『ハッチング―孵化―』“育ててみたらとんでもない結末を招いてしまった映画”オススメ5選
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たとえばもし、あなたの目の前に親の姿が見当たらない“卵”があったとしよう。あなたは不憫に思い、卵をなんとか孵そうと努力する。その甲斐あって卵の中で“何か”が順調に育ち、やがて殻にヒビが入って微かな鳴き声が。
何が生れてくるかはわからない。見知った鳥? それとも爬虫類? あるいは、見たこともない生き物だったら。それでもあなたは情が移り、“それ”を育てるだろう。ただし“それ”がどのように育ち、親であるあなたに愛情を示すかは未知数だ──。
そんな状況をイメージしつつ、今回はズバリ「育ててみたらとんでもない結末を招いてしまった映画」のおすすめ5選をご紹介しよう。
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『ハッチング―孵化―』
© 2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Väst
4月15日公開の『ハッチング―孵化―』は、北欧・フィンランドで製作されたイノセントホラー。北欧ホラーといえばノルウェーの『ぼくのエリ 200歳の少女』が思い出されるところであり、ストーリーはまったく別物でも異質な雰囲気やどこか冷たい映像表現という意味では同じ系譜といってもいいだろう。
本作の主人公は、フィンランドに住む12歳の少女・ティンヤ(シーリ・ソラリン)。彼女は“完璧で幸せな家庭”の一員であり、父・母・弟の4人で暮らしている。そんなティンヤはある日の夜、森の中で奇妙な卵を発見。自室でこっそり温めると日に日に卵自体が大きくなり、やがて孵ったのは──。
© 2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Väst
いきなり今回の主題から逸れてしまい恐縮だが、本作は卵から孵った“それ”もさることながらティンヤの母親(ソフィア・ヘイッキラ)の存在も強烈だ。“幸せな家庭”像を自ら映像に収め、編集し、世界に発信する彼女。本作は冒頭からテンポよく物語が展開するのだが、ティンヤが卵を見つけるよりも前に観客は母親の異様な行動を目の当たりにすることになる。本編開始数分で感じる「なんだかヤバい映画」という感覚は、“それ”が孵るまでの大きなモチベーションになっていく。
© 2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Väst
無自覚の内に我が子を苦しめる親というのは、本作に限ったことではなく現実においても少なからず存在する。そんな現実感と対になるのが異形の“それ”であり、「アッリ」と名づけられたそれは現実(観客側)とファンタジーとの橋渡し役を担う。本作は説明的なセリフは排してあくまで日常会話程度で済ませていくが、アッリの存在を通じて“抑圧”というテーマが浮き彫りになる構造が見事だ。
© 2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Väst
徐々に姿を変えていく異形のアッリはやがて幸せな家庭像を打ち砕く象徴となり、内に秘めた怒りと狂気を文字どおり外側へと剥き出しにする。その狂気の根源にあるものこそティンヤの母親であり、取り返しのつかない状況へ向かっていく様子は皮肉というしかない。
母親の“業”を背負ってしまった、ティンヤとアッリという合わせ鏡。『ジュラシック・ワールド』のグスタフ・ホーゲンがアニマトロニクス・デザインを手掛け、『ダークナイト』のコナー・オサリバンが特殊メイクを担当したアッリの変貌過程にもぜひ注目してほしい。
『エスター』
(C)DARK CASTLE HOLDINGS LLC
ネタバレ厳禁という性質上、もはやネットミームにもなっている『エスター』。原題の「Orphan」とは孤児を意味し、物語はジョン(ピーター・サースガード)とケイト(ヴェラ・ファーミガ)夫妻が孤児院からタイトルロールであるエスター(イザベル・ファーマン)を引き取ったことで大きく動き出す。
そこに至るまでは流産を経験した夫妻の悲劇性が前面に出ているものの、やがてエスターが秘められた本性を発露することで物語のトーンはじっくり狂気に包みこまれていく。
