映画コラム

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2019年10月18日

瀬々監督新作『楽園』を見る前に『アントキノイノチ』もチェック!

瀬々監督新作『楽園』を見る前に『アントキノイノチ』もチェック!



(C)2011「アントキノイノチ」製作委員会 



10月18日から吉田修一原作のサスペンス映画『楽園』が公開されます。

田舎の村で起きた未解決の少女失踪事件から12年後、容疑者とされた男の孤独や住民たちの偏見や軋轢などを描いていく問題作ですが、監督の瀬々敬久は一貫して弱者の立場から人間の心の闇を、時に優しく時に厳しいキャメラアイで見据えていくことに定評のある異能の映画人です。

今回は『楽園』公開を記念して、瀬々監督が2011年に発表した『アントキノイノチ』をご紹介します。

原作はシンガーソングライターとして知られるさだまさしが執筆した同名小説で、こちらも遺品整理の仕事を通して、人間の心の闇に温かな光を差し伸べてくれる秀作です。

遺品整理業に従事する
ふたりの若者の過去


本作の主人公は、父親の紹介で遺品整理業者で働くことになった杏平(岡田将生)。

吃音症に悩みつつ、高校時代の事件がきっかけとなって一度心が壊れてしまい、長らく苦しんできた彼は、そこで先輩社員のゆき(榮倉奈々)と出会います。

手首にリストカットの跡があるゆきはどこか影を秘めつつ、杏平に作業のコツなどを教え、彼もまた仕事を通して苦しみながらも自分の過去と向き合うようになっていきます。

そんな杏平に自分と同じものを感じたのか、やがてゆきも自分の壮絶な体験を伝えるとともに、お互い心を寄せ合っていくのですが、過去を洗い流し切れない彼女は会社を去っていき……。

現在、高齢化社会や貧困に伴う孤独死などが問題となって久しいものがありますが、遺品整理業とはそういったさまざまな人間の死と対峙せざるをえない職種でもあり、また死者が遺した遺品の数々や部屋の中の様子などから、さまざまな人々のさまざまな生き死にの様子に想いを馳せてしまいます。

人は生き、やがて死ぬ。強者も弱者も、差別する側もされる側も、虐げる側も虐げられる側も、どんな人間であろうともそれは等しい絶対的な宿命であり、そして本作は虐げられた弱者の目線から一貫して死を見つめていきます。

「親友をふたり殺した」と自分を責め続ける杏平。

「一度殺された」と告白するゆき。

それぞれの過去に一体何があったのか、決してふたりとも実際に殺してもいなければ殺されてもいない。

しかし、心で殺し、心が殺されることは、生きているうちに幾度かあることかもしれません。

そして心を殺された側がバッシングされ、また心を殺したことを何とも思わない輩が堂々と世間にはびこる理不尽な世の中で心殺された者や心で殺したことを悔やみ続ける者は、一体どうやって生きていけばいいのか?

本作は特にその答えを提示するのではなく、杏平とゆきの弱々しく迷い続けながらも健気で真摯な生き方を示唆しながら、観客ひとりひとりの判断に委ねていきます。

アントキノイノチと
アントニオ猪木



もともと瀬々敬久監督は過剰な説明を排しながら登場人物らが織りなすドラマを魅せつつ、彼らが生きる現実社会との関係性などを観る者の感性に訴えていく異能の才人で、メジャー・エンタメ大作を撮ってもその姿勢を崩すことはありません。

その中で本作は題材的にも感性に訴えかけやすいものがあり、それゆえに公開時から地道ながらもジワジワと支持者を増やしている作品でもあり、またそれは現実社会そのものが社会保障の問題などとも相まって一段過酷になってきていることとも無縁ではないでしょう。

また2019年の今の目線で見直すと、岡田将生と榮倉奈々のみならず、松坂桃李や染谷将太、大賀といった現代日本映画界を支える実力派スターの初々しい時代の輝きを再確認することもできるしょう。

ところで本作のタイトルからアントニオ猪木を彷彿させてしまう方も多くいらっしゃると思いますが、その通り、本作は猪木なしには成立し得ないものがあります。

それはクライマックスで微笑ましくも感動的に明らかになりますので、どうぞそのことも期待しながら、弱き者=ごくごく普通の人間たちの真摯な生き様を通した生と死との対峙を見据えてみてください。

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(文:増當竜也)

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