「虎に翼」はる(石田ゆり子)が倒れて心配<第58回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第58回を紐解いていく。
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道男が花江に迫る
浮浪児・道男(和田庵)を家に居候させた寅子(伊藤沙莉)に、家庭裁判所の面々は猛反対。多岐川(滝藤賢一)も、16、7歳の少年を、昼間、女性と子供しかいない猪爪家に引き取ったのは軽率だったと指摘します。その心配は的中し……。
道男ははる(石田ゆり子)の財布を盗もうとしたり、花江(森田望智)に直道(上川周作)の代わりになりたいと迫ったり。猪爪家は大揺れ。
順を追って見ていきましょう。
はるの財布を盗もうとし、猪爪家のトラブルメーカーと化した道男をなんとかしようと、直明(三上凌輝)が乗り出します。
年下の子供たちから慕われている道男に悪気がないのはわかるから「助けになりたいんだ」と申し出るのですが、道男は、いいやつなら助けて悪いやつなら助けないのか? と反発します。
自分がいいことをして気持ちがよくなりたいだけではないかと、直明のことを偽善者のように言う道男。姉の寅子にもそういうきらいがあるのは視聴者はうすうす感じていました。つまり猪爪家が荒廃した社会のなかでどこか浮世離れして見えることを、荒廃した社会に生きる当事者から突きつけた形でしょう。
恵まれた人と恵まれてない人との間に、大きくごうごうと流れの荒い川があるのです。
寅子が、出張で家を開けている間に、さらにトラブルが起こります。
花江が道男に、亡き夫の服を着せて涙ぐむと、直道の代わりになれないかなと言い出して……。
「花江ちゃん やさしいし、いい人だし、きれいだし」と言うボキャブラリーは、教育を受けられなかった道男のせいいっぱいなのでしょうけれど、逆になにかへんな欲望に感じてしまう。第57回でも、「おばさん」呼びしたあと、唐突に「きれいだね」とか言うし。そうやって、道男への疑惑を積み重ねる作劇なのだと思います。
花江は思慮深く「ごはんにしましょ」と話題を変えますが、道男は彼女の腕をとり、強要するような形になり……。
道男役を、がたいのいい大人びて見える俳優にしたのは、このためなのかなと思います。身体は十分の大人の男性の脅威を感じます。
そこへ、息子・直人(琉人)と直治(楠楓馬)が現れ、母を守ろうととびかかりました。
もう目を背けたくなる光景であります。大事な母を、素性のわからぬ男に汚されてはなるものかという激しい少年の衝動。第一、道男、大人びているけれど、子供たちのほうに年齢は近いと思うので、ますますインモラル。
女性の権利の獲得や、平等を謳う潔癖感に満ち溢れていたドラマがなぜ急にこんな様相に……。
ドラマは、見る人の感情を揺さぶる必要があるので、こういう展開を選択したのだとは思いますし、そこに、道男なりの心情が隠れているのだろうとも思うのですが、そのへんのことが噛み砕く時間がないまま、ぐいぐいと食べ物を喉に押し込まれているような気持ちに。あれだ、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で、アスカがシンジにレーションをぐいぐい食べさせているような感じがしました。倍速視聴の世代にはこれでOKなんでしょうか。
少年の年上の女性への情動であれ、あるいは家族をなくした道男の彼なりのやさしさであれ、どんな感情もあって全然いいのですが、出した方がいささか唐突な気がして……。
皆から非難の目で見られた道男はぷいっと家を出ていってしまいました。
寅子が行方を探しますが10日が経過、道男に手を差し伸べていたはるが、倒れてしまいます。
道男――あるいは家庭のない子供たちの問題よりも、はるのことで頭がいっぱいになってしまいました。明日の続きがものすごーく気になるという点においては、100点満点です。
(文:木俣冬)
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