(C)DARK CASTLE HOLDINGS LLC
本作はエスターの存在を軸にしたホラー映画だが、彼女の正体にまつわるミステリーとしても完成度が高い。夫妻の営みを見ても表情一つ変えず、傷ついた動物を微塵の容赦もなく叩き潰すといった異常な行動は、夫妻のみならず観客をも困惑の渦に巻き込む。
その渦はどす黒く、もがけばもがくほど深みにはまるばかり。血にまみれた展開の果てに待つ真相は驚愕の一言で、誰もがネタバレ厳禁である意味に納得できるはずだ。
緻密かつ周到に張り巡らされた伏線もさることながら、何よりも内に秘めた狂気を徐々に発露してくエスターから目が離せなくなってしまう。夫妻側からすれば彼女の様子や性格は異常と言わざるを得ないが、いつの間にかエスターという不可思議な存在に魅了されているのだ。
(C)DARK CASTLE HOLDINGS LLC
おそらくそれは、怖いもの見たさという以上にエスター役のイザベル・ファーマンの卓越した演技力によるものが大きい。もちろん原案・脚本・演出の巧みさあってこそのものだが、結果的に彼女なくして本作は成立しなかっただろう。
それにしても気になるのは、『エスター』公開から10年以上の時を経て製作される前日譚『Orphan:First Kill(原題)』だ。驚くべきことに、前日譚でありながらファーマンが若返りCGや特殊メイクを施さずエスター役で続投するという。それだけでもトリッキーだが、前作を超える驚愕の展開が待ち受けているのか完成を楽しみに待ちたい。
『ブライトバーン/恐怖の拡散者』
(C)The H Collective
誰もが憧れるスーパーヒーローの力。もしもその力の持ち主が、純粋なる悪意に満ちていたら──。そんな意表を突くアイデアで乗り切った『ブライトバーン/恐怖の拡散者』は俊英デヴィッド・ヤロヴェスキーが監督を務め、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズや『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』のジェームズ・ガンがプロデュースを手掛けたホラー作品。
物語はカイル(デヴィッド・デンマン)とトリ(エリザベス・バンクス)夫婦が営む農場に、謎の飛来物が墜落したことで幕を開ける。やがて夫婦のもとでは養子のブランドンが成長し、飛来物の墜落から時を経て12歳に。すると彼の中に秘められていた“力”が目覚め、周囲の人間、さらには育ての親である夫婦にまで牙を剥いていく。
(C)The H Collective
ブランドンに授けられた能力には、空中浮遊や目から放たれる熱線などが挙げられる。彼が地球外からやってきたと判明(冒頭の墜落シーンで簡単に想像はつくが)することからも、本作は『スーパーマン』が念頭に置かれていることは明白だろう。片や正義のために己の力を使い、片や悪意をもって破壊のために力を使う。12歳の少年といってもその能力はスーパーマンに等しく、なおかつ人間でいう思春期特有の不安定な危うさまで内包しているのだから誰にも止めることなどできない。
(C)The H Collective
本作はPG-12指定を受けており、本編ではブランドンによるなんとも痛々しい描写が連発する。確かに“悪のスーパーマン”を描く上で1つの見どころではあるが、彼が破壊者である故に生まれてしまう夫婦の葛藤も見逃せない重要な要素。そもそも飛来物(つまりは宇宙船)の中に居た正体不明の赤子を引き取るだろうか──という疑問が浮かぶが、子に恵まれなかった夫婦の選択には疑問以上の感情があったのだろう。
(C)The H Collective
だからこそブランドンの異常性を知った母親トリの葛藤と父親カイルの苦悩、そして夫婦間に生じる軋轢が本作にドラマ性を寄与する。特にブランドンを信じ続けようとするトリ役のエリザベス・バンクスは、近年出演している『ピッチ・パーフェクト』シリーズや『チャーリーズ・エンジェル』のキャラクターとは一線を画すシリアスな演技に驚かされるはずだ。
『グレムリン』&『グレムリン2 新・種・誕・生』
