「虎に翼」桂場(松山ケンイチ)がようやく団子を食べた、清々しい結末<第25回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第25回を紐解いていく。
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すてきな判決文
「あたかも水中に月影をすくいあげようとするかのごとし」
(桂場)
「判決を言い渡す」(裁判官〈平田広明〉)
……でタイトルバック。
前回から引っ張って、さらにまだ引っ張る念の入れよう、嫌いじゃない。
タイトルバック明け。
判決は、無罪。
直言(岡部たかし)のみならず、裁判にかけられた被告人16人、全員無罪になりました。
引っ張って引っ張った分、よかった感が倍増です。
やはり検察側の提出する証拠の数々が曖昧過ぎて、証拠不十分どころか犯罪そのものが存在しないとされました。控訴も諦めるほどぐうの音も出ない結果です。
そのときの主文に書かれた言葉が、「あたかも水中に月影をすくいあげようとするかのごとし」というじつに文学的なのもの。
これは桂場の書いたものだと、穂高(小林薫)が言い当てました。
穂高は桂場がロマンチストで、かつ、蟻一匹通さないほど完璧であるとも言います。
こういう人ってかっこいいです。数学者や科学者が数式や化学式や法則に美を見出すようなものと近いかと思います。そういう人は物語のキャラになりやすい。
検察が司法に私利私欲にまみれた汚い足で踏み込んできたことが許せないと、酔いにまかせて語る桂場。その怒りも、穂高は判決文から読み解いていました。
桂場の法への気高い思いと似たようなものを、寅子(伊藤沙莉)も裁判を経験して気づきます。
甘味処で待ち伏せて、桂場に、法律は武器でも防御のものでもなく美しいまま守るべきものということを湧き水に例えて語ります。それに桂場は反応。裁判官になりたいのか?と訊ねますが、この頃、まだ女性は裁判官にはなれませんでした。
ただ、寅子のモデルである三淵嘉子さんは弁護士を経て裁判官になりますし、ドラマの第1話で、法が男女平等を定め女性が裁判官になれる時代のはじまりを描いていたので、これがのちの寅子の進路に大きく関わってくる出来事だったのだとわかります。脚本がいちいち親切丁寧。
甘味処の主人が寅子にごちそうしてくれて、それを食べて満足顔で金曜日が締まるのも、とても気持ちがいいものです。桂場も何度もお預けをくらっていた団子をついに食べていました。
裁判が終わったあと、猪爪家で家族のお祝いが催され、傍聴マニアの笹山(田中要次)が寿司を持ってきてくれるのも嬉しいシーン。寿司屋であると言うからいずれ寿司屋のシーンが出てくるかと思っていたら、こう来たかと。
戻ってきた直言が、行けなかった映画を見に行こうとチケットを差し出すと、はる(石田ゆり子)が堰を切ったように泣き出す場面も良かったとしか書きようがありません。
はるが「私が小うるさいから」と自覚していたり、直道(上川周作)の言葉を真に受け女がいるんじゃないかと心配していたと言ったりするのも、石田ゆり子さんが見事にかわいい女房感を出していました。
そして、岡部たかしさんだから、確かに女がほかにいるかもと思わせるだらしさなと妙な色っぽさが出ていて、はるの悩みにもナットクできるのです。岡部さんはちょいちょい女性にだらしない感じの役を演じていらっしゃるので。
桂場の自分の美学を大事にするキャラも、松山ケンイチさんの代表作、「DEATH NOTE」のLのイメージもありました。そういえば、Lも甘いもの好きでした。俳優のイメージも生かした脚本で、何もかもよくできています。
1年半に渡るほどで、国家権力が関わっている裁判も朝ドラの枠に合わせて、重苦しく難しくなりすぎず、誰でもわかるものにまとめてくれているのもありがたい。
(文:木俣冬)
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