2025年6月20日(金)より公開されるアイスランド映画『突然、君がいなくなって』は、第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門のオープニングを飾り、ヨーロッパ各地の映画祭を経て、ついに日本へとやってくる。
静かに、けれど確かに心を揺さぶる“喪失”の記憶。
大切な誰かを失った10代・20代の若者たちが、その痛みとどう向き合い、どのように“再生”を遂げていくのか——。
本作を軸に、ジャンルを越えて選んだ3作品をあわせてご紹介したい。
『突然、君がいなくなって』(2025)

© Compass Films , Halibut , Revolver Amsterdam , MP Filmska Produkcija , Eaux Vives Productions , Jour2Fête , The Party Film Sales
喪失は、ある日、突然やってくる。
美大に通うウナにとって、恋人ディッディとの関係は唯一無二の心の支えだった。
しかし、彼には遠距離恋愛中の恋人クララがいて、二人の関係は秘密のままだった。
ある日、ディッディはクララに別れを告げるため家を出るが、その道中で事故に遭い、命を落としてしまう——。
愛する人の死を誰にも語ることができないまま、ウナは深い悲しみと孤独を抱える。
そしてその前に、ディッディの“本来の恋人”クララが現れたとき、2人の女性は否応なく向き合うことになる。
静謐な映像と、抑制された感情の奥に溢れる喪失の痛み。
ウナやクララ、そして彼らの周囲にいた仲間たちの姿は、まっすぐで、不器用で、だからこそ美しく切ない。
監督は、北欧の俊英ルーナ・ルーナソン。

音楽にはヨハン・ヨハンソン(『メッセージ』『博士と彼女のセオリー』)の静謐な旋律が胸を打つ。
“その死を、心でどう受け止めるか”。
10代・20代の誰しもが抱えた経験の中に、この映画はそっと寄り添う。
© Compass Films , Halibut , Revolver Amsterdam , MP Filmska Produkcija , Eaux Vives Productions , Jour2Fête , The Party Film Sales
『突然、君がいなくなって』
2025年6月20日(金)
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:ルーナ・ルーナソン
撮影:ソフィア・オルソン(『サーミの血』「ザ・クラウン」)
音楽:ヨハン・ヨハンソン(『メッセージ』『博士と彼女のセオリー』)
出演:エリーン・ハットル、ミカエル・コーバー、カトラ・ニャルスドッティル、バルドゥル・エイナルソン、アゥグスト・ウィグム、グンナル・フラプン・クリスチャンソン2024年/アイスランド=オランダ=クロアチア=フランス/アイスランド語/80分/ビスタ/
原題:Ljósbrot/英題:When the Light Breaks 【PG12】配給:ビターズ・エンド 後援:アイスランド大使館
© Compass Films , Halibut , Revolver Amsterdam , MP Filmska Produkcija , Eaux Vives Productions , Jour2Fête , The Party Film Sales
『くれなずめ』(2021)

(C)2020「くれなずめ」製作委員会
──「ある日突然、友人が死んだ。僕らはそれを認めなかった。」
高校時代の“帰宅部仲間”6人が、友人の結婚式で久しぶりに集まった。
披露宴の余興で再び踊る「赤フンダンス」は滑り、気まずい空気の中、彼らはかつての友情、忘れていた記憶、そして“ある死”と向き合っていく。
日常の延長線上にあるような緩やかな時間。
その裏に少しずつ滲む喪失の輪郭。
語られない感情が、やがて言葉となって溢れ出したとき、私たちは自分自身の「過去」に触れる感覚を覚えるだろう。
松居大悟監督の実体験をもとにした本作は、誰もが経験する“あの頃”への郷愁と、“今”を生きる痛みが繊細に交錯する青春群像劇。
成田凌、高良健吾、若葉竜也らの演技が心に響く。
(C)2020「くれなずめ」製作委員会
『僕らのままで/WE ARE WHO WE ARE』(2020)

(C) 2020 Wildside Srl – Sky Italia – Small Forward Productions Srl
誰とも違う“自分”を生きようとする少年フレイザー。
彼は、イタリアの米軍基地に住むことになり、隣に住む少女ケイトリンと出会う。
新しい土地、異なる文化、曖昧なアイデンティティ。
そして、若さの中に芽生える痛み。
ドラマの終盤、彼らは思いもよらぬ“死”に直面する。
それは、自分の輪郭を知るために避けて通れない現実だった。
監督は『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ。
イタリアのまばゆい景色と共に描かれる、まるで現代詩のような8話の連続ドラマだ。
少年少女の言葉にならない感情を、丁寧に紡ぐその映像美とリアリズムは、まさに“失われた何か”に手を伸ばす行為そのもの。
(C) 2020 Wildside Srl – Sky Italia – Small Forward Productions Srl
劇場版『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』(2013)

(C)ANOHANA PROJECT
──亡くなったはずの“めんま”が、目の前に現れた。
幼いころ「超平和バスターズ」と名乗っていた6人組は、ひとりの仲間の死をきっかけにバラバラになった。
月日が流れ、成長した彼らのもとに、亡きめんまの幽霊が突然現れる。
“願いを叶えてほしい”と訴えるめんまの言葉に導かれるように、かつての仲間たちは再び集まり、彼女の「本当の願い」を探しはじめる——。
テレビアニメで社会現象を巻き起こした本作の劇場版では、物語の核心部分とその「その後」が描かれ、より濃密なエモーションを届けてくれる。
友情、恋、死、そして未来。アニメであることを超えて、青春の痛みと希望を描ききった珠玉の一本だ。
終わらない喪失の先に、再生はある。
“喪失”とは、いつでも私たちのすぐそばにある。
それは人間関係の断絶かもしれないし、愛する人との別れかもしれない。
しかし、そこに“再生”という光が差し込むとき、人はまた一歩、前に進める。
今回紹介した4作品は、それぞれ異なる国やジャンルで語られながらも、“若者たちの喪失”という普遍のテーマを見つめている。
『突然、君がいなくなって』のウナやクララが抱える痛みも、きっと誰かの胸の奥にある“あのとき”と呼応するはずだ。
そして、涙の先にあるささやかな“希望”が、きっとあなたを包んでくれる。