「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら
2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。
平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結（よねだ・ゆい）は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。
今回は、第108回を紐解いていく。
［※本記事は広告リンクを含みます。］
結と花の距離感
菜摘（田畑志真）の考えた高齢者のためのお弁当企画は、社内の管理栄養士・土屋（森優作）の現場の手間を考えると難しいという意見によって頓挫しました。基本的な話であると菜摘は反省します。お弁当部門ははじめてでも、それまでスイーツ部門の仕事をしてきて、もはや中堅の菜摘がなぜ、現場の手間を考えなかったのか、疑問は残りますが、初心を忘れてしまったということもあるでしょう。お弁当という新たな企画だったので焦ったのかもしれません。
菜摘と結（橋本環奈）と土屋のやりとりを見ていて、筆者が大学出たときまず就職した文具メーカーのことを思い出しました。入社すぐ研修で工場研修し、どうやって商品ができるか身を持って知りましたし、商品企画を出すとき、原価計算もしました。お金にうるさい課長にいつも厳しいチェックをされ、なかなか企画会議に出せるまでに至らないということがよくありました。だから部長と相性が悪く企画が通らない菜摘の気持ちもわかりますし、なぜ、こんな初歩的な失敗を菜摘がして、結に謝罪するエピソードになってしまうのか、ちょっとドラマの練りがなくイージーかなと感じました。そもそも土屋という栄養管理士が社内にいるにもかかわらず、彼をさしおいて、栄養管理士の監修メニュー企画を動かしているのもなんだかへんな感じがします。土屋さんにもっと気を使ってあげて。
理想と現実の違いが今週のテーマです。ドラマ作りにも理想と現実があるのかもしれません。結は結で、子育てに悩みが。花（宮崎莉里沙）がしょんぼりしているので話を聞くと、練習試合で失敗して、翔也（佐野勇斗）に悲しませることを気にしていたのです。
花がいつの間にか、父のためにサッカーをやっていると気付いた結は、自分のためにやることをアドバイスしますが、花は父を喜ばせたいのだと反発します。
しょげている花と結の距離感が遠いという声がSNSであがっているのを見ました。この距離感だからこそ、花の気持ちと結の気持ちが遠いことの現れでしょう。結は、子育ての理想と現実に悩んでいますが、まずはこの距離を縮めることを考えるほうが得策ではないでしょうか。花が父にべったりで、結に反抗するのは、結が自分にかまってくれないからさみしいのではないでしょうか。
花のこの感じ、既視感あります。再放送中の「カーネーション」です。糸子の三女・聡子は、得意のスポーツで大活躍しても、糸子がまったく興味を持ってくれなくて、苛立っていました。結果、糸子と同じファッションの世界に向かうのです。花ちゃんも、私も栄養士になるとかにならないといいのですが。花ちゃんには翔也を喜ばせてあげてほしい。
悩んでいる結のところへ、久々にハギャレンが集合し、気分転換。きっかけは、歩（仲里依紗）。彼女が立ち上げたファッションブランドを、リサポン（田村芽実）の雑誌で紹介してもらおうと神戸に呼び出したのです。なんで呼び出す？ ハギャレンの上下関係を利用するのではなく、あくまでビジネスとしてと礼儀正しく挨拶する歩ですが、大阪に呼び出している点ですでにハギャレンの上下関係を利用している印象です。数枚のサンプルを渡し、あとは事務所に送るという歩。その服に一言の感想もないリサポン。ビジネスライクに徹しているのかもしれませんが、礼儀として、感想を述べてもいいのではないかと感じます。などという小姑感想は、リサポンが結の家のソファに寝そべっている画で吹っ飛びました。なんて、のびのびとした、猫を愛でるような気分になる画。別の番組かと思った。
スズリン（岡本夏美）がネイルサロン経営から、熊本のみかん農家に嫁いだと言い、休みの日にはネイルしていると見せたネイルはみかん色だったのも良い。スズリンが農家を選んだのは、結の「おいしいもの食べたら云々」の助言を覚えていたからでした。
ドラマの終わりが近づいているので、登場人物の来し方行く末がまとめられていきます。商店街の高橋（内場勝則）が急に商店街を出ていくと言い出して……。いったい何が。久しぶりにヘアサロンヨネダに常連が集っていますが、高橋の話を聞いても美佐江（キムラ緑子）がおとなしい。最近元気ないと菜摘が言ってたとおりです。高橋の衝撃発言より、美佐江のこの反応の薄さが気になります。
気になるといえばもう一点。ドラマの序盤、2004年の糸島の玄関には確か、玄関にヘルメットや懐中電灯などがぶらさがっていました（第７話）。これは阪神・淡路大震災を経験したゆえの防災的観点だと思ったのですが、2019年での結のマンションの玄関にはそういう準備が見られません。この時代こそ玄関にヘルメットや防災グッズを配置したほうがいいのではと余計なお世話ですが思いました。ただ、必ず玄関に置かなくてはいけないわけではないですし、いま思えば、あれは単に糸島という土地柄ゆえ（夜は暗いとか、農家の作業や自転車使用にヘルメットが必要とか？）だったのかもしれません。最初は、震災が題材のドラマと思って肩肘張って見ていたので、防災グッズに見えていただけだったのかもしれません。かように人間の感覚はとかく曖昧なものであります。
