:『ぼくのエリ 200歳の少女』(2010)

(C) EFTI_Hoyte van Hoytema

永遠に年をとらないヴァンパイア・エリと、孤独な少年の交流を描いたスリラーで、後に『モールス』というタイトルでハリウッドリメイクもされた人気作。人間の血を吸いながら町から町へと移り住むエリの心の闇は深く、それを理解しようとする少年の言動は尊いものの、なかなか届かない。血と暴力がはっきりと映る残酷なシーンもあるが、それは作品には確かに必要といえるものだった。

悲劇的な方向へと常に進み続けているような物語でありつつも、雪が静かに降る静寂の中で展開する、ゾッとするホラー描写と相対する、切ない純愛模様がとてつもなく美しくも思える。

説明がごくわずかだからこそ、キャラクターがこれまでどうしていたか、その未来をも想像できる豊かさもある。これからもずっと語られ続ける北欧ホラーの名作だろう。

▶︎『ぼくのエリ 200歳の少女』を観る

おまけ:北欧バイオレンスアクション映画『ノースマン 導かれし復讐者』もおすすめ!

(C)2022 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

最後に、制作国はアメリカではあるが、劇中の舞台がスカンジナビア地域であり、実際に北欧の「美学」が詰まった作品として、『ノースマン 導かれし復讐者』(2023)もおすすめしておこう。

あえて下世話な表現をすれば「バキバキに画がキマッたバイオレンスアクション」。シンプルな復讐劇でありつつも、怒涛の展開に翻弄される作劇も連続し、後半から「ここまでサービスしていただけるんですか?」と驚くほどのエンターテインメントなのだ。中盤に展開する、スポーツマン精神のかけらもない暴力が横行する球技も最悪で最高だったので、お見逃しなく。

▶︎『ノースマン 導かれし復讐者』

(文:ヒナタカ)

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