今夏の憂さを晴らす清涼感ある動物映画『子ぎつねヘレン』

いよいよ夏が到来!……ではあるのですが、今年に関してはそんな気分になれないというのも本音のところではないでしょうか。

また7月上旬にしては、まだ冷房も入らないくらい(湿気はありますけど)の体感温度ではあります。

というわけで、今回は少し涼し気(?)な2020年の夏に見合うかのような動物映画『子ぎつねヘレン』(06)をご紹介。舞台が北海道なので、視覚的にもどこか涼し気で良いのです。

目も耳も不自由なきつねと
孤独な少年との心の交流

母親(松雪泰子)がカメラマンとして世界を飛び回っている関係で、一人息子の小学生・太一(深澤嵐)は北海道で動物診療所を営む矢島幸次(大沢たかお)のもとに預けられています。

春のある日、太一は母とはぐれた子ぎつねを見つけました。

そのきつねは頭に怪我を負っていて、まるでヘレン・ケラーのように視覚も聴覚も嗅覚も失っていたのでした。

疫病の感染の危険などもあって、野生動物を人間が飼うことに幸次は否定的ですが、それでも太一はきつねの面倒を見ようとします。

きつねに「ヘレン」と名付け、まるで親代わりのように懸命に育てようとする太一は、幸次に厳しくも温かく見守られながら、いつしか「サリバンくん」と呼ばれるようになっていきます。

しかし、やがてドクター・キタキツネの異名をとる上原教授(藤村俊二)によってヘレンの精密検査が行われることになり、太一のもとから離されることに……。

寂しくも厳しく、そして温かい
人と動物の関係性

本作は獣医師で随筆&写真家でもある竹田津実が記した、目も耳も不自由なきつねの介護エッセイ「子ぎつねヘレンがのこしたもの」を基に、ドラマ・ディレクターとして数々のヒット作を世に送り出す河野圭太が映画初監督した作品です。

ここでは孤独な少年がハンデを負った動物に感情移入しながら少しずつ成長していく過程がメインに描かれていきますが、そんな彼を見守る北海道の雄大な自然もどこかしら寂しげです。

またその寂しさに輪をかけるように少年が妄想するファンタジックな小ネタの数々も、幼さならではの情緒を醸し出しています。

太一を演じる深澤嵐くんの好演もさながら、彼の周囲の人々、たとえば大沢たかおが演じる獣医・幸次は原作者がモデルと思しき人物ですが、動物と人間が共存することの難しさを知るからこそ「自分に何ができるか考えろ」と決して太一を子ども扱いしない、厳しく口も悪い言動の数々の中からそこはかとない温かみが醸し出されています。

また昨年水谷豊監督作品『轢き逃げ 最高の最悪な日』(19)で熱演を示した小林涼子が幸次の娘・美鈴を演じ、まだデビューして間もない時期の初々しくも気丈な姿を披露(彼女が日毎作る動物パンも実に美味しそうです)。

そして何よりも子ぎつねヘレン自身の可愛らしさそのものが本作最大の魅力と言っても差し支えないでしょう。

自然と人と動物のクールな関係性を描出していく名キャメラマン浜田毅の撮影、そこに美しい透明感を補完させていく西村由紀江の音楽などさりげなくも秀逸なスタッフワーク、加えてレミオロメンのエモーショナルな主題歌も効果的。

総じて蒸し暑く、公私ともに気持ちも悶々となり、ともすると苛立ってしまいがちな今年の夏の憂さを晴らしつつ、ひと時の清涼感で心をリフレッシュさせてくれる作品です。

動物好きの方も、そうでない方も、ぜひどうぞ。

(文:増當竜也)

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ライタープロフィール

増當竜也

増當竜也

増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画レビュー・コーナー『戯画日誌』を連載中。近著に『映画よ憤怒の河を渉れ 映画監督佐藤純彌』(DU BOOKS刊)がある。

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