感動作「ありがとう、トニ・エルドマン」意外な全裸と濃厚SEXシーンが!

(c)Komplizen Film

数々の海外有名映画雑誌でも、2016年のベスト1作品に選ばれたことで、公開前から日本の映画ファンの間でも話題になっていた作品。
それがこの、「ありがとう、トニ・エルドマン」だ。
6月24日より全国公開中の本作を、今回は公開初日の最終回で鑑賞して来た。非常に前評判と評価が高い作品だけに、この日の場内はほぼ満員。ただ若干不安なのは、本作の上映時間が162分もあるという点!どう考えても地味な感動作としか思えない本作の上映時間が、なんとあの「トランスフォーマーズ」並みって?
さあ、気になるその内容は、果たしてどうだったのか?

ストーリー

コンサルタント会社で働く娘・イネスと、父親のヴィンフリート。性格も正反対なふたりの関係はあまり上手くいっていない。たまに会っても、イネスは仕事の電話ばかりして、ろくに話すこともできない。そんな娘を心配したヴィンフリートは、別人<トニ・エルドマン>となって、イネスの元に現われる。職場、レストラン、パーティー会場、神出鬼没のトニ・エルドマンの行動にイネスのイライラもつのる一方。しかし、ふたりが衝突すればするほど、ふたりの仲は縮まっていく・・・。

お互いに素直になれない父と娘。その和解までを描く感動作!

実は本作鑑賞後のネットでの評価は、見事に真っ二つに分かれている。

「素晴らしい!」「感動した!」という高評価と、「何も起こらないのに上映時間がやたら長い」、「父親のウザいギャグや悪ふざけを延々見せられるのが苦痛」といった酷評だ。
今回自分が実際に鑑賞した結果、162分という上映時間は全く長くは無く、むしろ体感的には60分程度にしか感じられなかった!

もちろん映画の内容も素晴らしい物だったし、この父と娘がお互いを理解するまでの道のりを描くには、これだけの時間をかける価値がある、むしろそう思ったくらいだ。

ただ、本作は非常にゆっくりとした描き方でストーリーが進行し、しかも一切本編ではBGMがかからない。そのため、確かに自分も冒頭のシーンを見た段階では、「うわ、この感じで160分見せられるのはちょっとキツいかも・・・」そう思ってしまったのも事実。

実は全編BGMを使わない手法は、後半のあるシーンで披露される父娘のピアノを弾きながらのデュエットを、より効果的にするためだと後に判明する。

残念ながら本作には、顔と名前が一致する俳優が一切出演していないのだが、このデュエットシーンの頃には、観客もこの父娘が大好きになっているから不思議だ。それと共に、父親が娘をどれだけ愛しているか、どんなに娘の幸福だけを願って生きているかが、観客にも充分理解出来る様になって来る。

娘の方も、会わずにいた長い時間を飛び越えて、一気に二人の距離を縮めようとする父親に戸惑いながらも、仕事中心の多忙すぎる生活の中、毎日流される様な暮らしに疑問を抱いている。

恐らく本作に対しての低評価は、これらの部分が読み取れなかったり、或いは父親のキャラクターに感情移入出来ない場合が多いのかも知れない。

正直自分も鑑賞前は、父親が一切場の空気や娘の迷惑を考えない、自分勝手な自由人気取りのキャラクターだと思っていた。

しかし、父親を演じるペーター・ジモニシェックの抑制の効いた演技は、幼い頃の娘が喜んでくれた「おふざけやジョーク」を未だに忘れられないでいる、そんな父親の愛情と寂しさを、より観客に伝えることに成功している。

本作には確かにハデな事件や見せ場も無く、登場人物たちの日常をゆっくりと客観的に描くというスタイルのため、こうした細かい感情の動きやちょっとした描写を自分で読み取る努力をしなければ、162分という上映時間を長く感じる場合もあるだろう。

絶賛派か、それとも否定派か?どちらにせよ、鑑賞後にお互いの意見や感想を話題に出来る本作は、充分に優れた映画としての条件を満たしていると言える。

確かに本作は、紛れも無い感動作。でもしっかり変態SEXと全裸が登場する!

そう、実は意外にもこれらの「エロ要素」が、本作にはしっかり登場する!と言ったら驚くだろうか?

まず映画の中盤、娘のイネスと会社の同僚で恋人の男性が、ホテルの一室で繰り広げる濃厚なSEXシーン。これは実際に劇場で見て頂くしか無いのだが、「何でこの感動作に、こんなド変態SEXシーンがいきなり入る?」としか思えない、正に企画物AVも顔負けのSEXシーンが登場するので、ここは是非お楽しみに!

続いて映画の終盤。自身の誕生日パーティーの準備中、イネスがいきなり全裸になり、結局そのパーティーが「全裸以外入場禁止」になってしまうという展開。これも、良く見ていないと非常に唐突で、このシーンが持つ意味を見落としてしまうかも知れない。

パーティーを「全裸以外入場禁止」にしたことで、イネスの恋人と、親友の女性は全裸になることを拒否し、結局彼らとの関係は壊れてしまう。ところが、それまで会社の同僚としての付き合いしか無かった、イネスの助手の女の子と男性上司が全裸でパーティーに参加!

つまり、それまで非常に親しい存在であった二人の方が、実はうわべだけの付き合いであり、余計な殻を脱ぎ捨てた結果、逆に会社の同僚たちとの関係性が深まってしまうという意外な展開に・・・。

実はこれは、父親のヴィンフリートが別人に変装して、イネスとコミュニケーションを取ろうとすることの真逆であり、心を開いて本心を素直に伝えることの重要性を示してくれているのだ。

もちろんここまで深く考えなくても、こうしたシーンは充分に可笑しいので、上映時間の長さがどうしても気になる方は、これらを楽しみに是非劇場に足を運んで頂ければと思う。

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最後に

面と向かって話すと中々素直になれないが、架空の存在やキャラクターの仮面を着けることで、逆に本心が出せて素直に本音で話せる二人。

幾多の紆余曲折と衝突を経て、遂にお互いを理解し合えた父と娘。ラストで娘のイネスが取ったある行動こそ、幸福だった少女時代の思い出の再現であり、これからは父親の様に自由に生きていくという宣言でもある。

これからご覧になる方は、どうかこの愛すべき登場人物たちの行動や感情の動きを見逃すこと無く、父娘が初めてデュエットする歌の歌詞にも注目して頂きたいと思う。その歌詞にこそ、本作が伝えたかったテーマが全て詰まっているからだ。

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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