「ブギウギ」変わり果てたタイ子の姿にスズ子、愕然<第94回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第94回を紐解いていく。
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戦後の女性の生きづらさ
街娼たちのいるところへ、話し合いに向かったスズ子(趣里)。一対多数で、緊張感が漂います。
「誰かが勝手にはじめて勝手に負けた戦争だろ。あたいらは巻き込まれただけ」(おミネ)
戦争によって、生活ができなくなった女たちは、好きでもない男に抱かれるしかなくなった。お気楽に歌を歌っているスズ子とは立場が違う。
「(おミネたちの事情も慮らず悪くいう)汚い世間に、持ち上げられてお気楽に歌っているあんたとは立場が違うって言ってんだよ」と言うおミネ(田中麗奈)に
「お気楽なんかじゃない!」「ワテかて必死や!」とスズ子は反論。自分がいかに不幸だったか語ります。
スズ子と街娼たちは、お互いの辛さを吐露し、あっという間に和解します。
ともすれば、街娼たちの悲劇を聞いたスズ子が、私のほうが不幸と、悲劇マウントを取ったようにも思えますが、決してそうではありません。それぞれの事情や心情を受け入れ合うことの大事さをここでは学ぶべきでしょう。
立場が違っても、それぞれが自分なりの悲しみを背負っているのです。
とはいえ、こんな簡単に和解するのなら、最初から、街娼たちは、スズ子の歌が好きで、元気になるのだという話でも良かった気もするのですが、ドラマには緩急が必要なのです。
女性の問題を一気に詰め込んだ回で、ひとつ問題が解決したら、今度は、すっかり弱ったタイ子(藤間爽子)がスズ子の前に現れます。なんというめぐり合わせでしょう、ガード下で靴磨きをしていた達彦(蒼昴)はタイ子の子供だったのです。
「なんで(こんなことに)」と心配するスズ子に、「スターさんには関係ありません」と激しく拒絶するタイ子。わかる。わかります。同じように子供時代を過ごしてきた友人が、スターになって輝いているのに、自分は貧しく、病気に罹って思うように動けない。こんな惨めな姿を見られたくないものです。
おミネたちも、タイ子も、山の上にいるスターと裾野を這いずっている自分たちは違うという、運命の格差の残酷さを恨みます。私だって不幸と言いつつも、ばかじゃないから、自分がかなり恵まれていることは実感しているはず。そんなとき、スズ子はどう対応するのかーー。
なかなかデリケートなところに踏み込もうという意気込みは良しとして、戦後、苦しい生活を余儀なくされている女性たちの生活をドラマ全体の主題ではなく、ワンエピソードとして短時間で描くのはなかなかの勇気と手腕が必要です。
そこはベテラン脚本家の櫻井剛さん、一話完結の連ドラを書くような手付きで、手堅く要素をまとめあげます。この期間で、これとこれとこれを用いて、戦後の女性たちの生き方をテーマに、一週間分の脚本を書いて、というオーダーに必死に応えた成果なのではないでしょうか。
どんなときでも、笑って歌うことで福を呼ぶーー福が来るで福来スズ子、と母ツヤ(水川あさみ)がつけてくれた芸名に託された希望も、ここで改めて語ります。
【朝ドラ辞典:夜の女(よるのおんな)】明治〜昭和の戦後を舞台にした朝ドラでは、生活苦から、夜の女に身を落とす登場人物が描かれる。たいていは、ヒロインの前に、親しかった人物が変わり果てた姿になって現れ、ヒロインが胸を痛める展開に。「おしん」では親友・加代があやしい店で客をとっていて、病気になり死亡、残された子供をおしんが引き取る。「カーネーション」ではパンパンになった親友・奈津に糸子が手を差し伸べる。「べっぴんさん」ではお嬢様だった悦子様が戦争で没落し、子供を養うために水商売をしていたが、大急百貨店の小山と再婚し再起する。ヒロインは恵まれている分、世の中の不幸な人たちにも目を向け、できるかぎりのことをするという道徳的な展開になっている。類語:パンパン、街娼、夜の蝶、水商売
(文:木俣冬)
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