不良学園映画の原点?『愛と誠』三部作を観る
不良学園映画(=ヤンキー映画)というのは、脈々と続く日本映画のジャンルの一つと言っていいでしょう。
近年でも3作品が作られた、若手演技派総登場の『東京リベンジャーズ』。ドラマや舞台まで人気を広げる『HiGH&LOW』シリーズ。あえて当時のテイストや時代感をそのままにした『今日から俺は!!』などが商業的な成功を収めました。
こういったジャンルの源流を辿ってみると、1970年代にまで遡ることができます。その中でも決定打と言われているのが、1974年から作られた『愛と誠』三部作です。
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『愛と誠』三部作の始まり
原作となったのは梶原一騎原作、ながやす巧作画の劇画(漫画)「愛と誠」。
「最近の映画は原作ものばかりだ」という批判の声を聞くこともありますが、“漫画原作映画”というのは70年代からずっと続いているものです。
原作が梶原一騎の劇画といっても、それまでの「巨人の星」や「あしたのジョー」といった梶原作品の“スポ根”路線とは異なり、「愛と誠」は純愛モノ(当時は純愛山河と表された)でした。
原作は1973年から1976年にかけて全四部構成で週刊少年マガジンにて連載され、映画版の1作目は連載の中の1974年に製作されています。
主人公の大賀誠には、1970年代に郷ひろみ・野口五郎と共に新御三家と称された、ワイルド系アイドルの西城秀樹がキャスティングされました。
当時、熱狂的な“ヒデキファン”が多かったことから彼の人気を当て込んだアイドル映画とも見られがちですが、実際には原作ファンだった西城秀樹が梶原一騎に直談判して勝ち取った主演でした。
(C)1974松竹株式会社
難題となったのは、西城秀樹の相手役となるヒロイン・早乙女愛役のキャスティング。当時の“ヒデキファン”の熱狂の凄さもあり、相手役は一般公募(オーディション)で相手役を選ぶことに。その結果選ばれたのは、今作がデビューとなる完全な新人——芸名は『愛と誠』の役名そのままの“早乙女愛”を名乗りました。
映画版『愛と誠』を制作したのは、邦画界の中でも保守的なイメージのあった松竹。意外な組み合わせという気もしますが、このような作品を得意としていた東映が先行する形で“学園不良映画”を何本か手掛けており、そこで松竹が満を持して決定版として『愛と誠』を制作した形になります。
『愛と誠』公開
(C)1974松竹株式会社『愛と誠』は、いざ公開されてみれば大ヒットを記録。早々にシリーズ化が決まり『続・愛と誠』『愛と誠完結篇』まで続く三部作となりました。
ただシリーズ化についても、他の作品とはまた異なる状況に。なんとW主演の一角である“大賀誠”が2作目にして違う役者(=南条弘二)になり、さらになんと3作目でも大賀誠役は別の役者(=加納竜)に変わることに。
主人公の一角が毎回変わることで、ヒロインの早乙女愛の映画シリーズにおける比重が大きくなり、結果として彼女が映画の軸になっていく不思議な展開に。ちなみ大賀誠役は三部作とも違う役者が演じることになりましたが、物語の世界観は共通したものになっています。
『愛と誠』三部作について
1作目となる『愛と誠』は、当時として十分すぎるほどの大ヒット作となりました。ただ1作目は、早乙女愛と大賀誠の全てのはじまりとなる幼少期の出来事から描いていたため、西城秀樹も早乙女愛も出ずっぱりではなかったのが実情です。
もちろん2人のはじまりの部分のため描かないわけにはいかないのですが、結果として“劇中の現在”である学園パートが少なめになってしまったことは確かです。
というわけで『愛と誠』の色味がはっきりと展開されるのは、2作目の1975年の『続・愛と誠』からになりました。
多岐川裕美演じるスケバンも加わり、この2作目をして“不良学園映画路線”を確立し、やっと『愛と誠』が機能しはじめたという印象です。
そして、2作目撮影中から動きがあったと言われている3作目『愛と誠 完結篇』が1976年に公開されます。この3作目は、なんと総理大臣が絡む陰謀劇にまで話が広がります。
不良学園モノとしては随分と風呂敷を広げたものですが、実は早乙女愛にもっとも強い影響を与える出来事が起き、そのために独り立ち上がる誠の動機の強さを感じられます。そして“愛と誠らしい”、ハッピーエンドを迎えて非常に納得感が強くなります。
1作目の成功ありきの三部作展開ではありますが、良い形で完結篇まで走り抜けたのは「お見事」の一言です。
▶︎『続・愛と誠』を観る
▶︎『愛と誠 完結篇』を観る
ちなみに……『愛と誠』リメイク版も
ちなみに『愛と誠』は2012年に妻夫木聡&武井咲という組み合わせで三池崇史監督によってリメイクされています。なんと本作は、昭和歌謡を大々的に取り入れたミュージカル映画になるという、別の面白さに仕上がっています。
方向性は少し異なりますが、『愛と誠』をリメイク版と比較してみるのも面白いかもしれません。
(文:村松健太郎)
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