続・朝ドライフ

SPECIAL

2024年09月03日

「虎に翼」更年期障害と老年性痴呆と原爆裁判<第112回>

「虎に翼」更年期障害と老年性痴呆と原爆裁判<第112回>


「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら

2024年4月1日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。

日本史上で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。困難な時代に生まれながらも仲間たちと切磋琢磨し、日本初の女性弁護士となるヒロイン・寅子を伊藤沙莉が演じる。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第112回を紐解いていく。

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問題山積み

「そろそろあの戦争を振り返ろうや。そういう裁判だろ」
(竹中)

原爆裁判が本格的にはじまりました。
改めて、原爆裁判とはなにかというと、広島、長崎で被爆した方々が国に補償を求め起こした裁判ですが(実際にあったことをドラマにしています)、第111回で、雲野(塚地武雅)が言っていたように、1件の訴えを認めたら、次々と補償を求めてくる人が現れるので、国としては認めることができないようなのです。

国側の指定代理人の反町忠男(川島潤哉)は感情を一切押し殺し、事務的に物事を進めるタイプに見え、なかなか手ごわいです。第111回ではひとり黙々とお弁当を食べている姿が印象的でした。

雲野亡きあと、岩居(趙珉和)を助け、よね(土居志央梨)轟(戸塚純貴)が原告の弁護を受け持つことになりました。

第一回口頭弁論の終了後、よねはすれ違いざま、寅子に「意義のある裁判にするぞ」と語りかけます。判事と原告側弁護士なので馴れ合いは禁物です。

と、ここで気になったのは、寅子は更年期で疲れがとれず、暑がりになって扇子が手放せないのですが、同じ年であるよねはいつまでも少女のようであります。結婚や出産をしてない分、精神年齢が若いということはあるかもしれませんが、体調に変化はないのでしょうか。

ひとりやけに老けている、傍聴に来た竹中記者(高橋努)は雲野にこの裁判を記録して世に伝えてほしいと頼まれたと言います。雲野の本気を見る思いです。
竹中は体は衰えているようですが、百合(余貴美子)のような物忘れはないようでなにより。でも、岩居たちに囲まれてベンチに座って話し込んでいるだけで、彼らに取材しているふうに見えませんが大丈夫? そこはベテラン、メモをとらなくても大丈夫なのかも。

星家では、百合の調子がますますおかしい。物忘れが激しいうえ、気性がとても穏やかだった百合が、急に不機嫌になったりします。

心配した航一(岡田将生)は老年性痴呆症ではないかと推察し、図書館で調べたことを寅子に見せます。航一はメモ、ぎっしり。

航一はまた、寅子(伊藤沙莉)が最近、疲れやすいのは、更年期障害ではないかとも指摘し、書籍を手渡します(ドラマの順番的には寅子の更年期指摘が先で百合の話はそのあと)。さすが、総力戦研究所のメンバーに選ばれただけはある。洞察力と調査力に長けています。

航一もまたよねと同様、若々しく、更年期(男性にも更年期があるといわれはじめたのは近年)もなく、記憶に衰えもないようです。

それから1年半が経過。百合の症状は進行しているようで、銀行に勤務しているのどか(尾碕真花)をまだ大学生だと思い込んでいたり、自分がのけものにされていると被害妄想をしたり。

そのたび、空気はざわつきますが、寅子たちはできるだけ平常心で接します。手が回らないところはお手伝いさんを頼んで、日中の世話はお任せしています。お手伝いの吉本(山野海)のはっきりゆっくりした話し方やきびきび無駄のない動きは慣れた人感がよく出ていました。短い出番のなかすばらしい。

余貴美子さんが、警戒心をあらわにしたかと思うとふわっと機嫌がよくなる、黒から白へと極端にひっくり返るのではなく、濃淡のある変化を表現されて目が離せません。朝から濃密なお芝居でした。

8月、原爆投下が国際法に違反しているか、国側は国際法学者の嘉納隆義(小松利昌)教授の鑑定、原告側は保田敏明(加藤満)教授の鑑定を求めることになりました。それぞれの意見があって――。
ここでは竹中が鋭い目つきでメモをとっていました。
寅子は法廷では汗をかかないのでしょうか。しんどいと思うのですがクールにふるまっています。

小松さんは「らんまん」で主人公の家の番頭のほか、「純と愛」や「まんぷく」等、加藤さんは「ちゅらさん」や「エール」に出演している朝ドラでおなじみの俳優さんたちです。

ここのところ気になるワードは「あの戦争」。あの戦争はなんだったのか、あの戦争を振り返ろう、と寅子や竹中が言います。彼らの思いは語られませんし、「あの」の具体的な記憶も語られません。なかには、そこを描いてほしいと思う視聴者もいるでしょう。でもここは、抽象的な表現によって、視聴者それぞれに考えさせようという意図を感じます。そして、昭和の「あの戦争」が2024年にも続いている「あの戦争」に接続するようにも思えるのです。



(文:木俣冬)

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