「虎に翼」寅子、夫婦別姓問題に悩む<第101回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第101回を紐解いていく。
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星寅子もかっこいいが
第21週「貞女は二夫に見(まみ)えず?」(演出:酒井悠)のサブタイトルで思い出したのは「わろてんか」(2017年後期)です。夫が亡くなったときヒロインが白い喪服を着ていて、これが「二夫に見えず」ーー再婚しないという意思を表すものとされていました。遡って「あさが来た」(2015年後期)でも白い喪服が登場していて、どちらのときもレジェンド少女漫画「はいからさんが通る」で白い喪服の意味を知っていた一部の視聴者は、白い喪服の意味の重さに気持ちのざわめきを抑えることができなかったのです。筆者もそのひとり。この時代、二夫に見えずという精神論が尊く思われるなかで、寅子(伊藤沙莉)は二夫に見えるか否かで悩んでいました。
その悩みをよね(土居志央梨)に相談しようと、小さな花束(よねが弁護士になったお祝い)をもって法律事務所を訪問すると、轟(戸塚純貴)が男性・遠藤(和田正人)をおつきあいしている人だと紹介します。男性同士の恋愛に免疫のない寅子はいささか戸惑ってしまいます。
寅子は轟と遠藤がいる前でよねに、交際相手に結婚を申し込まれたものの、いまさら結婚する必要があるか、悩んでいると相談します。
「それを私たちに話して何になるというんだ」と、よねはぶっきらぼうに返します。
その前の、よねと轟と遠藤のリアクションに注目です。
よねは独身です。少女時代に男性にひどい目に遭ったこともあるし、はっきりした理由は明かされませんが男装を貫いていて、誰かと交際経験があるようには見えません。
轟と遠藤は、まさに交際しているけれど結婚しない関係です。というか、同性婚はこの時代、認められていません。彼らが結婚したいと思っているかはここではまだ明かされていませんが、世間的に認められていない関係であることを気にしていることは確かです。
この3人に、結婚する意味を聞くことがはたしてふさわしいでしょうか。しかも、寅子が子供はすでに互いにいて、経済的にも、将来的にも独身であってもなんら困らない、などと、自身は恵まれていることを語るのです。場合によっては自慢に聞こえてしまうではないですか。
だからよねは、「それを私たちに話して何になるというんだ」とたしなめたのではないでしょうか。
寅子はそこに気づいたかどうかはわかりませんが、轟と遠藤に、自分の反応が好ましいものではなかったであろうことを謝罪します。そこは自覚していたようです。
よねに言われたように、寅子は航一(岡田将生)に率直に結婚の意味を見いだせないと相談します。が、航一は、「永遠を誓わない愛」とは法律で決められている結婚そのものだという理論を展開します。いつでも離婚できるということです。
でも問題はまだあって。もし結婚するとしたら、苗字をどうするか、寅子はひっかかりはじめます。結婚すると当然のように夫の姓を名乗ることになる。そこに寅子はひっかかるのです。過去、彼女が結婚し、佐田姓になったときは、既婚であることで社会的立場をよくして弁護士として仕事をやっていきやすくするためでしたから、苗字が変わったほうがアピールできたわけです。でもいまや、”佐田寅子”として世間で有名になっているのですから、名前が変わることにメリットを感じられません。
これが、現代でも問題になっている夫婦別姓問題です。結婚により夫の苗字を名乗ることでいろいろ不都合が起こるのです。
こんな話が大家族で語られている登戸の家の表札は「猪爪」。どどーんと表札が映されていました。「佐田」の表札は出してないんですよ。
モデルの三淵嘉子さんの三淵は再婚相手の苗字です。想像でしかないですが、再婚相手の三淵さんはお父さんも法曹界で名のあるかたなので、三淵の苗字を名乗ると印象がよくなったのではないでしょうか。三淵家の一員として法曹界で一目置かれるというような。家制度がよくないと言われる一方で、家制度がメリットになることもあるのです。あからさまに口にしなくてもそれを自覚している女性も世の中にはいると思います。
寅子にとってかつては便宜にすぎなかった「佐田」という苗字がいま、どんな意味を持つのか。それは語られるでしょうか。
この回で印象的なのは、寅子が法律に興味をもったきっかけは婚姻制度に「はて?」と疑問をもったからだったと振り返ることです。三つ子の魂百までじゃないですが、
法律家になった寅子は、婚姻制度に納得できるようになるのでしょうか。はたして、寅子は、星寅子になるのでしょうか。
(文:木俣冬)
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