「虎に翼」はる、死ぬ。「ちょっと待って。こんなの急すぎる」<第59回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第59回を紐解いていく。
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伊藤沙莉の名演技
「ちょっと待って。こんなの急すぎる」寅子(伊藤沙莉)の言葉どおりです。
あるとき、突然はる(石田ゆり子)が倒れ、危篤状態に。心臓発作を起こしたのです。
思いがけない死というのはあるもので、心の準備ができていない分、ほんとうにショックなものです。
死んだお父さんの分まであと10年は生きるつもりだったことを無念に思いながら、家族に囲まれていることには満足そうなはる。でもひとり足りない。それは――
道男(和田庵)でした。10日前、花江(森田望智)に誤解を招くような言動をして、いづらくなってどこかに行ってしまった道男。
寅子は急ぎ探しにいきます。
この10日、それなりに寅子は道男を探していたようですが、みつからなかったので、行先を知らないかとカフェー燈台を頼ると、そこにいました。もともと道男は燈台のよね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)に世話になっていたのだから、まず探すなら燈台でしょうと思ったところ、よねが「ここには来るなと言っただろう」と怒り、寅子は「本当は知っているんでしょう」と言うので、すでに来たけど知らないと言われたことがわかります。鉄壁。ここは「燈台下暗し」と書きたかったのに、残念。
寅子は道男に「お母さんはね私が出会ってきたなかで一番まっとうで優しい人なの」とはるに会ってほしいと懇願します。
道男を最も気にかけていたのははるであり、そのはるの今際の願いを叶えようと悔いなく死んでもらいたいと、懸命です。
そんなこと言われても道男も混乱するでしょう。悪者を見る目で見られ、石もて追われるような気持ちで再び荒野へ出た道男です。でも説得されて、しぶしぶはるの枕元へ。やっぱりいい人なんだろうなあ。
はるは、道男を抱きしめ、「よくここまでひとりで生きてきたね」と労います。
両親の愛にも恵まれなかった道男はただ、誰かに抱きしめてほしかっただけなのだとはるはわかっていたのです。
道男「ばあちゃん死ぬのかよ」
はる「死ぬ」
なんて簡潔なセリフ。すばらしい。
最期の善意を行い、悔いがなくなったはるは、その晩、寅子と花江だけ、枕元に残し遺言?を語ります。
日記を全部焼いてくれ「恥ずかしい」からというはるの気持ちはよくわかります。人が亡くなると、手紙や日記が世に出ることがあり、それが貴重な記録ともなる一方で、極めてプライベートなことがたくさんの人に知られてしまうことを故人はどう思うのか、筆者はいつも気になっていましたし、自分の手帳も誰にも読まれることなく焼いてほしいと希望しています。作家なんかは、読まれることを意識して書き残していると思うので、そこが作家の業の深さです。
さて。寅子は「やだっ 死んじゃやだっ」と子供に戻ったようにはるに向かって叫びます。寅子の幼少時代が描かれなかった分、伊藤沙莉さんが渾身の演技ではると寅子の幼少時代を想像させ、涙を誘います。おいおい泣く声に力があって、アニメの声優の名演技のようでした。
こうなってくると、やっぱり幼少時代のほっこりするエピソードを描き、回想で出したら、もっと感動できそうとも思いました。また、SNSで、最期に道男を優先された孫たちの気持ちは……という意見を見かけまして。ほんとだ!と目からウロコが落ちました。息子の直明(三山凌輝)もなんかかわいそうかも。でもきっとこのあと、彼らは仮眠から目覚めて臨終に立ち会ったのでしょう。いろいろうるさくてごめんなさいね(ブギウギ的謝罪)。
「いまそれ言いますかいま」
「ちょっと待って。こんなの急すぎる」
と、完全に現代的な言葉遣いの多用によって、昔を舞台にしながらいまを描いている!と、政治的問題から、身内との別れまで、いまと何ら変わらないと共感される点において、今日も100点満点でした!
第58回の、浮浪児のうろつく荒れた場所の美術がすばらしかった。やけに丁寧に木が重なりあっていて、屋根の小さな穴から光が差しているのもよかった。美術200点。
(文:木俣冬)
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