精神的に重たく圧し掛かる作品を並べ続けるのも申し訳ないので、よりエンタメ度の高い作品もご紹介。言わずと知れた『グレムリン』シリーズは、スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務めた80・90年代のヒット作。2作とも『ピラニア』『ハウリング』を手掛けたジョー・ダンテが監督し、1作目の脚本はのちに『ホーム・アローン』シリーズでヒットメーカーへと躍り出るクリス・コロンバスが担当した。
2作を通じて物語を牽引するのは、ビリー(ザック・キャリガン)とケイト(フィービー・ケイツ)のカップル、そしてビリーが「ギズモ」と名づけたモグワイ。1作目でビリーの父親がクリスマスプレゼントとして連れ帰ってきたモグワイは全身が毛に覆われた小型の生き物(のちの設定によれば宇宙生物)で、大きな耳やくりっとした目を持つ。二足歩行のなんとも可愛らしい姿をしているが、モグワイと生活する上で以下3つの決まり事があった。
・光に当ててはならない
・水で濡らしてはならない
・真夜中に食事を与えてはならない
とはいえ、ルールは破られてしまうもの。不測の出来事が重なった結果ギズモからモグワイが増殖し、さらにモグワイたちは凶暴なグレムリンへと変貌を遂げてしまう。グレムリンの襲撃によって1作目ではクリスマスに染まる町が、2作目では大企業・クランプセンタービル内が大パニックに。まさか1匹の可愛らしいギズモからそんな状況に陥るとは、誰が想像できただろう。やはりルールとは、破ってはならないものなのだ。
ちなみに前日譚を描くアニメ『Gremlins:Secrets of the Mogwai(原題)』がHBO Maxで配信予定となっているが、一体どのような騒動が巻き起こるのだろうか。
『ジュラシック・パーク』
もはや説明不要の映画史に燦然と輝くSFアドベンチャー作品。その歴史は、今も『ジュラシック・ワールド』シリーズへと受け継がれている。マイケル・クライトンの原作小説をスティーヴン・スピルバーグが映画化した(出版前からスピルバーグが映画化の権利を得ていた)記念すべき第1作は、本国アメリカで1993年6月に公開を迎えた。
太古の琥珀に取り残された蚊から血液が採取され、現代に蘇った恐竜たち。科学的な説得力に裏打ちされたアイデアや、ILMによる視覚効果とスタン・ウィンストンのアニマトロニクス技術によってクリエイトされた恐竜たちの実在感は圧倒的だった。その恐竜たちが暴れまわる様子は、まさに映画だからこそ叶えられた“夢”でもる。
──と書くと聞こえはいいが、本作に登場するキャラクターにとってはたまったものではない。恐竜の創造主たるジョン・ハモンド(リチャード・アッテンボロー)の思惑に反し、グラント博士(サム・ニール)、エリー博士(ローラ・ダーン)、マルコム博士(ジェフ・ゴールドブラム)の3人は序盤でパーク開園について否定的な立場を表明する。恐竜は既に絶滅した生き物であり、人間の管理下に置くことは困難と考えるのも無理はないだろう。
JURASSIC PARK - Film TM & (C) 1993 Universal Studios and Amblin Entertainment, Inc. All Rights Reserved.
案の定、パークは開園前からシステムが破綻。人為的操作によるものではあるが、結果的に恐竜があっさり放たれ暴走した事実には変わりはない。本作は卵から孵るものが正体不明の存在ではなく、恐竜──しかも暴君ティラノサウルスや凶暴なヴェロキラプトルといったように種類までわかっているからこその恐怖がある。観客は容赦なく人間を追いつめていく恐竜たちを目の当たりにし、登場人物たちと一緒になって具現化された脅威を体験することになるのだ。
本作ではマルコム博士が倫理観からハモンドの行為を批判したことからもわかるとおり、暴走する科学へ警鐘を鳴らす役割を果たしている。同時にヒューマンエラーによる因果応報を明確に描いた作品でもあり、純度の極めて高いエンターテインメントでありながら“教訓”という側面において実は学ぶべき点が多い。
3人の博士たちが鳴らした警鐘は残念ながら即意味をなくしてしまったが、その3人が揃って再登場する最新作『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』で人類と恐竜の間にどのような“道”が示されるのか注目したい。
(文: 葦見川和哉)
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