「虎に翼」玉と涼子はなぜ英語で話をしたのか<第84回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となる“とらこ”こと猪爪寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第84回を紐解いていく。
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寅子、傍聴2連発
友情がテーマになっていました。いつものように買い物カゴを提げた寅子(伊藤沙莉)はたまたま帰り、優未(竹澤咲子)が学友たちと話しているところを目撃します。朝ドラ名物立ち聞きは家のなかが多いですが、今回は野外。寅子は草むらに隠れて娘を見守ります。
学友たちは、先日、優未を誘って一緒に帰った子たちですが、先生から頼まれたからやっていただけで、優未が全然話をしないものだから、不満を感じていたようです。友達になってあげたと恩着せがましく言う子たちに、優未はさばさばと、「お互い無理をしても誰も幸せじゃないし、そこから友達になるのは難しいと思う」と返します。
先生から頼まれたから、とか、〜〜してあげた、とか言ってしまう子供の残酷さ。でも優未は落ち着いたもので、その子たちにちゃんと「ありがとう」と礼儀を尽くします。しゃべりたくない人には無理して愛想を振りまかない。でもありがとうは言っとく。親に顧みられないでくるとこんなふうに達観した子になってしまうのでしょうか。
一部始終を見ていた寅子は、気を使って少し遅めに帰宅します。先に帰宅し、いつもどおりに振る舞う優未に、寅子は変顔をしてみせます。と、優未も変顔をしていました。ということは、優未も寅子を元気づけたいと思ったのでしょうか。
同じことを考えていたふたり。ようやく、少しだけ溝が埋まったような。寅子は溝を超えて優未に近づき、ぎゅっと抱きしめることができました。
そして日曜日、寅子は優未にまたお留守番してもらって、ライトハウスに向かいます。
開店前、寅子はいきなり、玉(羽瀬川なぎ)に、更生指導所は、新潟には空きがなく、神奈川にならあると切り出し、玉も涼子(桜井ユキ)の気持ちをもざわつかせます。ふたりの問題には寅子は介入できないから、「答えを出すことを手放す」と言いつつ、ふたりが本音をぶつけるきっかけは作るのです。
「ふたりの問題はふたりに任せる」
優未と学友の場面も黙って見守った寅子は、玉と涼子が本音を語り合う様子も黙って見守ることに。判事の寅子にはふさわしい役割です。
なかなか斬新な場面でありました。ふたりの人物の真剣会話を、ヒロインが傍聴する。いっさい、何も感情も思考もさしはさむことなく。
玉は、自分が怪我して動けなくなったから、涼子が離婚までして面倒を見てくれていることに罪悪感を抱いています。でも、涼子にとっては玉は大事な存在でした。むしろ、涼子こそ、自分の孤独を癒やすために玉をそばに置いていたのです。
夫とは子供もできず、本当の意味では夫婦になれなかった(これは意味深でした)。亡くなった母・寿子(筒井真理子)が子供がいないと、孤独な余生になるから、子供をつくれと言ったことを聞いて、子供の代わりを玉に求めたのです。ただ、それは、子供に自分の世話を頼むということではなく、自分の孤独を埋めてくれる相手は玉しか思いつかなったのでしょう。
夫は解放したのに、玉のことを解放しなかった涼子の思いは、ライトハウスの入口が車椅子の玉には不便な階段状になっていることからもわかるような気がします。
バリアフリーにしないことで、玉をライトハウスに自分といっしょに閉じ込めたのではないでしょうか。寿子が大きな歴史ある屋敷でひとりさみしく長い時間を過ごしていたように、建物に牢獄のようなイメージが浮かびます。寿子の果てない孤独には井伏鱒二の「山椒魚」の世界観も少し。
でも玉は涼子といるのが不幸ではなく、閉じ込められている意識はありません。涼子の幸せを思うと自分がいないほうがいいと思っただけ。つまり、相思相愛であったわけです。お互い相手に悪いのではないかと気にしながら、本音を聞けないでいたところを、寅子のある種、空気を読まない介入が功を奏しました。
「せめてふたりが対等であってほしい」と寅子はそれだけ口をはさみ、玉と涼子は英語で親友の誓いを交わします。
先日、「あさイチ」で、見知らぬ他者に呼びかけるとき、どう呼ぶのがいいかという話題になっていました。見知らぬ人に「おばさん」「お姉さん」とか声をかけてしまうことが気になるという話でした。それが、英語だと誰にでも「you」と対等です。
英語だったら、見知らぬ人に声をかけるとき、Can I help you? とyouで話かければいいのだと、「あさイチ」を見て思ったことを今朝の「虎に翼」を見て思いだしました。
(文:木俣冬)
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