（文：木俣冬）
木俣冬著「ネットと朝ドラ」、現在好評発売中
–{「おむすび」第22週あらすじ}–
「おむすび」第22週あらすじ
第２２週「理想と現実って何なん？」 3 /3-3 /7
結（橋本環奈）は、友達でコンビニの商品開発部に勤めている菜摘（田畑志真）から高齢者向けの弁当を開発したいと相談され、栄養士なりの意見を言う。
それがきっかけで、菜摘の上司から管理栄養士との共同開発の提案があり、結は栄養科長の塚本（濱田マリ）が見守る中、その開発に関わっていく。
一方、歩（仲里依紗）は新ブランドを立ち上げるべく事務所を構え、ギャル仲間たちや佐々木佑馬（一ノ瀬ワタル）とともに始動し知名度アップの策を練る。
–{「おむすび」作品情報}–
「おむすび」作品情報
放送予定
2024年9月30日（月）より放送開始
出演
米田結（よねだ・ゆい）／ 橋本環奈
『おむすび』の主人公。平成元年生まれ。 自然豊かな福岡県・糸島で、農業を営む家族と暮らしている。 あることがきっかけで、人々の健康を支える栄養士を志すようになる。
【結の家族・米田家の人々】
米田歩（よねだ・あゆみ）／ 仲里依紗
主人公・結の8つ年上の姉。
福岡で“伝説のギャル”として知られる。 奔放な振る舞いで米田家に波乱を巻き起こすが、ギャルになった裏にはある秘密が…。
主人公・結の父。 娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。
米田聖人（よねだ・まさと）／ 北村有起哉
主人公・結の父。
娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。
米田愛子（よねだ・あいこ）／ 麻生久美子
主人公・結の母。
結の祖母・佳代と家事をしながら、聖人の営む農業を支えている。 絵を描くのが得意。
米田永吉（よねだ・えいきち）／ 松平健
主人公・結の祖父。
野球のホークスファンで、自由奔放な“のぼせもん”。 困っている人がいたら放っておけない、情に厚い性格。
米田佳代（よねだ・かよ）／ 宮崎美子
主人公・結の祖母。
古くから伝わる先人たちの知恵に明るく、結が困った時の良きアドバイザーでもある。
【福岡・糸島の人々】
四ツ木翔也（よつぎ・しょうや）／ 佐野勇斗
福岡西高校に野球留学中の高校球児。
四ツ木という姓と眼鏡姿から「福西のヨン様」と呼ばれている。 糸島に練習場があり、結と時々出くわす。栃木県出身。
古賀陽太（こが・ようた）／ 菅生新樹
結の幼なじみで高校のクラスメイト。野球部員。
父は糸島の漁師だが家業を継ぐ気はなく、IT業界を目指している。 ある約束により、結のことを何かと気にかけている。
風見亮介（かざみ・りょうすけ）／ 松本怜生
書道部の先輩。
結にとって憧れの存在。 書道のイメージを一新するような書家を志している。
宮崎恵美（みやざき・えみ）／ 中村守里
結のクラスメイトであり、高校での最初の友達。
結を熱心に書道部へと誘う。 派手なギャルが苦手。
真島瑠梨（ましま・るり）＜ルーリー＞／ みりちゃむ
結の姉・歩が結成した「博多ギャル連合」（略してハギャレン）の、現在の総代表。
ハギャレンの復興を目指している。
佐藤珠子（さとう・たまこ）＜タマッチ＞／ 谷藤海咲
ハギャレンのメンバー。
子どものころからダンス好きで、ハギャレンではパラパラの振付を担当。 筋が通らないことを良しとしない、一本気タイプ。
田中鈴音（たなか・すずね）＜スズリン＞／ 岡本夏美
ハギャレンのメンバー。
結と同い年で、いつもスナック菓子を食べている。 手先が器用で、ネイルチップ作りが趣味。
柚木理沙（ゆずき・りさ）＜リサポン＞／ 田村芽実
結のクラスメイト。
学校では校則を守るおとなしい女子高生だが、実は隠れギャル＆ハギャレンメンバーでもある。ギャルの歴史を本にすることが夢。
ひみこ ／ 池畑慎之介
糸島の「スナックひみこ」の店主。
年齢、性別、経歴、すべてが不詳の謎の人物。 糸島の住人一人一人の事情をなぜか把握している。
草野誠也（くさの・せいや）／ 原口あきまさ
糸島の商店街で陶器店を営んでいる。
ホークスの大ファン。
古賀武志（こが・たけし）／ ゴリけん
結の幼なじみ・陽太（ようた）の父親。
糸島で漁師をしている。
大村伸介（おおむら・しんすけ）／ 斉藤優(パラシュート部隊)
糸島の商店街で薬店を営んでいる。
ホークスの大ファン。
井出康平（いで・こうへい）／ 須田邦裕
結の父・聖人（まさと）の幼なじみ。
糸島の農業を何とかしたいと日々奮闘している。
佐々木佑馬（ささき・ゆうま）／ 一ノ瀬ワタル
結の姉・歩と行動を共にする“自称・米田歩のマネージャー”。
大河内明日香（おおこうち・あすか）／ 寺本莉緒
結の姉・歩と対立していた、元天神乙女会のギャル。
飯塚恭介（いいづか・きょうすけ）／ BUTCH
福岡県博多のカフェバー「HeavenGod」の店長。
作
根本ノンジ
音楽
堤博明
主題歌
B’ｚ「イルミネーション」
ロゴデザイン
大島慶一郎
語り
リリー・フランキー
制作統括
宇佐川隆史、真鍋 斎
プロデューサー
管原 浩
