映画『ハチ公物語』、秋の到来を感動の涙で!

今も渋谷駅での待ち合わせ場所として忠犬ハチ公の銅像は多くの人々に親しまれていますが、実際なぜそういった銅像がそこに建立されているのか? といった理由を知らない若い世代も徐々に増えてきているのではないでしょうか?

また、そのエピソードを基に昭和の終わり(1987年)に作られた映画『ハチ公物語』が日本中で大ヒットし、日本中をぼうだの涙で覆いつくしたことも……。

そろそろ秋、世の憂さを本作の感動の涙で洗い流してみてはいかがでしょうか?

渋谷駅で主人の帰りを待ち続けた
犬のハチ公、その実話の映画化

『ハチ公物語』は実話を基にした映画です。

舞台は大正から昭和にかけての時代。

秋田で生まれた秋田犬の子どもたちの1匹が、東京の大学教授・上野秀次郎夫妻(仲代達矢&八千草薫)の家に引き取られることになりました。

子犬はハチと名付けられます。

昔飼っていた犬を亡くして以来、生き物を飼うことを躊躇していた秀次郎ではありましたが、やがて生来の愛犬家としての血が騒ぎ、いつしか溺愛スイッチがON!

ハチもまた、彼の寵愛を一身に受け止めながら、そのうち彼が出勤するのを渋谷駅まで送り迎えするのが日課となっていくのでした。

しかしある日、秀次郎は急死……。

以後、独りとなった静子は娘の嫁ぎ先に身を寄せることになり、やむなくハチはよそに引き取られることに。

そこからハチは飼い主を転々としていく流転の人生ならぬ犬生を過ごすことになっていきます。

それでもハチは、毎日夕方になると渋谷駅に出向いては秀次郎の帰りを待つのでした……。

忠犬、美談といった虚飾を
避けながらの真の感動

本作は数奇な運命を辿ったハチの生涯を基軸に、人と犬のふれあいの尊さを虚実交えた感動作として描いていきます。

実際に映画の中で描かれているエピソードが全て事実かどうか、現在ではさまざまな異説もあるようですが、本当の事実は一つとしても、それを捉える人々の無数の真実の想いのひとつとしてみなすのが得策ではないかとも思われます。

ただし戦前戦後の昭和期に強調されていた“忠犬”とか“美談”といった虚飾的要素から本作は極力離れながら、その上で人と犬との関係性の深さみたいなものを描出しようと腐心しているかのようです。

そこには本作の製作・奥山和由、脚本・新藤兼人、監督・神山征二郎といった骨太の映画人による信念も大いに影響していることも間違いないでしょう。

(ちなみにこのトリオは、本作の後も野口英世とその母の愛情を主軸に据えた『遠き落日』、宮澤賢治の生涯を描いた『宮澤賢治、その愛』といった古き良き日本の情緒を湛えつつ偉人の美談に終わらせないヒューマン映画を連作しています。

画期的なのは、当時の渋谷駅前を再現した一大オープンセットを築いての撮影で、今ならCG合成とかで処理してしまうところでしょうが、昭和のカツドウヤ魂みたいな気概はこういったところからも如実に感じられてなりません。

こうした作り手側の意欲は多くの観客を感動へと導くことになり、配収20億円という1987年度の邦画配収第1位を計上し、今なお語られる名作として屹立しているわけです。

2007年にはアメリカでリチャード・ギア主演『HACHI 約束の犬』としてリメイク映画も作られました。監督は『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』など犬をモチーフにした作品を手掛けたら右に出る者はいないラッセ・ハルストレム。

どうやら人と犬の心の絆とは、世界中どこへ行っても変わることはないようですね。

(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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