日本映画の海外進出を促進させた怪作『鉄男』

(C)1989 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

現在、日本映画の多くが海外で注目され、評価されるようになってきていますが、かつての黒澤明や溝口健二など20世紀の名匠たちによる旧作だけでなく、現代の、つまりその時代時代の新しい日本映画の息吹を広く世界に知らしめた最初の作品は、やはり塚本晋也監督の『鉄男』ではないかと思います。

80年代末の日本映画界に
風穴を開けた自主映画の鬼才登場!

ある日、ひとりの平凡なサラリーマン(田口トモロヲ)が、自分の頬に金属片のようなトゲが出ているのに気づきます。

その直後、謎の狂暴な眼鏡女に襲われた彼は(ここでの描写が実に暴力的で怖い!)、自分の身体が次第に金属化していくのに気づきます。

ついには、自分の股間のあそこがドリルと化してしまう⁉(このあたりの描写は生理的に正視できない人もいるかも!)

一体、なぜ、彼にこのようなことが起きたのか?

実は、そこには彼に恨みを抱くひとりの男(塚本晋也)の存在がありました……。

幼い頃に見た特撮TVドラマ『ウルトラQ』に衝撃を受けて以来、中学時代から自主映画&演劇活動を始めてきた塚本晋也監督は、88年に『電柱小僧の冒険』でPFFアワードグランプリを受賞。その後、86年に作った『普通サイズの怪人』を拡大解釈させた『鉄男』の制作に入りました。

製作費1000万円、廃物機械などの金属をかき集め、少数スタッフで撮影、四畳半のアパートで編集された『鉄男』は、1989年に東京・中野武蔵野ホールでレイト公開されるや、またたくまに話題となりレイト興行の記録を塗りかえるヒットになるとともに、ローマ国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞し、これが後々の日本映画の海外進出に大きく寄与していくことになったのです。

それまでの日本映画、特に娯楽色の強いものはどうしてもハリウッドなどの外国映画に押されがちで、たまにメジャーがその手の作品を作っても観客をがっかりさせることが多く、もはや日本映画でエンタテインメント作品を作ることは不可能なのかと、時の映画ファンに諦念をもたらし気味ではありましたが、そんな80年代、日本映画界の門戸が閉ざされて久しい中、映画を志す当時の若者たちは8ミリフィルムなどの自主映画製作で道を切り開こうと腐心していました。

塚本晋也監督もその一人です。

しかし彼が他と少し違っていたのは、通常の人間ドラマではなく、映画でなくてはなしえない人間が内包する暴力性をファンタスティック映画のジャンルで描出したことです。

当時、SFXの発達で世界的に特撮を駆使したファンタジックな映画が花盛りな中、日本映画はなかなかその面で苦戦し続けており、そんな中、自主映画からこういった希有なアイデアと暴力的ともいえる映像センスによって、人間の肉体の軋みまでも表現し得た作品が登場したことに、日本はおろか世界中が驚いたのです。

さらにはこういった作品を海外に出品しようと目論む者も、当時はまだ少なかったと思います。その意味でも先見の明があったというべきでしょう。

ちなみに、塚本監督と同時期に自主映画活動に邁進し、やがてプロの世界へ移行していった面々の中に、庵野秀明や樋口真嗣もいます。

この三者、昨年の『シン・ゴジラ』であいまみえることになるわけですが、当時を知る世代としては、もうそれだけで感無量でした。

『鉄男』がもたらした
その後の映画的快挙の数々

さて、『鉄男』のヒットにより、塚本晋也監督は一躍時の人となり、続いて沢田研二主演のダーク・ファンタジー『ヒルコ 妖怪ハンター』(91)を発表しますが、これが『鉄男』が諸星大二郎の名作SF漫画『生物都市』にどこか雰囲気が似ているとの指摘から、同じ諸星原作『妖怪ハンター』の実写映画化は塚本監督に! という多くの諸星ファンの声に応えたものでもありました(現在ブームとなっているファンタスティック漫画の実写映画化の先駆けであり、大成功例ですね)。

それまでイラストレイターやアーティストなどマニアックな活動を果敢に行ってきていた田口トモロヲも、『鉄男』に主演して俳優として大いに飛躍し、その後数々の作品に助演してカルト俳優として名を馳せるようになり、さらにはNHK『プロジェクトX~挑戦者たち~』(00~05)のナレーションで国民的人気を勝ち得ました。そして今では『アイデン&ティティ』(04)『色即ぜねれいしょん』(09)『ピースオブケイク』(15)と、映画監督としても活躍中です。

『鉄男』自体も好評につき、塚本監督は前作とのストーリー的関連性はないものの、描写としてはよりパワーアップした『鉄男ⅡBODY HAMMER』(92)を発表。また海外での人気が昂じて2010年には海外キャストを導入して『鉄男 THE BULLET MAN』を全篇英語で撮り上げています。

2015年には大岡昌平原作の戦場映画『野火』を発表し、人間が戦場で単なる肉の塊と化していく地獄図絵を描いた塚本監督。やはり彼の作家的資質は「肉体と破壊」であり、『鉄男』の頃から何も変わってないことに気づかされます。

いずれにしましても『鉄男』がなかったら、日本映画に現在の飛躍はありえなかったかもしれません。そんな時代の寵児としての名作を、そういった気持ちで接してもらえると見方もまた大きく変わってくるかとは思います。

ちなみに塚本監督、いつかアニメ映画も作ってみたいそうです。

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(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou

    鹿児島県出身。映画文筆。

    朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。

    取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。

    編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊)

    その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。

    ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊)
    現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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