映画のファンタスティック性を『ジェーン・ドウの解剖』から考える

ジェーン・ドウの解剖

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ファンタスティック。それは映画をジャンル分けするとき実に便利な言葉で、『ゴジラ キングオブモンスターズ』のような怪獣映画も『貞子』のようなJホラーも等しく“ファンタスティック”映画と呼称することができます。
いや、そもそも映画そのものをファンタスティックなものと捉えたら、すべての映画はファンタスティックの範疇に入れることができるのかもしれません。

今回ご紹介する映画は『ジェーン・ドウの解剖』です。
“解剖”と邦題にあるからには、さすがにちょっとグロいホラーかなと予想させるものはありますが、これが結構それだけではすまされない、実に見事なファンタステイック映画なのでした!

身元不明の死体を解剖する
父子に訪れる恐怖

『ジェーン・ドウの解剖』の主人公はトミー(ブライアン・コックス)と息子のオースティン(エミール・ハーシュ)。バージニア州の田舎町で遺体安置所と火葬場を経営し、検死官も務めています。

ある日、一家3人が惨殺された家の地下から身元不明の若い女性の全裸死体(オルウェン・ケリー)が見つかり、トミーとオースティンが検死解剖することになります。
(ちなみにアメリカでは身元不明の女性の死体をジェーン・ドウ、男性の場合はジョン・ドウと呼ぶのが通例とのことです)

死因は不明で、まるで生きているかのように新鮮な彼女の遺体検死を開始したふたりですが……、まず目の瞳は灰色に曇っていて、舌がちぎりとられ、鼻の穴から虫が出ていき、口中からは糸を発見。

しかし外傷はありません。

いよいよ解剖を始め、その体にメスを入れると、その肺は火傷を負って真っ黒に焦げており、心臓には切り取られたような傷痕、手首と足首は骨折しており……。

同時に建物の中では次々と不可解な現象が巻き起こるようになり、不吉な予感を察したオースティンは解剖の中止を申し入れますが、死因の究明を急ぐトミーは続行します。

すると、胃の中から奇妙な文様の布切れが出てきて、皮膚の内側にも同様の文様の刺青が施され……。

グロテスクで悪夢的ながらも
甘美な趣きも伴う情緒

本作は美しい死体を切り刻んでいくグロテスクな画の羅列から湧き上がっていくかのような、そんな不可解な恐怖を静粛な面持ちで描いた異色作です。

解剖シーンのリアルさはその手のものが苦手な方にはきついかもしれませんが、観ていくうちにこの父子ともども真相を知りたいという欲求が勝ってしまい、次のシーンを心待ちするようになっていきます。

解剖開始前後の不穏な空気感や、ラジオから聞こえてくる不気味な歌詞の歌、嵐に伴う停電の後の怪現象の数々……。

密室に閉ざされてしまう父子ではありますが、実はジェーン・ドウの体内そのものに閉じ込められているのではないかといった迷宮感も伴っており、それは悪夢的ながらもどこか甘美で麻薬のように浸っていたい倒錯観にも見舞われていきます。

ホラーであり、ダークなミステリであり、父と息子の絆も描出されたヒューマニスティックな情緒も漂わせることで一層の恐怖を醸し出す、まさにファンタスティック! な作品。

監督は『トロール・ハンター』で評価されたオランダ出身のアンドレ・ウーヴレダル。

ずっと全裸のまま動くことのないジェーン・ドウに扮したオルウェン・ケリーの冷たい美しさも特筆的で、個人的には『スペースバンパイア』の“最も美しい裸体のバンパイア”ことマチルダ・メイを彷彿させるものがありました。

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(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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