「虎に翼」寅子はなぜ花一輪しかよねに持ってこなかったのか<第102回>
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2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。
日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第102回を紐解いていく。
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航一が佐田姓を?
第101回のレビューで”寅子(伊藤沙莉)にとってかつては便宜にすぎなかった「佐田」という苗字がいま、どんな意味を持つのか。それは語られるでしょうか。”と書いたら、いきなりアヴァンで語られました。悩んだ寅子が早く寝ると、寅子がたくさん出てきます。猪爪寅子(過去)、佐田寅子、星寅子(未来)たちが、それぞれの言い分を語ります。
佐田になったのは、結婚を世間にアピールしないと仕事にならないので苗字が変わったほうがむしろいい。と、最初は打算だったけれど、優三(仲野太賀)への愛情を感じるようになってからは、佐田の苗字にも愛着があるようで、名前を変えることに抵抗があるのです。さらに、キャリアを積んできた時間も消えてしまう気がする。
だったら、過去の猪爪寅子の尊厳はどうなる? と少女時代の寅子が割って入ってきて……。
ここで一気に、寅子の変化、成長が可視化されました。猪爪の頃は口だけでなく手も出る激情型でしたが、いまはだいぶ落ち着いています。星寅子は、もっともっと社会的地位をあげたい野心家で佐田寅子と対立しますが、寅子のなかにこういう寅子も存在しているのかもしれません。
伊藤沙莉さんがいろいろな寅子を見事に演じ分けています。
第101回から102回にかけては、司法試験の勉強をしている直人(青山凌大)が法律を諳んじる場面や、寅子の夢で、これまでの寅子を復習できる場面が効果的で、調子が出てきたように思います。
名前が変わるとその前の自分は消えてしまう? 第102回で自分が消えてしまうという感覚を、轟(戸塚純貴)にも語らせます。
轟の場合は同性愛で、寅子と違って、苗字を変える変えないということに悩むことすらできない状況に置かれています。令和のいまこそ、同性婚も認められはじめていますが、戦後はまだまだ偏見がありました。名前どころか、男性同士でつきあっていることすら世の中に公開できない方々がいたのです。
実生活では法的に守られないうえ、自分たちが死んだら、戸籍には自分たちの関係が記されていないから、その事実が消えてしまうと轟は思うのです。戸籍によって数代まで遡った家族関係がしっかりわかりますけれど、轟と遠藤(和田正人)の関係は記録されないから、100年後に誰にも気づいてもらえないということです。そういう人たちが世の中にはいるのです。
同性愛に限ったことではなく、公的な記録に残らなかった人は無数に存在します。よね(土居志央梨)がこのまま結婚しなかったら、よねの存在も記録に残り続けることはないかもしれません。彼女が弁護士として良い仕事をして、その記録が山田よねの名で残る可能性はありますが。
轟は「いま振り返れば」と過去の自分を寅子に語るなかで、よねが自分を救ってくれたと話します。誰が何をした、何を語ったか、少しでも正しく残したいという思いゆえでしょう。自分が消されてしまう側を経験した人はそういうことに誠実です。経験のない人は悪気あってもなくても他者の存在を消してしまいがちです。
すこし照れたようなよねの座ったカウンターに1本の白い花が飾ってあります。
寅子のもってきた花でしょう。花束かと思ったら1本でした。
まっすぐのびた一輪の白い花はまるでよねのようです。
だれもがそれぞれこんな花であるのだと思います。
寅子が大きな花束でなく、一輪の花を持ってきたセンスも悪くない。
寅子は再び、星家を訪ね、天丼を食べながら語らいます。
そこで、航一(岡田将生)は佐田と名乗っていいと言いだし、百合(余貴美子)が顔色を変えました。どうなる、再婚?
(文:木俣冬)
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