2020年も恐怖が熱い!マニアックJホラー映画5選

美しくも哀しいオリエンタルな
杉野希妃監督・主演の『雪女』

雪女 [DVD]

さて日本古来の怪談話といえばJホラーの原点であるとともに、恐怖性もさながら人間の業などがもたらす悲劇性までもその奥に潜ませ、時のそれは悲しいまでの美を醸し出すこともままあります。

女優として、監督として、プロデューサーとして現在世界を股にかけて活躍中の国際的映画人・杉野希妃が監督・主演を務めた『雪女』(17)もまた小泉八雲が日本各地の怪伝説を収めた『怪談』の中の『雪女』を新たな解釈で描き、愛の悲劇を究極の美学の域にまで高めた作品です。

お話はある吹雪の夜、猟師の巳之吉(青木崇高)は山小屋で雪女(杉野希妃)が仲間の茂作(佐野史郎)の命を奪う惨状を目のあたりにして恐怖に震えますが、このことを誰かに口外したら殺すと告げられつつ、彼の命は救われます。

その翌年、巳之吉は美しい女性ユキ(杉野希妃)と出会い、結婚。まもなくして娘のウメを授かります……。

と、ここまではみなさんご存じのお話ですが、映画はそこから14年後へ一気にスキップします。

美しく聡明な少女に成長したウメ(山口まゆ)。

そんなある日、茂作の親戚が山小屋で凍死するという不可解な事件が起きてしまい、巳之吉はかつての惨事を思い出し、やがてユキが雪女なのではないかと疑うようになっていくのです……。

冒頭の吹雪の夜の惨劇シーンはモノクロで、そこまでは時代劇かと思わせつつ、画に色がついてからは和服と洋服が混在し、電気も通っている戦後昭和あたりを想定しているかのようなパラレルワールド的設定であることが徐々に明らかになっていくとともに、日本的な風景を幽玄ながらもどこかエキゾチックにも映える映像センスをもって貫きながら異彩を放っていくことで、日本映画と呼ぶよりもアジア映画と呼ぶほうが似つかわしいものになっています。

『ピクニックatハンギングロック』(75)などを彷彿させられる少女たちの美しくも慎ましやかな儀式があったかと思うと、成長したウメたちが提灯ブルマ姿で体操するシーンなども不可思議なファンタジック性とノスタルジー性を大いに高めてくれています。

そして何よりも杉野希妃が演じるヒロインのオリエンタルな美しさ!

これまで雪女といえば小林正樹監督『怪談』(65)の岸惠子や田中徳三監督『怪談雪女郎』(68)の藤村志保あたりを即思い出すことができますが、杉野“雪女”も先達とはまた大いに異なる妖しい魅力を放ちながら、新しくもどこか懐かしい雪女像を具現化させています。

また義母役の宮崎美子や祖母役の水野久美といったベテラン女優のリスペクト的な活かし方も、杉野監督ならではのキャメラアイの賜物でしょう。

正直なところ、ホラーの枠に括ることに抵抗を覚える向きもあるかもしれませんが、恐怖の原点とは哀しみの美学であるとみなせば、本作もまた見事なまでに美しくも哀しい静謐なホラー映画であるともいえるでしょう。

恐怖そのものを追求した作品ではないので、怖くはない。しかし、幽玄な世界観の中からなにがしかの人間の営みの哀しさが確実に醸し出されていく秀作であることも間違いありません。

映画の配信情報をチェック!
                  

ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

ピックアップ

新着記事

WP Facebook Auto Publish Powered By : XYZScripts.com